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GⅡー62 深夜の知らせ

 夏の狩りの獲物は小型の物が多い。薬草は変わった注文がたまに出てくる。変わっているだけに、誰でも採取できるというわけではなく、ロディやネリーちゃん達のパーティの良い依頼になっている。

 在のパーティがどの村や町にもいくつかあるのはこの種の依頼を受ける為なのかもしれない。

 野犬や、小さなガトルの群れを相手にできる力量があれば十分だからね。

 それとは対照的に、クレイやグラム達は難易度の高い狩りをしている。尾根をいくつか越えて、往復5日程度の狩りをするのだが、その多くは綺麗な毛皮を目的とした小型の肉食獣の狩りになっている。

 近場の草食動物は町や王都での食肉用だから、私達や他の町からやって来たハンターが依頼をこなしている。


「夏はおもしろい狩りが少ないねぇ、今日は子供達を連れてデルトン草を積んで来たよ」

 ふくよかな体を揺すってテレサさんが笑っている。

 私達より後にギルドに入ってきて、私達の座るテーブルにやってきたのだ。

「ご苦労さまでした。ネリーちゃん達が狩りをしてますから林付近までは安心できます」


 私の言葉に頷くと、キティが運んで来たお茶を美味しそうに飲んでいる。

「まったくさね。あまり面白味は無いけど夕ご飯は美味しく頂けるよ」

 ダイエットはしないんだろうな。旦那もメタボだから似合いの夫婦だけど、その旦那のカインドさんは今日は宿の手伝いらしい。

 2人で顔を見合わせて、テレサさんの冗談に笑い声をあげたところで、ギルドを後にする。

 キティ達はすでに帰っているだろう。オブリーは新たに建設中の教会を身に出掛けたようだ。


 しっかりと国王は約束を守ってくれた。

 今までのログハウス風の教会も良かったけど、今度は少し石材を増やして耐久性を上げるようだ。

 とはいえ、辺境の町の教会だからそれ程立派になることも無いらしい。その辺りのさじ加減は教団の方が行ったんだろう。変に場違いな建物が建つのも問題だろうし、他の町や村から妬まれるとなれば本末転倒になりかねない。

 それでも、前の教会よりは一回り大きいし、宿泊施設も増やすらしい。ちょっとした手術室を作るような話をしていたから、オブリーが将来は常駐することになるのかもしれないな。そこで手術を行える神官を更に増やすことになるのかも知れない。

 冬前には形になるんじゃないかな? かなりの速度で作られているらしいから。


 外は夕暮れで西が赤く色づいている。少しずつ秋が近付いているんだろう。そろそろギルドのメンバーも変わって来るのかも知れない。大型の獣を求めて南の町や村から腕自慢のハンターが集まって来るのももうすぐだ。


「ただいま!」と言って玄関の扉を開けると、すでにネリーちゃん達は帰宅していたようだ。キティ達と一緒に暖炉で鍋を掻き混ぜているところを見ると、今夜はシチューなんだろうか?


「おかえりなさい。もう少しで夕食ができるそうですよ」

 私に笑い掛けながら、テーブルにお茶を用意してくれた。ありがたく頂いて、キティ達の様子を見ると、なんとかネリーちゃんが上手く監督してくれてるようだ。いつも野営の料理では、将来の旦那様が気の毒だ。


「ネリーのところにやって来た2人は上手くなじんでいるようですね。冬の狩りが楽しみです」

「かなり広範囲に動けるでしょうね。罠猟を卒業しても良さそうです。ネリーちゃん達で手に負えなければ、グラム達がいますから」


 自分達で手に負えない狩りをしなければならない時に、どのパーティと組むかはある程度先に考えておいた方が良いだろう。

 クレイ達では、牛刀になるだろうし、ロディは慎重すぎる。グラム達なら丁度良さそうだ。前衛の長剣3人は伊達ではなくなってきた。

 クレイ達もグラム達を高く評価しているようだから、将来のグライザム狩りは彼等が行うに違いない。もう、2、3回グライザム狩りをすれば自信もつくだろう。


「グラム達ですか……。今年で黒2つと聞きました。ネリー達と組んでくれるでしょうか?」

「少しレベル差がありますけど、この町で同じように育った子供達です。他のハンターよりは気心も知れていますし、大型の獣を狩る時には互いを信頼できる事が一番ですわ」


 私の言葉に、ミレリーさんがしっかりと私を見て頷いている。

 ロディ達では少し歳が近すぎるのもあるだろう。グラム達なら良いお兄さんお姉さんだからね。

 人間族6人で、尚且つ慎重派のロディがリーダーだから、冒険はしないだろう。自分達の技量を正しく知ったハンターだから、それなりに頼りにはなるんだけどね。


「明日は私が当番ですの。まだ、採り入れには早いですから、新たなハンターもこの町には訪れませんね」

「でも、その前には秋の薬草採取がありますよ。ダノンが段取りはしていると思いますけど……」

「クレイに遠方を調査させているようですよ。近くは自分で、中間はグラム達でしょうけど」


 ダノンも慎重派の1人だろう。きちんと役割分担を考えているようだ。

 片足を失い両腕を噛まれて死にぞこなっても、それまでの経験をきちんと若手に伝えているから、ダノンを越えるハンターレベルになってもダノンを頼りにするハンターが多い事も確かだ。


「ネリーのところにやって来たあの2人はダノンさんの家を間借りしているらしいですよ」

「2人じゃ寂しいのかしら?」

「それも来春までですね。カンナのお腹がだいぶ大きくなったと、テレサが教えてくれました」


 テレサさんならこの町の状況は誰よりも知ってるんだろう。おばさん連中の情報ネットワークシステムは私の想像をはるかに超える。


「ネコ族の少女がいましたから、頼りになると思ってるんでしょうね」

「女手が小さくともあればだいぶ助かります。私は良い事だと思いますよ」


 ネリーちゃん達の狩りなら、それほど報酬の分配も無いだろうな。貧しい暮らしをしてきてるから、贅沢は思いもつかないだろうけど、ダノン達と暮らすのはあの2人にとっても嬉しい事に違いない。


 ネリーちゃんのパーティの前衛には小型の長刀を、あの2人には穂先を短剣にした手槍を、お祝いに渡しているから野犬を主に狩っているらしい。

 今のところは日帰りの狩りだけど、秋になれば森での一泊位はするんだろう。指導はカインドさん達になりそうだ。


「カインドが目標をガトル20匹に定めてるんですよ。そうなると……」

「ガドラーですか。いずれは通る道ですけど、その時はカインドさんが対処するんでしょうね」

 

 ガトルを専門に狩っていたと言ってたから、それなりに場数をこなしているはずだ。昔の経験は今でも有効と言う事にはならないだろうけど、カインドさんの動きを見ると今でも十分に黒3つの実力を持っている。ガドラー1匹なら容易い獲物だと思う。


「ダノンを次の冬で超えるんじゃありませんか?」

「少なくとも青にはなれるでしょうが……」


 確か、ダノンは青の7つ位じゃなかったかな? あの重傷を負ってからは若手の指導がダノンの主な仕事だ。おのずと狩れる獲物は小型ばかりのはずだからね。

 ミネリーさんの目には、まだまだヒヨコに映っているに違いない。それでも青に達するとは思っているようだ。

 あの2人に期待してるのかな? レベルは低いけど、他の4人が十分に補えるだろうからね。


 食事をしながら、ネリーちゃんに新たな2人の事を聞いてみた。

「獲物を見付けるのが凄く早いんですよ。それに、隠れた野犬を直ぐに見つけてくれます。このまま行けば、今年の冬はガトル狩りです!」

「ガトルの数に注意すれば、十分にネリーちゃん達なら狩れるわ」


 私の言葉に、にこにこしながら頷いている。

 それを羨ましそうに見てるのは、キティとリトネだけどこればかりはしょうがない。まだまだ白には程遠いからね。それでも今年の冬には何とか白になれるかもしれない。けっこうレベルを無視した狩りをしているからね。

                ・

                ・

                ・

 その夜、扉をドンドンと乱暴に叩く音で目が覚めた。素早く着替えて銀のパイプを握ってリビングに下りていく。

 ロウソクの明かりに2人の姿が浮かぶ。1人はミレリーさんだけど、もう1人は……、パメラじゃないか!


「ミチルさん、直ぐに来てほしいにゃ! ムラストの熱が下がらないにゃ」

「良いけど……、どうしてそうなったの?」


 熱が下がらないと言っても、原因は色々だろうに。病気なのか、怪我なのか、それ位は教えて欲しいな。


「パラニアを狩りに行ったにゃ。4匹倒して、5匹目の時に……」

「分かったわ。それなら何とかなるかもしれない」


 爪にやられたようだ。激痛と高熱が特徴だったはず。死ぬことはないが、血液毒だから長く放っておけば壊死の跡が残ってしまう。

 パメラに腕を引かれながら、ギルドに向かった。どうやら、ギルドまで運んで来たらしい。


 扉を開けると、いつものようにテーブルが2つ並べられ、そこに若者が横たわっていた。


「パラニアムを飲ませたの?」

「熱でうなされてましたので……」


 若者の傍で額の汗を拭いていたのは、マリーだった。マリーも知らせを受けて飛んで来たんだろう。グラム達は弟分だからね。姉さんは大変だな。


「問題は傷がどこかなんだけど……」

「右肩にゃ。私を庇ってくれたにゃ」

 

 名誉の負傷って事なんだろう。パメラに迫った爪をとっさに自分の身体で庇ったのだろうが、できれば長剣でパラニアムの腕を跳ね上げて欲しかったな。

 ゆっくりと、革の上着を外して、シャツを脱がせる。

 確かに、右肩に刃物で切ったような浅い傷があった。


「やられたのは今日の昼頃ね。だいぶ壊死の範囲が広がってるわ」

「治るんですか?」

「治るけど、傷は【サフロ】でも消えないわ。それに、しばらくは痛みが続くでしょうね」


 すでに用意されている手術道具を取り出して、準備を始める。傷口の周囲がすでに黒く壊死している。壊死した範囲を切り取って清潔な布で覆って置けば十分だ。ギルドに集められたサフロン草の球根をすりつぶして貰って塗り薬をパメラ達に作らせる。簡単な療法だけど、長く【サフロ】の効果が続くし、痛みも和らぐはずだ。


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[気になる点] 「ミチルさん、直ぐに来てほしいにゃ! ムラストの熱が下がらないにゃ」 「良いけど……、どうしてそうなったの?」 ※読み返して ムラストって、次ページでグラムになってるけど?…
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