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GⅡー60 ガリクスがやって来た


 ガトル狩りが無事に終わったお祝いと、メズーニ狩りの手伝いをして貰った事を理由に、トビー達に小さな長刀とミケル達に手槍をプレゼントしてあげた。

 どちらも杖より少し長い位だけど柄は太いから今まで使っていた得物と比べても余り違和感はないはずだ。

 弓はネリーちゃん達が使えるから、いよいよ広範囲な狩りを始められるだろう。うかうかしてると、グラム達の獲物まで狩るんじゃないかな?

 その辺りは、グラムとクレイに注意しておこう。まだまだヒヨッコだから、ちょっと心配な部分もあるんだよね。


「今日は何を狩りますか?」

「おもしろそうな依頼は無かったの?」


 私の問いにオブリーが首を振る。となると、キティのレベル上げを行う事になりそうだ。キティを連れて掲示板に歩こうとした時、ギルドの扉が乱暴に開かれて、農夫らしい男が飛び込んで来た。

 辺りをキョロキョロ見渡して私を見付けると、息を整えながら歩いて来た。


「親父が、足を……」

「場所は?」

「近くの連中が荷車で運んで来る。俺は一足先にあんたを見付けに来たんだ」


 ギルドで今日の狩りを迷っていたのが幸いだった。

 直ぐに、マリーに手術道具の入ったカバンを持って来させると、テーブルを2つ並べて準備を始める。


「足はどうなったの?」

「俺の鎌が当たって……、骨で止まったんだが」


 秋近くになってきたから麦の刈り入れの大鎌で切ったと言う事なんだろうな。

 場合によっては足が切断されてたかも知れない事態だったんだろう。出血で雑菌が流されてるのを祈るばかりだ。


 リトネとキティは、邪魔にならないように暖炉傍のベンチでミレリーさんと私達の様子を見ているようだ。今日の狩りは午後からになりそうだな。


 ガラガラと荷車の音が聞こえて、ぴたりと止まった。

 2人の男が両脇から抱えるようにして壮年の男を連れてギルドに入ってきた。


「そのテーブルに寝かして頂戴! オブリー、始めるわよ」


 私の言葉にオブリーが頷くと、教えた手順通りに診察を始めた。

 布でグルグル巻きにされた左足を伸ばすと、男が呻き声を上げる。かなりの痛みらしい。


「マリー、パラニアムを飲ませてあげて。かなりの痛みらしいわ」

 すでに用意してたんだろう。小さな器でワインで薄めたパラニアムを飲ませている。傷は深そうだが、痛みを感じるならそれ程ひどくは無いのかも知れない。この季節、農家の人達は大鎌を良く砥いでいるから、切れ味は良いはずだ。切れない刃物より切れる刃物の方が傷口は綺麗になる。


「だいぶ息も静まっています。眠ったようですね」

「それじゃあ、左足の腿から下のズボンを切裂いて頂戴」


 切裂くとグルグル巻きの布が邪魔になる。

 一旦、切裂くのを止めてひざの上で布をきつく巻いて止血をした。

 オブリーと私の身体を【クリーネ】で汚れを落とし、殺菌をしておく。血をたっぷりと吸い込んだ布を切裂き、ズボンの下までハサミで切り開く。


「長剣の傷に似てますね」

「鎌の切り口はそうなるの。使い方は違うんだけど、刃の動きは全く同じ。この傷の処置が出来れば肢体の長剣の傷は同じと考えて良いわ」


「そこの2人。こっちに来て、腰の上と腿を押さえて頂戴。腰には乗った方が良いかも。少し荒療治になるから、暴れられると困るのよ」


 男を運んで来た2人が言われた通りのしたのを確認したところで、ヘラで傷口を開いてみる。


「骨が欠けてますね。確かに骨で止まっています」

「この奥に、血管あるんだけど、幸いにも切られていないわ。これなら簡単な部類ね」


 恐る恐る欠けた骨をくっ付けてオブリーが【サフロ】を掛ける。

 綺麗に骨が癒着したようだ。欠けたのが、小指の爪ぐらいだからこれでいいのだが、ダノンのように大きく欠損した場合には【サフロ】は使えないようだ。比較的小さな傷に有効なんだろうな。

 傷口が綺麗だから内部に血だまりも無い。念のために火酒で傷口を洗うと、ビクリと足が動く。かなり染みるんだろうな。

 深い傷だから、傷口を【サフロ】で塞ぐことはできない。糸で簡単に傷口を縫い合わせると、傷薬を塗り込んだ布をあてがい包帯を巻いた。

 ゆっくりと、腿の止血帯をはずして包帯に血がにじまない事を確認する。


「もし、ここで血がにじむようなら包帯をきつめに巻き直せば良いわ。……はい、終わったわよ」


 傷口から目をそらして私の言う通りに男の上に乗っていた男達に知らせると、よっこいしょと言いながら男から下りて床に立った。

 そんな男達に銀貨を1枚与えて酒でも飲むように伝える。


「でも、その前にこの人を家に連れ帰って頂戴」

「ああ、それ位は言われずにもやるさ」

 

 抱えるようにテーブルの男を両脇から抱きかかえてギルドから出て行った。直ぐに荷車の音が聞こえてきたから、怪我をした農夫の家に連れて行ってくれるのだろう。


「あのう……」

「あら、まだいたの。お父さんの世話をお願いね」


 さっさと、依頼書を探して出掛けるに限る。

 この町の住人は義理堅いから、直ぐにお礼がどうの……という話になってしまう。困った時には甘える位で良いと思うんだけどね。いつでも甘えられても困るけど、その辺りは大人だったら分かるはずだ。


 何度も頭を下げてギルドを出て行った若者がいなくなると、ミレリーさん達と一緒にお茶を頂く。

 シガレイとお茶が達成感を満足させてくれる。


「あれぐらいならオブリーも出来るでしょう?」

「要領は心得ました。先ずは痛みを和らげて血を止める。その後に傷の深さを調べて措置と言う事ですね」


「そんな感じよ。血を止めるのが先なんだけどね。けっこう暴れるから、パラニアムが無い時には口に何かを加えさせて力ずくで押さえなさい。ところで、魔法は手に入れたの?」


 手術のやり方では、【クリーネ】と【サフロ】は必携だ。【デルトン】もあれば良いのだが、薬で代替もできるだろう。


「神官様に頂きました。使用回数は5回がやっとです」

「十分よ。王都に戻ったなら、魔導士と一緒に仕事をすれば良いわ。いない時でも、5回を全て使うのはそれ程多くは無いわ」


 今回でも【クリーネ】と【サフロ】を1回ずつだ。傷口や自分の手の殺菌は火酒を使えば十分だろう。あえて【クリーネ】を使うのは細菌の知識が無いこの世界では問題が多いはずだ。


「まだまだ経験が足りません。レイリル殿は1年ほどで十分に学んだと聞きましたが……」

「たまたま、あの頃は怪我をする人が多かったのかも、重傷者は早々出ないわよ」


 確かにあの頃は多かったような気がする。

 私がこの町にいない間はそれ程無かったようだ。年に数人が怪我をして、廃業する者や亡くなった者もいるらしいのだが、昔はもっと多かったようにも思える。

 ギルドまで連れて来れれば良い方だ。大半がその場で仲間から慈悲を与えられていたんだけどね……。

 それだけハンターの自己管理が進んだんだろうか?あまり変わっていないようにも思えるんだけど。


「確かにハンターのけが人は少なくなりました。私が現役時代は、ギルドに戻ってくるたびに怪我の話はしょっちゅうでしたよ。無理な依頼をダノンさん達が止めているのが良い方向に行ってるんでしょうね」

「ミレリーさん達もその一環ですからよろしく頼みます」


 私の言葉にころころと笑っている。

 それは、ハンターを一歩退いた自分達の義務と思っているのだろうか?

 他の辺境の町や村もこんな感じのシステムを作れれば良いんだけどね。


 バタンと扉が開くと見知った男が入ってくる。カウンターに寄らずに真っ直ぐに私達のところにやって来たのはガリクスだ。1人でやって来たのかな?


「オブリー、ちょっと用事が出来たみたいだから、森の斜面でキティ達にラビーを狩らせてくれない? 簡単な1日で終わる狩りを選んでね」

「分かりました。キティ、リオネ行くわよ!」


 キティが私に片手を振って掲示板に向かった。オブリーがいればもう少し上級の依頼も十分にこなせるだろうが、この後のガリウスの話が心配だ。いったい何を知らせに来たんだろうか?


「済まんな。だいぶゆっくりしているようだが?」

「暇ってわけじゃないわよ。さっき、足を切った農夫の手当てを済ませたところなの。ガリクス1人と言う事は、何か王都での困りごと?」


 私の言葉を聞き流して、マリーにお茶を頼んでいる。苦笑いをしているのは、当たってるって事なのかな?


「隠し立てが出来んな。ちょっとした相談ではあるのだが、王都で問題になっているわけではない。どちらかというと、公爵殿の悩みというところだ」


 ガリクスがやって来たところを見ると、次期公爵とその仲間ということでは無い。となれば……、プレセラと言う事になるんだろうか?

 マリーが私達の分までお茶を運んでくれた。

 とりあえず、シガレイを咥えてガリクスの話を聞かねばならない。


「ミチル殿が指導したプレセラ達だ。同じレベルの連中とは格段に上を行く。しばらく俺達が指導しようと言う事になったのだが……」


 そう言う事か。それはやらない方が良いだろうな。ガリクス達は公爵の手足となって王国内の町や村を巡っているはずだ。ある意味、貴族達の領内視察を兼ねている。王都でいくら権勢を誇っている貴族でもその領地経営に難があるようであれば、国王は直ぐに貴族の降格を行う。

 国王直々の監察官だけでは気付かない事も色々とあるだろう。その穴を埋めるのは貴族の筆頭である公爵の裏の仕事でもあるわけだ。

 そこに、プレセラ達が同行するとなると、いらぬ心配を与えかねないと言う事なんだろう。自分達の調査もやり難くなりそうだ。

 かといって、彼等は駐留貴族の子供達、今後の指導をどうするかというのも考えなければならないと言う事で悩んでるんだろうな。


「プレセラ達に、黒1つ位のネコ族もしくはイヌ族の指導員を付ければ良いわ。出来ればその選定を、国王もしくはご隠居にして貰うのが一番なんだけどね」

「確かに彼等にはそれが一番だが、国王の推挙となるとそう簡単ではないぞ!」


 公爵も考えてたってことだな。なら話が早い。


「プレセラを目にしたいのは国王だから、耳打ちするだけで動いてくれるわよ。具体的には王国軍の中から人材を探してくれるはずだわ。私が書状を書いても良いけど?」

「いや、そこまではいらんだろう。要するに、国王はプレセラ達を知っていると言う事になるのだが……」


「知ってるわ。将来を考えてベクトをプレセラに入れたのよ。あれは青畑買いの一種と見るべきでしょうね。貴方達と同じように王国内を巡ることになると思うわ。とはいえ、自分達の技量は知っているはずだから無理はしないはずよ」

「そこまでベクトを買うのか?」


「ベクトを誰がプレセラに参加させたかはガリクスも知ってるでしょう? 一度私を訪ねて来た時に聞いてみたの」


 ガリクスがじっくりと目を閉じて考えていたが、やがて小さく頷いた。


「確かに……。そう言うことか。なら公爵が耳打ちすれば全てが上手く行くと言う事だな」

「そう言う事。アネットなら適任なんだけどね」


 私の言葉に苦笑いをして頷いている。

 ガリクス達のパーティの貴重な人材だから、他のパーティに渡すわけにもいかないだろう。アネット並みの人材を軍の中から見つけ出すのは、簡単そうで意外と難しいのかもしれないな。


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