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GⅡー58 擬態する魔物

 北の門を出て直ぐに荒地の坂を下る。

 この辺りでも、2組のパーティが薬草を採取していた。レベルが低いのか、当座の宿代を稼ぐのかは分からないけど、子供達が荒地の上の方で薬草を採取しているから、彼等がいてくれるだけでも安心できる。


 森の手前で昼食を取る。森の中では焚き火が出来る場所が限られているし、今日の野営は森の出口付近になるはず。無理をすることは無い。


「私達でガトル10匹はまだ早いんじゃないかと……」

「そうでもないわ。スノウガトルの時には10匹近く倒してるでしょう? ガドラーはまだ無理だけど、10匹程度の群れなら十分に対処出来るわ」


 ロディー達が今までそんな狩りが出来ないくらいに頑張っていたに違いない。ある意味、町のハンターらしい行動ではあるのだが、それでは少し過保護になってしまい、下のハンター達が伸び悩んでしまう。

 それに、ネコ族とイヌ族のハンターが新たに加わるのだ。周辺の監視と、索敵にこれほど適した種族はいないんだよね。


 私のパーティにはキティがいるから、周辺監視は十分ではあるのだが、獲物をとことん追いつめることができるのはイヌ族だけの特技だ。

 私の笑顔を不思議そうにトビー達が見ているけど、明日になれば分かると思うな。


「森が少し静かすぎるにゃ……」

「ダノン達が罠を仕掛けているから、獣達も離れたって事かしら?」


 キティの呟きに、もっともらしい話をしたけれど、その位で獣がいなくなるわけが無い。

 何らかの異変があったか、それともその最中って事なんだろう。


「さて、出掛けましょう。森に入る前に武器を直ぐに使えるようにすること。ちゃんと教えたわよね」


 私の言葉にネリーちゃん達が武器を準備する。と言っても、槍の穂先のケースを外したり、背中に担いでた弓を片手に持つぐらいだけど、それだけでも攻撃開始までの時間が格段に短くなる。


 先頭を歩くオブリーの後ろにキティが続く。その後をネリーちゃん達のパーティが続いて最後尾は私とリトネだ。

 赤6つのハンターと言っていたけど、ミケルとケイニアは槍を外に向けて厳戒態勢だ。彼らなりに何かを感じているんだろうけど、やはり獣族の五感と勘は人間族を遥かに凌いでいる。

 エルフ族の私には、ちょっとした違和感がある位の感覚があるだけだ。先頭を歩くオブリーもそれ位は感じているだろうから、いつもよりも歩みが遅いのがわかる。

 それでも、夕暮れ前には森を抜けることができた。周囲の見通せる林の一角で野営をする事になったのだが……。


「どうにも嫌な感じがします。野営はいつもより防衛に適した場所にした方が良いのではないかと」

「私も賛成よ。あそこはどうかしら? 岩と若い松が上手く重なりあっているわ」

 

 オブリーに腕を伸ばして教えた場所は、衝立のような岩の周りに数本の松と雑木が数m程に幹を伸ばしている。

 ロープを張り巡らせば円弧状に柵として使えるだろう。後衛の防衛を常に考えなければ、ハンター失格と教えられたから私の野営はいつも大げさになってしまう。


「十分かと……。早速、トビー達を使って作り上げます」


 と言う事は、私は焚き木集めと言う事になりそうだ。キティやネリーちゃん達と林の枯れ枝をいつもよりたくさん集めておく。


 柵の反対側に焚き火を作る。焚き火自体が柵にもなることをいつも教えているから、いつでももう1つ焚き火が作れるだけの焚き木が準備されている。

 焚き火に大鍋を掛けて簡単なスープを作り、パンと一緒に頂くのは何時もの事だ。

 食器の片づけを終えると、お茶を頂きながらシガレイを楽しむ。

 総勢10人になるんだから、ガドラーが出ても臆することは無い。胸騒ぎの原因がまだ分からないけど、オブリーが新たに加わってくれたのは心強い限りだ。

 

 オブリーと子供達の半分を寝かせて、私とリトネそれにキティの3人で焚き火の番をする。

 3人だけど、前衛、中衛、後衛が揃っているから、ガトルが集団でやって来てもとりあえずの対処は可能だ。何かあれば、リトネの放つ【メル】の炸裂音で、寝ている連中も起き出すだろう。


「背中がゾクゾクするにゃ……」

「何かありそうなんだけど、私にも分からないわ。キティには申し訳ないけど私の後方を良く探っていてね」


 不安そうな表情をしながらも私に頷いてくれた。隣のリトネは魔導士の杖を握りしめている。どことなく不安を感じてはいるようだけど、エルフ族の勘は人間族よりは優れているがネコ族には及ばない。

 イヌ族なら優れた嗅覚で相手を知ることもできるのだろうが、赤6つでは出会った獣は限られているだろう。色々と経験を積んで獣の匂いが判断できるようになると、昔教えて貰ったことがある。


 とはいえ、漠然としているな。私が出会ったことが無い獣か魔物なんだろうか?

 確かにこの世界は広いから数十年のハンター生活で出会ったことも無い獣等も多いに違いない。だけど、町から歩いて1日程度の場所にそんな獣がいるなんてことは信じられないんだよな。


 星の移動で時刻を調べる。リスティンの角がだいぶ動いたから、そろそろ寝ている連中を起こそうとした時だ。

 キティが突然腰を上げて私の右後方を指差した。


「松明が動いてるにゃ。こっちにやって来るにゃ!」

「リトネ、急いで皆を起こして。キティは影に隠れて弓の準備。仲間なら良いけど、盗賊ということもあり得るわ!」


 焚き火から焚き木を1本引き抜いて、松明に向かって大きく左右に振る。

 向こうもこちらに気付いたようで、松明を振っていると言う事は、追われているにしても余裕があると言う事になる。


「他のハンターでしょうか?」

「分からない。でも、夜間に松明を使って移動するなんて余程の事情よ」


 一応、戦闘態勢をオブリーが組ませているが、焚き火の前に私とオブリーが立てば早々遅れを取ることもないだろう。


 やがて、相手の姿が手に持った松明で分る距離になってきた。少し歩みが遅いと思っていたのだがその原因が分ったぞ。彼等は枝で作ったソリを引いているのだ。となれば、乗せられているのは獲物ではなく怪我人と言う事になる。


「オブリー、どうやら怪我人を連れているわよ。手術の準備をしといた方が良さそうだわ」

「それで、夜更けに町に向かっているんですね。でもそれがキティの勘なんでしょうか?」

「怪我をさせた物が、その正体なんでしょうね。どちらにしてももうすぐ分かるわ」


 やがて私達の前に現れたハンターは、グラムのパーティと見知らぬ3人の人間族だけのパーティだった。


「怪我人を焚き火のこちら側に! 治療を始めるけど、グラム、顛末を報告しなさい」

  

 急ごしらえのソリに乗せられていたのは、20代後半の女性だった。身支度からすれば魔導士なんだろうけど、後衛の魔導士だけが襲われるなんて……。


「爪で切り裂かれてるわね。3本爪でかなり深くやられているわ。男性は周囲を監視して、オブリーとリトネは手伝ってちょうだい。先ずは服を脱がせて傷を調べるわ」


 素早く服を脱がせると、スタイルの良い姿態があらわになる。

 傷は右の乳房付近から左下に斜めに3本走っているが、かなりの深さになっていそうだ。傷口だけを縫う訳にもいかないだろう。一番深いのはおへその上あたりになる。開腹して内臓のダメージを確認することになりそうだな。


 すでに顔が青白いから、あまり血を流すわけにもいかないけど、パデニアムを飲ませたところで、薄い刃のナイフで腹を開く。傷口が閉じないように鉗子で押さえ、オブリーの介添えで素早く腹の血だまりを取り除くと胃と腸の傷を【サフロ】で閉じる。他に傷が無いのを確認したところで開いた腹を糸で何カ所か縫うと、青カビをまぶした傷薬を布に塗りつけて傷口を押さえた。

 包帯はオブリーとリトネに任せておこう。


「さて、話して貰おうかしら?」

「それは、こちらのリーダーから報告して貰いましょう。俺達はソリを引き摺ってきた彼等を見付けて手伝っただけですから」


 ハンターが困った事態に陥れば手助けするのが当然だ。グラム達はキチンとそれを実践できるまでになっていると言う事が誇らしく思える。


「あんたが、ミチルさんか。治療をしてくれてありがとうよ。俺達は数日前に王都からやって来たんだ……」


 バイロンと名乗ったハンターが話してくれたのは、湖近くでシバレイネの狩りを行ったと言う事だ。

 聞けば青1つと言う事だから、シバレイネの狩りは少し格下の狩りになる。当然、容易な狩りになったようで都合6匹のシバレイネを狩ったそうだ。


「少し動きの速い大蛇ならば、青1つで【アクセル】が使えれば容易な狩りになったでしょうね。でも……、そう言う事ね」


 私が納得した事をグラム達が不思議な表情をして見ている。

 どうやら、包帯も巻き終えたようでオブリー達が焚き火の輪に戻ってきた。


「シバレイネも牙を持ちますが、あの傷は噛まれたものではありません。どう見ても獣の前足で引き裂かれたように思えるのですが?」

「獣達の関係を知っているでしょう? あれはシバレイネを好む魔物にやられたの。メズーニという魔物を聞いたことがあるはずよ」


「メズーニですか? 水棲魔物で大きさはガトルほど、動きが早くその爪は長く鋭い……」

「最大の特徴を忘れてない? メズーニは擬態するのよ。擬態と言うよりも自分の姿を周囲とそっくりの色に変えることができるの」


 メズーニ本体は下膨れのトカゲなんだけど、初めてし止めた時には水棲のタヌキかと思ったぐらいだ。設楽焼のタヌキに良く似てたんだよね。


「たまたまでしょうか? それとも……」

「どこからかやって来たに違いないわ。昔はこの辺りにはいなかったもの。でも、数が増えると厄介だし、グラム達に狩り方を教えといた方が良さそうね」


 忍者みたいな相手なんだけど、狩る方法はあるのだ。

 怪我人はハンター仲間が明日になってから町に運べば良いだろう。ガトル狩りにやって来たけど、上手い具合にイヌ族の少年もいる。

 私達は湖を大きく迂回して南東部まで出掛けてみよう。あの辺りにある湿地はシバレイネの生息地だから、メズーニがいるとすればその辺りに違いない。


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