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GⅡー56 やって来た2人組


 森の中間ぐらいまでを狙った狩りは、小型の鹿に似たビンブーが良いところだ。ちょっと貧乏くさい名前なんだけど、滑らかな皮は、女性のブーツや手袋として人気が高い。

 この森には結構いるんだけど、弓を使った狩りでは相手が警戒してなかなか取れないのが難点だな。

 パメラがたまにし止めて来るのを見掛けるくらいだけど、私達はキティの弓の腕を上げるためにビンブーを積極的に狩っている。

 1日で2頭狩れるぐらいなのはキティの腕では仕方がないところだろう。キティが隠れている付近に上手く追いやるのは、オブリーとリトネの役目だ。

 私は少し離れた場所で、野犬やガトルが紛れ込まないように警戒する。


「3頭目にゃ!」

 キティが元気よく弓を持って立ち上がる。

 そろそろ今日の狩りは終わりにしよう。ラビーも3匹狩っているから、キティのレベルはそろそろ赤の5つにはなるんじゃないかな。


「上手くなったわね。今日は、ここまでよ。オブリー達もいらっしゃい。町に戻るわ!」

 オブリー達が片手を上げて了解を告げている。

 獲物の解体を素早く行って背負いカゴに入れる。ラビーは別の袋に入れてキティがバッグに詰め込んでいる。肉屋に卸して今夜のシチューにするつもりなんだろう。


 オブリー達にねぎらいの言葉を掛けたところで、町に向かって歩き出す。

 この辺りならば、夕暮れ時には町に着くだろう。


「キティの腕もだいぶ上達しています。そろそろ、野犬狩りを始めますか?」

「オブリーも、そう考えるならやらせてみようかしら? そうなると片手剣を使わせたくなるわね」


 ハンターとしてのキティを中衛として育てるのは、種族の特性とも合っている。

 とはいうものの、使える武器は弓と少しばかりの魔法になるのがちょっと寂しいところだ。パメラのように槍という手もあるが、片手剣を覚えさせても良いかも知れない。

 矢筒にある矢の本数には限りがあるから、ガトルの大群にでも遭遇したら直ぐに撃ち尽くしてしまいそうだ。

 槍は棒術の1つとして教えておけば良いのかも知れない。とはいえ、私が教える棒術は槍というよりも片手剣を両手に持ったような使い方だ。やはり、手堅く片手剣の使い方を教えておけば色々と応用が利きそうな気がするな。


 町に着いたところで、オブリー達に先を行かせて私は武器屋に寄ることにした。

 体格的にまだまだ少女なんだから、通常の片手剣は使えないだろう。


「今日は。ご主人はいるの?」

「お久しぶりです。ええ、おりますから、直ぐに呼んで参ります」


 カウンターの奥さんが、奥に入っていた。カウンターの向かい側にあるテーブルセットに腰を下ろして、シガレイに火を点ける。

 直ぐに、2人がやってきて、テーブル越しに腰を下ろす。奥さんがお茶を入れたカップをそっと私の前に置いてくれたので、笑顔でお礼を伝える。


「大量の武器の注文はありがたく受けさせてもらった。パイドラ王妃の命で武器を作る等、俺の年代では初めてだろう。里の長老も喜んでくれた。それで、何を作るんだ?」

「すでにお祖父さんの腕には達してると思うわ。それで、少し無理なお願いをしようと思うんだけど……」


 無理、初めて……等という言葉は、ドワーフが一番好きな言葉だ。なら俺が……、と腕を振るう事になる。

 私の言葉を聞いて、案の上ドワーフがニヤリと顔を崩している。


「黒姫様の無理な注文がパイドラでは一番の難物には違いない。だが、それを俺が受けられるんだから、この店を譲って貰ったのは今でもありがたく思っている。それで、何を作るんだ?」

「片手剣を3本作ってほしいの。1本はこんな形で、後の2本はこんな形よ。最初の片手剣の刀身は2D、残り2本の片手剣は1D半にしてほしいわ」


 ジッと私が描いたメモを見ている。長めの片手剣は私と同じ小太刀を模した物だし、刀身の短い得物は、グルカナイフだ。


「どちらも厚みを持たずに、通常の2倍鋼を鍛えるのか……」

「砥ぎは回転砥石を使わずに、水で濡らして丁寧に……」


 前に私の小太刀を見せたことがあるから、それを思い出しているのだろう。じっと目を閉じて考え込んでいる。


「良いだろう。一か月ほど待ってくれ。良い鋼を里から送って貰ったから、それで作ってみるぞ。黒姫様の特注とあれば、王都に工房を持つドワーフ達なら垂涎ものだ。それを受けられるのだからな」

 

 夫の言葉に隣の奥さんが頼もしそうな表情で夫を見ている。良い夫婦なんだろう。まだ子供はいないんだけどね。もっとも、ドワーフ族はエルフ族に次ぐ長命な種族だ。2人の子供を見ることができるのは、まだまだ先の事に違いない。


 武器屋を出てギルドに向かうと、3人が暖炉近くのテーブルで待っていた。

 私が席に着くと、今日の狩りの分配が始まる。


「ビンブー3頭で120L、ラビーの毛皮が15Lでした。1人33Lになります。残金は明日の弁当代に」

「ありがとう。ラビーは1匹を教会に、残りはミレリーさんで良いでしょう」


 3匹の内、1匹はさばいて貰った肉屋の取り分だ。ちょっとした取り分で獲物をさばいてくれるから助かっている。

 オブリー達がギルドを出たところで、今日の当番であるカインドさんの席に向かう。

 のんびりとパイプを楽しんでいるところを見ると、今日も平穏な一日だったように思える。


「どうでした?」

「そうだな……、変わった依頼は無かったし、無理な依頼をしようとするパーティもいなかったようだ。そうそう、おもしろい2人組がやって来たな。パーティを紹介してくれという話だったが……」


 カインドさんの話が途切れて、入り口付近に向かって手を上げている。振り返ると、丁度ダノンがちびっ子達を引き連れて帰って来たところだ。

 薬草採取を卒業した子供達に罠猟を教えていたんだろう。カウンターに獲物を並べているところを見ると今日は大猟と言う事なんだろうな。

 カウンターで報酬を分かち合うと、急いで私達のところにやって来る。

 暖炉でパイプに火を点けると、カインドさんに顔を向けた。


「若いハンター2人組がやって来たんだが、パーティを紹介して欲しいとの事だ。俺としてはネリー達のパーティを紹介したいんだがね」

「トビー達のパーティなら中衛不足というところだ。姫さんの話では獣人族なら申し分ないと言っていたが?」


 カインドさんの話を聞いて私もびっくりした。やって来たハンターはネコ族と犬族の男女らしい。滅多にいない取り合わせなんだけど、どうやら駆け落ちらしいとの事だった。

 それにしても、犬とネコの駆け落ちねぇ……。ドワーフ族とネコ族の駆け落ちもあったから不思議とは思えないけど、初めて聞いた組み合わせだな。


「是非とも欲しいところだけど、問題は人間性よね。明日合わせて貰えないかしら?」

「そのつもりで、明日の朝早く、ここに来いと言っておいた。先ずはミチルさんに半出して貰ってその後でトビー達に引き合わせれば良いんじゃないかと思ってな」


 犬族とネコ族は中衛要員としては最適だし、犬族の追跡能力とネコ族の警戒能力は他の種族を上回る。クレイのパーティの上を行く可能性だってあるんじゃないか。

 とはいえ、パーティを組む上での問題点は人間性だ。どんなに能力が優れていても傲慢な性格や、協調性が無いんでは困ることになるからね。


 ミレリーさんの家に帰ると、まだ夕食の準備中のようだ。ネリーちゃんとリトネ達が台所で賑やかに調理をしている。


「そうですか。ミチルさんが見立ててくれるなら安心ですが、そんな組み合わせもあるんですね」

「私も話を聞いて驚きましたけど、人の好みをとやかく言う事もありませんしね」


 私達はテーブルに座って蜂蜜酒を頂いている。

 酒の肴にギルドにやって来た2人組の話をしたのだが、やはりミレリーさんも興味深々だな。


「私としては良い組み合わせだと思います。確かにあまり聞いたことはありません。ですが……」

「かなり攻撃的な狩りが出来そうです。それに伴う危機管理もできると言う事ですね」

「とはいえ、今までは待つ狩りがほとんどでしたから、とまどいもあるでしょうね」


 私の言葉にミレリーさんが頷く事で答えてくれた。

 狩りの仕方がかなり変わってしまう事になる。ネリーちゃん達はそれを良しとするだろうか? 町の周辺で今まで通りの狩りも出来るのだ。あえて危険な狩りをしようとは思わないかもしれないな。


 ネリーちゃん達の作ったシチューは少し塩気が多いけど、不味いわけではない。この辺りの塩加減は少しずつ覚えていくんだろう。

 少し遅めの夕食が終わったところで、ネリーちゃんに確認することにした。


「前に、キティのようなネコ族が現れたら、って話があったわよね」

「ええ、やって来たんですか!」


 嬉しそうに椅子から立ち上ったから、お茶がテーブルに少しこぼれてしまったようだ。困った表情でミレリーさんが見てるけど、これ位は大目に見てあげるべきだと思うな。


「カインドさんに仲間の相談があったらしいんだけど、私もまだ見ていないのよ。明日の朝に会ってみるから、ネリーちゃん達も仲間と話し合っておいてくれない? やって来たのはネコ族と犬族の2人連れらしいんだけどね」


 犬族と聞いて、ネリーちゃんの表情にとまどいが現れた。

 パイドラ王国には、あまり犬族のハンターはいないから、見たことが無いんだろうな。ずっと東に行くと大勢いるんだけどね。


「グラム達のパーティにはパメラがいるでしょう? あのパメラがやる気を出した状態だと言えば良いのかしら……」

「見付けるだけではなく、追跡も出来るの。僅かな獣の手がかりを追って半日ぐらいは分けなく追う事ができるわ」


 ミレリーさんは犬族のハンターを見たことがあるんだろう。追跡能力に掛けては犬族の右に出る者は無い。


「罠猟を卒業と言う事になるんでしょう。明日は皆に教えてあげなくちゃ!」

 お茶を飲み終えると、キティを連れてお風呂に向かったようだ。

 リトネが私達の話をジッとして聞いているけど、リトネも会ったことが無いんじゃないかな。

 だけど、私達のパーティに必要というわけではない。積極的な狩りは若者達の特権だからね。プレアデスは皆の手に余る獲物を狩ることが基本で良いと思う。


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