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GⅡー53 ユニコーン狩りは乙女達で


「それで、姫さんがいつもいた席にミレリーさんが座ってるんだな。俺達にとってもありがてい話だ。マスターも意外と話が分かるな」

「あまり怪我人が出るとマスターの資質が問われるからかも知れないわ。本来ならマスターの仕事なんでしょうけどね」


 熟練で人望のあるハンターをギルドマスターとしたのは、たぶんそんな相談に乗ってやれるようにとの事だったんだろう。長い年月が過ぎて、ギルドの仕事が少しずつ増えたことからマスターがギルドのカウンターに出ることが無くなったんだろうな。

 カウンターの娘では、依頼書の手続きはできるだろうが、その依頼書危険性までは判断ができないだろう。

 マリーなら少しは経験を積んでいるから、ギルドレベルと依頼書のレベル表示には大きな違いがあることに気が付いてるはずだ。


「私がここにいてはキティ達のレベルが上がらないからね。判断に困るようなら私を頼るようには言ってあるんだけど……」

「ミレリーさんやカインドの旦那なら納得できるが、テレサさんはちょっと……」


 ダノンも不安に駆られている。私もそうだから何となく理解は出来るんだけど。


「努力、根性、死に物狂いを合言葉に狩りを教えてくれるはずよ。力量が無いならきちんと伝えてくれると思うんだけど」

「納得しないなら、狩りでなくあの棍棒の餌食になるだろうからな。説得力という点では十分なんだが」


 だけど、ネリーちゃん達やキティもテレサさんを悪く言うことは皆無だ。意外と面倒見が良いのかも知れない。それとも、言う事を聞かないとカインドさんのようになるのが分ってるからなんだろうか?

 キティに後で聞いてみよう。けっこう仲良く話してるところを見ることが多いからね。


 ロディ達にカインドさんが同行して、ネリーちゃん達にはテレサさんが同行しているらしい。狙いはガトルなんだろうけど精々森を出た辺りだろうから、相手は数匹というところだろう。ネリーちゃん達がガトル狩りを行えるようになったとはねぇ……。月日の流れを感じてしまう。


「ダノン達は罠猟なんでしょう?」

「そうだ。そろそろやって来るだろうな。今夜は森の手前で野営をさせるんだ。あの辺りなら野犬が出るぐらいだろう。森にはグラム達が罠を仕掛けているから、俺達のところに野犬がくるとは思えんな」


 たぶんグラム達の猟を聞いて、子供達に野営を経験させるんだろう。森の出口にネリーちゃん達がいるなら安心できる。


「そうなると、私達も少し背伸びをしてみようかしら? 何かおもしろそうな依頼があれば良いんだけど」

「そんなら……。マリー! 姫さんがやってくれるそうだ」


 私達をカウンターで眺めていたマリーが、ダノンの呼び声で依頼書を片手に走ってきた。ホール内にいるんだから走らなくても良いんじゃないかな。


「これなんです!」

 私達がいるテーブルにバン! と依頼書を広げた。何々……。


「誰が見たの! まさか犠牲者はいないんでしょうね?」

「クレイさん達が尾根3つほど北東で見たと言う事です。逃げ帰って来るハンターから聞いて確認したそうですから間違いはありません」


 ドラゴンは良い。私とオブリーなら2頭であれば容易いのだが、それにユニコーンが付くとなると問題だな。


「オブリーとリトネが問題ね。まぁ、何とかなるでしょう。明日、オブリーを待たせといてくれない?」

「ありがてえ、滅多に行かねえ場所だが、こんな連中がいるとなれば問題だからな」

「私がやらないと、軍隊に狩場を荒らされそうだからね。ちょっと遠いから5日位は掛かるかも知れないわよ」


 さて、早速準備を始めるか。

 今日は皆はのんびりしているだろうから、私が動くことになりそうだ。


 雑貨屋に出掛けて携帯食料をたっぷりと買い込んで来た。

 今日の当番はミレリーさんだから、暖炉近くで2人でお茶を飲みながら明日の狩りの話をする。


「そうですか。ユニコーンとは珍しいですね。話には聞きましたが私は見たことがありません。それより、一緒にいるドラゴンは危険ではないんですか?」

「ドラゴンと言っても、しょせん大きなトカゲです。頭が止まったら酸を吐くのが厄介なんですけどね。それに、ユニコーンなら私達4人なら問題は無いでしょう。一応、オブリーとリトネには確認する必要はあるでしょうけど……」


 ドラゴンと言われているのは、体長3m近いオオトカゲだ。口から強い酸を吐くけど、到達距離は3mにも満たない。昔、その酸を浴びた者がいるんだろうな。焼けつくような痛みに火を噴きかけられたと言いふらしたそうだ。それで御伽話のドラゴンの名を貰ったんだから立派なものだと思う。

 ユニコーンはポニー程の大きさの仔馬に似た獣だが、額に1本の鋭い角を持っている。これも御伽話から抜け出したような姿そのものなんだけど、とんでもなく凶暴だ。スノーガトルの動きで角を振り回すし、距離を離れると弓で狙っても矢が当たることは殆ど無いらしい。

 

「ユニコーンが1頭に、ドラゴンが3匹。役立つのはユニコーンの角ぐらいでしょう。希少価値の高い角ですから、また王都で一騒ぎがあるかも知れません」


 そんな私の言葉に、ミレリーさんが呆れた表情をしているけど……。ふと、私の耳元に体を寄せて小さく呟いた。


「それで、あの伝承は本当ですの?」

 ちょっと耳がくすぐったかったけど、ミレリーさんに顔を向けると小さく頷いた。

「あの、変態動物は早めに絶滅させるに限ります!」


 とんでもなく凶暴なユニコーンだが、唯一の弱点がある。

 乙女に目が無いのだ。王都の酒場付近にいるナンパ男よろしく、乙女に近付いて来る。それはもうだらしなく頭を下げて、のそのそとやってくるんだよね。

 乙女だけが持つ私達には感じられないフェロモンに酔うのだろうか? 


「変態かも知れませんが、レベルが低ければ逆に襲われるでしょうね。ミチルさんとオブリーさんなら、問題は無いんでしょうけど……」


 翌日。ギルドのホールの片隅にあるテーブルに4人が揃ったところで、次の依頼を伝える。

 思わず顔を見合わせていたけど、キティ以外はユニコーンとドラゴンを知っていたようだ。


「ユニコーンとなれば、私は参加できますよ」

 オブリーの言葉に、慌ててリトネが私も! と声を出す。

 2人とも処女ってことだな。キティちゃんは間違いないし、私だって元が元だからそんな事にはなっていない。


「4人とも乙女で良いのね。なら、簡単だわ」

「ユニコーンはそれで良いでしょうけど、ドラゴンはどうしますか? 矢ではあの表皮を突き通ることは無いでしょう。槍を使っても致命傷を与えるには時間が掛かりそうです」


 ワニ並みの表皮だからね。オブリーはかつての仲間達と狩ったことがあったそうだが、槍を次々に投げて血を流して相手の体力を落したらしい。

 通常なら、そんな狩りになるんだろうな。


「使うのは槍と弓よ。狙う場所があるのよ……」

 そう言って、メモ用紙にドラゴンの絵を描くと、大きくその場所を○で囲んだ。


「胸?」

「そう、胸を狙うの。息をすると動くから直ぐにわかるでしょう? その場所を攻撃するなら、背中よりも容易に矢が突き立つわ。この中に肺という臓器があるのよ。膨らんだり縮んだりして呼吸をする元になるの。これに穴を開ければ呼吸ができなくなるわ」


 呼吸が出来たとしても、かなりの痛みだろう。動きが鈍ることは間違いない。

 3匹と言う事だから、私とオブリーで1頭ずつ倒して行こう。リトネとキティは逃下回って他を寄せ付けなければ十分だ。ネコ族とエルフ族の素早さは定評があるし、【アクセラ】で身体機能を上げれば十分にドラゴンの攻撃を避けられる。


「私達が始末する間に他を牽制するのは危険ではないでしょうか?」

「大丈夫よ。ドラゴンの動きはそれ程早くは無いわ。ちょっとした鬼ごっこになるでしょうね。とはいえ、酸を吐かれると厄介だから、これを着るのよ」


 フード付きのポンチョを2つ取り出してリトネ達に渡す。

 準備ができたところで、今日の当番であるテレサさんにギルドを託して私達はギルドを後にした。


 尾根を3つと言う事はかなり遠くになるけど、森を出て1泊、2つ尾根を越えたところで1泊すれば良いだろう。

 足取りも軽く、私達は北門を出て森へと下る荒地を歩いて行った。


 遠くに数人の子供達を率いたダノンの姿が見える。皆が屈みこんでいるところを見ると、罠の仕掛け方を教えているんだろうな。ギルドの職員なんだけど、半分以上はちびっ子達にハンターの仕事を教えている。

 他のギルドもダノンの存在を知って、そんな手助けができる元ハンターを雇っていると言う事だが、果たしてどうなるんだろうか?

 ダノンだからできるようなところもあるんだよね。


 森の手前で昼食を取っていると、森の奥から数人のハンターが得物を枝のソリに乗せて出て来た。

 キティが大きく手を振っているから、パメラのいるグラム達のパーティだろう。まだポットにはお茶があるから、ご馳走できそうだ。


「ミチルさん達じゃないですか! ……ご馳走になります」

 グラム達が焚き火の周りに集まって、キティ達からお茶を貰っている。

 私達がユニコーン狩りに行くと聞いて、目を見開いてる。一緒に連れて行ってあげたいけど、男性が混じるとユニコーンは凶暴になってしまう。


「話には聞いてますけど、ユニコーンって乙女でないといけないんじゃないですか?」

「私も乙女の端くれよ。連れて行ってあげたいけど、こればっかりはどうしようも無いわ」


 パメラがむずむずしてるけど、1人だけを連れて行くわけにはいかないだろう。それを知って、パメラも口には出さないようだ。


 ゆっくりと休憩を取ったところで森へと入って行く。

 グラム達の通った跡をたどれば、他の獣に顔を合わせることもないだろう。


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