GⅡー52 新たな案内人
獲物を肉団子にして卵を産み付ける。スピアビーの特徴なんだけど、通常なら獣を相手にする。人を相手にそんな行為に及んだことはそれ程無いんだよね。
私も、過去に2つの事例を聞いたことがあるだけだ。普段はそれ程危険性が無いのだが、数が増えると見境が付かなくなる。
肉団子ができる相手かどうかで判断していると老いたハンターがかつて教えてくれたことがある。
『一度襲っても、生き残りがいれば再び襲ってくるんじゃ。なるべく身を隠せる場所で戦う事になるぞ』
まさか、私がその当事者になるとは思わなかったけど、このままでは2人も肉団子になる運命を待つしかない。
「なるべく枝が低い場所が良いわ。……あの辺りね」
どんぐりの若木がようやく3m程の高さに達したようだ。数本が纏まっているから、あの下ならスピアビーも頭上からの攻撃は難しいだろう。
「良さそうだね。なら、少し待っとくれよ」
テレサさんが近くの立木を手斧で切り倒している。
ミレリーさんが木を運んで来ると、どんぐりの木に立て掛けている。杉の木の枝がどんぐりの枝に絡まって動かなくなったぞ。
ちょっとした屋根になるようだ。急いで私も手伝って杉の木を運んで立て掛ける。
「これで良いんじゃないかね。先ず頭上は心配ない。キティちゃんとリトネでこの中から加勢してくれれば十分さね」
「貴方も【メル】は使えるんでしょう? 期待してるわよ。それと、これは用心にね」
怪我人を見ていた魔導士に声を掛けると、小さく頷いた。とりあえず、2m程の棒を持たせておく。スピアビーの張りの長さはおよそ1m程だ。枝の間から狙うようなら下から突っつけば良い。
怪我人をどんぐりの木の下に移動させたところで、焚き火でシガレイに火を点けた。
「やはり東から来るのかい?」
「巣穴から真っ直ぐだとは思うんですが……」
テレサさんにはそう答えたけれど、正直な話方向までは分らない。距離は10km以内だと思うから、湖を渡って西から来ることは無いんじゃないかな?
「南東方向に飛んで行きました」
しっかりと長い棒を持った魔導士が立ち上がって教えてくれた。
「ありがとう。たぶん真っ直ぐ来るとは思うんだけどね」
後ろを振り返ると、キティは弓を持っているし、リトネも魔導士の杖を持って南東方向に顔を向けている。今から緊張してると持たないと思うんだけど、こればっかりは経験って事なんだよね。
「ミチル様は片手剣を使うのですか?」
「あぁ、これね。相手の動きが速いからこれで行くわ。そろそろ、【アクセラ】を掛けるから集まって頂戴」
皆の身体機能を上げれば少しはマシに動けるだろう。
シガレイを焚き火に投げ捨てると、荒地に片膝を立てて南東の林の上空を睨んだ。
オブリーはすでに抜刀して切っ先を地面に付けているけど、後で研ぐのが大変なんじゃないかな?
「あれにゃ!」
キティの腕を伸ばした先に数匹のスピアビーが体を丸めて槍先を突き出しながら私達の方へと来るのが見える。
中型というところだな。確かに黒の中位ぐらいでは肉団子にされかねない。
ブ~ンという羽の音が聞えたところで、私とオブリーが体を起こす。
直ぐに私達に気が付いたようで、真っ直ぐに飛び込んで来た。
私達の目の前に爆裂の炎が上がる。もうちょっと加減して欲しいな。一瞬、前が見えなくなってしまった。
転がるように身を潜めると、先ほどまで私が立っていたところにスピアビーの槍が交差していた。
起き上がりざまに小太刀でスピアビーのお尻を薙ぐと、ぽとりと槍が地面に落ちた。
後は、キティが矢で止めを刺してくれるだろう。
槍先をかわしながら、スピアビーを斬り付ける。
チラリと後ろを見ると、オブリーの長剣の隙をリトネ達魔導士が【メル】で牽制している。ミレリーさん達は……、ミレリーさんが巧みに槍を牽制しているところをテレサさんが棍棒で叩き落としている。
数匹を倒したところで後ろを振り返ると、テレサさんが汗を拭いていた。
「温い相手だったねぇ。歯ごたえが欲しいところだよ」
そんな呟きにミレリーさんが笑っている。
リトネ達がどんぐりの木の下から出て来たところで、スピアビーの討伐品となる槍を回収して貰う。
「やはりミレリーさんとテレサさんが一緒で助かりました。私とオブリーでは少し持て余すところでした」
「これ位は何てことないよ。ミレリーも昔通りだねぇ」
「あれだけの技量で現役では無かったと……」
オブリーは呆れているようだけど、さすがに長剣1本で黒レベルに達しただけの事はある。倒したスピアビーは全て胴体を真っ二つにされていた。
槍を数えると11本あった。やられたパーティが2匹を倒しているから13匹と言う事だな。これでしばらくはスピアビーに怯えずに済むだろう。2匹位ならハンターを見ると逃げていくからね。
「さて、帰りましょう。森の途中で一泊することになりそうだけど、怪我人がいるからあまり進めないわ」
「だとしたら、早めに向かわないとね。ミレリー、オブリーさんを連れて枝を2本取ってきておくれ」
ミレリーさん達が運んで来たのは枝というよりも若木じゃないのか?
その枝を絡ませてロープを使い簡単なソリを作る。怪我人を乗せてオブリーとテレサさんが引き摺って行く事になった。
翌日の夕暮れ近くにようやく町にたどり着くと、怪我人を教会に運んでいく。
残った魔法使いにスピアビーの報奨金を半分渡して、残りを私達で分配する。しばらくは教会から動かせないけど魔法使いが面倒を見てくれるだろう。私達の報酬は85Lと少ないが、町で暮らすには十分な金額だ。テレサさん達にとっては気晴らしとボランティアを兼ねたようなものだと満足して貰わねばなるまい。
「まぁ、2人が助かって良かったよ。私等がもう少し遅かったら、あの2人は今頃は肉団子だからねぇ」
「マリー達にも注意して貰わねばなりません。数が増えると途端に狩るのが難しくなる獲物はたくさんいますからね」
暖炉の傍でお茶を飲みながらそんな話をすると、マリーが俯き加減でやって来た。
私の隣に座らせると、マリーの肩をポンポンと叩く。
「あまり引き摺らないでね。終わったことは取り返せないわ。同じ過ちを繰り返さないことが大切なんだから」
こくこくと頷いているけど、同じ過ちをする者はそれ程多くは無い。最初の過ちで死んでしまう者があまりにも多い事が問題なんだよな。
「オブリーさんの長剣は見事ですね。かつての主人を思い出してしまいました」
「確かに似ていたね。袈裟懸けで斬り下ろした長剣を、くるりと体を回して次の獲物に挑む姿はエルザムにそっくりだよ」
少し変わった剣さばきだったが、ミレリーさんの旦那様も同じように使っていたと言う事らしい。
「誰に教えて貰ったの?」
「私ですか? 前のパーティにいた男性です。自己流では限界があると言って教えて頂きました。ソウハン狩りで私を逃がしてくれたのですが……、オービスと名乗っておりました」
途端に、2人の御夫人の顔が驚愕の表情を見せる。じっとオブリーの顔を見ているけど、オービスさんとの間に何かあったのだろうか?
「なるほどねぇ……。似てるわけだよ。ミレリーの旦那の実の兄に習ったんだねぇ。世間は広いようでも狭いものさ。オブリーさんは私等の妹分と言っても良いんだろうねぇ」
「主人も喜んでるでしょう。自分達の流儀をキチンと継承している人物がいるんですからね」
そう言う事か……。となると、グラム達とベクトは剣の道では義兄弟になるんだろうか? そんな関係で人間関係が広がっていくのは良い事なんだろう。だけど、私の流儀は変わってるからそれ程広がらないだろうな。
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スピアビー騒ぎが収まると、私達は森の近くでのんびりとラビーを狩る。
まだまだキティ達のレベルが低いから早々ガトル狩りも出来そうにはない。黒6つのオブリーには気の毒だけどこればっかりはしょうがないな。
それでも、たまに怪我人が出るのはハンターの常と言う事になる。
森の出口付近に私達がいるから、安心して少し高めの依頼をしているわけではないのだろうけどね。
「はい。これで終わりよ。骨には達していないようだから数日休めば近場の薬草採取は出来ると思うわ」
「済まねぇ。まさか足元にガトルの巣穴があるとは思わなかったんだ」
狩りの帰りにガトルの巣穴に足を突っ込むとは、運が悪いとしか言う事が無い。宝くじでもあれば買う事を勧めたいぐらいだ。
「でも数匹で良かったわね。青レベルでは群れを相手にするのは少し考えものよ。あの辺りはガトルだけではなく他の肉食獣もいるから、お勧めしかねる場所よ」
「忠告感謝するよ。罠猟で少しずつ山に入ってしまった。獲物も余り捕れなかったしな」
やはり、地元以外のハンターには何らかの忠告が必要なのかもしれない。私がいつもギルドにいるわけでは無いし……。ミレリーさん達に頼んでみようか?
そうなると、テレサさんにも相談するということになるんだよね……。
「根性無し!」、「全力で行け!」、「逃げたりしたら、これだからね!」……。背筋が寒くなってきた。
たぶん、世の中には得手不得手があるんだと思うな。テレサさんだと精神論で当たって砕けてしまいそうだ。
夕食後にミレリーさんと蜂蜜酒を頂きながら、ギルドの相談相手について話をする。
「ミチルさんの言われる通りだと思います。その任を、かつてミチルさんがついていたんですからね。おかげさまで皆が良いハンターになったと町では評判ですよ。でも、私達で出来るでしょうか?」
「それ程、気にすることは無いと思います。かつての私もそうでした。この狩りなら、この場所でこの方法で、人数はどれ位、最後に気を付けることは何か。を教えてあげれば良いんです」
「ある意味、自分達の経験を話してあげることになりそうですね」
「それで十分だと思います。給料はギルドマスターと相談しておきますから」
私の言葉に笑っているところを見ると、値段はどうでも良いと言う事なんだろうな。それでもタダ働きをさせるわけにはいかないから、明日きちんと相談してみよう。




