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GⅡー43  それぞれのポジション


 リーダー達が周りのリーダー達と相談しているけど、早々まとまりそうにないな。

 無理もない。ガトルが少なくとも200頭以上、ガドラーが数頭を冬に狩るとなれば数人の犠牲者が出ても不思議な話じゃないからな。その上、スノウガトルだ。目撃例はないけれど、間違いなくいるに違いない。


「筆頭ハンターのミチル殿がやれと言えば俺達はやるしかなさそうだが、どれ位の犠牲者を想定してるんだ?」

「そうね……。今のままで狩りを続けるなら、このギルドに登録しているハンターの半数は大怪我をするわ。何人かは亡くなる可能性も出て来るでしょう。東の村からやって来たガトルの総数が思った以上に多いからそうなるんだけど……。皆で力を合わせれば、少なくとも犠牲者を一桁までに減らせるかも知れないわ」


 私の言葉に、がやがやと話し込んでいた連中が、驚いたような表情で私を見つめてきた。犠牲者が一桁と言うのは彼らにとっては思いもよらなかった数値に違いない。


「それ程ですか。ミチルさんの助けは考えるなと?」

「私だって参加するわ。でもね。誰も怪我をさせずにという事は出来ないという事よ」

「季節が違ってたらなあ……」

 私だってそう思う。厳冬期でなければ誰も怪我をさせずに済むかも知れない。だが今はこの村が一番雪に覆われる季節なのだ。


「それで、狩りの方法は?」

「これから説明するわ。マリー、筆記用具を持ってきて!」

 マリーがカウンターから少し大きめの紙と鉛筆モドキを持って、テーブルの私の前に置いてくれた。

 テーブルに広げた紙に大きく円を描くと、周りの連中が身を乗り出して覗き込む。

 同心円を3つ描いたところで、皆の顔を見渡した。

 

「基本は変わらないということですか?」

「そう。いつも通りで良いのよ。ただ人数が多くなってるだけなんだから。この円の中心が魔道士と弓使いね。ダノン、名前を書いていって」

「え~と、テレサさんとネリー達、それに……」

 グラム達が名前を追加しているな。10人以上いるじゃないか、【メルト】を使える者も数人いるぞ。

「次は、中衛の槍を使うハンターになるわ」

「杖を使う連中もこの位置だな。ロディ達が此処に来るのか……」

 たまたま村に滞在していたハンターの何人かも名乗りを上げている。

「最後は壁なんだけど、長剣使いが担当よ。動かずに壁に徹しなさい」

「クレイ達にグラムだが、ミレリーさんはどうなるんだ?」

「壁になるわ。攻撃的な壁と防御を担当する壁と考えれば良いでしょう」

 私の言葉に、ミレリーさんが頷いている。


「で、片手剣、長剣、杖、魔法を全て使える姫さんはどこに?」

「ここにするわ」

 同心円から離れた位置に丸を書き込むと、全員の顔が私を向いた。


「姫さん。無謀じゃねえかい。いくら銀9つの腕でも……」

「あら、そうかしら。これでガトルの群れが向かってきたら、群れはこっちに行くわよ」

 そう言って、同心円を指差した。

「弱いものから……、ということですか?」

 クレイの言葉に小さく頷いた。

「最後のガドラーを狙うのか? それなら、その位置が良さそうだ」

「ガドラーなら、クレイとグラムで十分よ。一度狩っているし、ミレリーさん達だってその腕を認めてるわ」

「なら何を……。まさか!」

 考え込んでいたクレイが私の顔をまじまじと見つめた。

「その、まさかに備えるの。クレイ達はガドラーを何とかして頂戴」

 クレイが息を飲み込んで私を見ている。しばらくして大きく頷いた。

「ミチルさんの本気を見せて貰います。となると、私の位置はここになりますね。絶対他には譲りませんよ」

 同心円の一角に、ダノンから鉛筆を借りて名前を書き込んでいる。

 そんな事をするから、皆一斉に自分のポジションを書き込み始めたぞ。ワイワイ騒いでいるから、落ち着くまでシガレイを楽しもう。


「あんたはここしかないよ。プレセラの長剣使いのお守はあんた以外の誰が出来るんだい。1人で剣を振り回そうなんて考えは止めるこったね!」

 カインドさんの場所は奥さんに一方的に決められてるけど、私からもお願いしたいくらいだ。

 位置は右奥でも回り込んでくるガトルは多いに違いない。ほとんどカインドさん任せになるんだろうけど、狩りの終わりまでしっかりと目を開いていることで合格とすれば良い。

「俺も前に出られるぞ」

「私も槍が使えるにゃ!」

 まだまだポジションの選択はもめそうだけど、しっかりと自分の技量と位置を知る良い機会になれば良い。

「マリー、もう1枚紙を持ってきてくれ!」

 改めてポジションを書き直すようだ。暖炉にシガレイを投げ捨てると、自分の席に戻ってダノンが整理し始めたポジションを眺めてみた。


「ダノン。あなたも参加するの?」

「俺だって青持ちだぞ。だが、昔ほどじゃねえから、この場所だ」

 ダノンの位置は真後ろの中衛になる。魔道士達の護衛という感じだが、ダノンなら安心して任せられるだろう。後ろに回り込んで魔道士に迫ろうとするなら、テレサさんの魔法で蹴散らされるに違いない。

 魔道士達の狩りの手本にもなってくれるだろう。攻撃魔法による前衛の援護についてはテレサさんの右に出る者はいないだろうな。


「よし、これで文句はねえな。他の村の不始末に、貴族が関わると碌な事にならねえが、俺達の村は俺達で何とかしたいところだ。明日の朝出発するぞ。食料は……」

「これで用立ててくれない。昼食と、夕食のお弁当もお願いするわ」

 ダノンの前に銀貨を5枚並べた。

 これ位は、出してあげるべきだろうな。冬のハンターはぎりぎりの生活をしているのだ。余分な食糧を購入出来る者など限られているはずだ。


「ありがたく使わせてもらうぜ。ロディ、ちょっと手伝ってくれ。他は明日の朝、ここに集合だ。冬の野宿だからな。装備はちゃんとしとけよ。それじゃあ、解散だ!」

 ダノンの言葉にぞろぞろとハンター達がギルドを出ていく。

 ロディとダノンが密談を始めたが、これは食糧の相談だろう。

 暖炉でシガレイに火を点けて、もう一度狩りのポジションを脳裏に浮かべる。忘れていることは無いだろうか?

 プレセラ達を交えてガトル狩りだ。ちょっとした見落としが取り返しのつかない事態に発展することだってあり得るからな。

 

 ゆっくりと頭に狩りの情景を思い浮かべて、不足が無いことを確認する。

 まだ密談をしているダノン達に片手を振って別れを告げると、武器屋に向かって歩いて行った。

 カウンターで子供を背負ったおかみさんに短剣を見せてもらう。


「やはり、黒姫様には不足でしょうか?」

 ケースから短剣を抜いてジッと眺めていた私に、おかみさんがおずおずと聞いてきた。

「……あら、そういう分けじゃないのよ。やはりちょっと大きいかな、って考えてたの」


「その声は姫さんだな。やはり特注になるってことか?」

「出発は明日だから、これから鍛えて貰うのもね……。そうだ! 鍛えてもらえば良いのよ。鉄の棒は何本かあるんでしょう?」


 カウンターのメモ用紙にさらさらと作ってもらう物を書いてドワーフの主人に見せた。

「3本作ってくれない? 明日の朝、引き取りに来るわ」

「確かにこれなら簡単に作れるが……。これが役に立つのは大工位じゃねえのか?」

「強力な武器よ。いつも通りに仕上げは一番細めの砥石でお願い。回転砥石はダメよ」


 いぶかしがるのも無理は無い。どう見ても釘だからな。だが、使い方次第ではかなり役に立つことは確かだ。

 

 自分の用意が整ったところで下宿に戻ると、3人が明日の用意を始めたようだ。暖炉の前に店を開いている3人をミレリーさんが微笑んで見ていた。

 私が帰ってきたことを知って、私専用のカップを運ぶとお茶を注いでくれた。


「だいぶ遅かったようですね。良い武器はありましたか?」

「明日までに頑張ってくれるそうです。あまり動けませんからね。使うことが無ければと思っています」

 そんな私の言葉に頷いているところを見ると、おおよその事は分ったのだろう。

「私もナイフを一つ購入しました。何があるか分りませんからね。用心は大切です」

 

 暖炉の前の3人は持っていく武器を決めたんだろう。後かたずけを始めると、今度はヤスリでヤジリを研ぎだした。

 キティが買い込んだ矢は30本以上ある。それを丁寧に研いでいるんだが、キティは自分の矢を研いでいるようだ。矢筒には12本だけど、それ以外に10本近く持っていたみたいだな。

「キティ。弓は滑車付きを使いなさい。その方が威力があるわ」

「分ったにゃ。でも組み立て式も持っていくにゃ」

 それがどういう理由か分っているなら大したものなんだけどね。

 まだ、形見の片手剣は思うように使えないだろうから、2つ弓を持っていけば十分だろう。【メル】も3回は使えるはずだ。

 残りの2人も魔道士の杖なのだが、形はバトンに長めのフレイルだからな。ガトルを殴りつけるには十分だろう。

  

「それで、ミチルさんはやって来ると思っているのですか?」

「はい。貴族が保身を考えて報告したのではないかと……。東に去ったと言ってもそれは確実ではないようです。となれば、群れを散らしたというのが真相でしょう」

「大丈夫でしょうか?」

「スノウガトルはガドラーの上を行きます。皆さんから離れて対処しますから……」


 私の言葉に小さくミレリーさんが頷いた。

 もしも、私が倒されたら……、後は惨殺体が残るだけという事が分かったらしい。

 そんな獣が森にいたら、いずれハンターは倒れていく。遅いか早いかの違いでしかないのだ。


「私も、本気のミチルさんを見てみたいですね。片手剣の最高峰と言われる動きを見てみたいです」

 クレイもそんな事を言ってたな。

 長剣ではガリクスの方が遥かに上だと思うけど、片手剣ならガリクスにも後れを取らない自信はある。

 こんどの狩りは久しぶりに片手剣で相手をしてみるか。拳銃でも1体なら何とかなりそうだが、素早く動く相手に44マグナム弾を命中させることは至難の技だ。


「そうだ! ミレリーさん。ベッドのシーツを1つ頂けませんか? 古くても良いんですけど」

「それ位構いませんが、……っ! そういう事ですか」

「そういう事です」


 もう一つ欲しいものがあるけど、これは明日にでも雑貨屋で手に入れよう。

 ネリーちゃん達が作業を終えたところで、遅い夕食を頂く。

 今夜は早く休もう。明日はかなり歩くことになりそうだ。


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