表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/140

GⅡー39 マリーの幼馴染現る


 ロディの怪我は、町のギルドを拠点とするハンター達に衝撃をもたらしたようだ。

 私のところに状況を聞きに来るハンター達が大勢いる。それだけ、ロディの存在が町にとって大きいという事だろう。

 そんな彼らに、ダノンが経緯を説明してあげてるけど、ロディの術後の状態は私よりも詳しく話している。

 不思議に思って聞いてみると、ロディの仲間を通して状況が伝わって来るらしい。


「ロディも相手が決まったと見るべきだな。ライズが相手となると、将来はカインドのようになりかねねえぞ」

「そこまではいかないでしょうけど、お似合いだと私も思うわ。でも、まだ20歳そこそこよ」


 そんな話をしながらギルドの暖炉で時を過ごす。

 プレセラ達は罠を一回りしながら雪レイムを狩っているはずだ。ミレリーさんが一緒だから安心できるな。キティ達はテレサさんが引率してくれてる。たぶんガトルが群れで来てもだいじょうぶだと思うぞ。

 ダノンの指導している子供達は町の近くに罠を仕掛けているから、毎日の見回りも朝の内に終わってしまう。

 そんな事だから、ここで一服しながら子供達の帰りを待っているのだが、意外と退屈なんだよな。


「どこに行ってもその話ね。でも、ロディが復帰するのにどれ位掛かるんでしょうか?」

 私の横でお茶のカップを持ちながら、私達の話を聞いていたマリーが私に顔を向けた。

「一昨日、抜糸をしてサフロを掛けたから家の中を動いてるはずよ。傷を負って20日は経つから、後10日もすれば現役復帰よ。でも体力が落ちてる筈だから、近くの罠猟からになるわね」


「俺は薬草採取だったぞ。もっとも、冬じゃなかったからな。冬だと考えるとゾッとするな」

 偶然が色々と重なったんだろうな。不幸ではあったがそれ以外は全て良い方向に運が向いている。あの美人な奥さんだってそうだと思う。


 そんな話を仲間内でしている時に、ギルドの扉が開いて数人の男女が入ってきた。ガリウスが一緒だけど、いつものメンバーじゃないな。

 私を見付けると、暖炉にやってきた。ダノン達がベンチを離れると近くから椅子を持ちだしたぞ。カウンターに帰るんじゃないのか?


「しばらくだな」と言いながら仲間をベンチに座らせる。私の横には気遣ってか、女性を座らせたけど、立派な体格はトラ族って事だろうな。


「何時ものメンバーとは違ってるわね。カウンターで手続きをしないということは、新たな警邏隊って事かしら?」

「ミチル殿の言う通りだ。国王の新たな取り組みで国内治安の向上を図ることになった。今までの警邏隊の充実が審議され、隊長職の補佐に副隊長が置かれる。その上、町規模では2つの警邏分隊が置かれ分隊長以下4人で任務に就くことになる」


 ある意味、軍隊の縮小になるのだろう。とはいえ兵隊は志願制だから、農家の次男や3男が多い。除隊になっても耕す場所が無ければ暮らしていけなくなる。単に除隊させると盗賊になりかねないぞ。


「開拓団も組織したの?」

「南の川沿いを開拓するそうだ。良く知ってるな?」

「軍隊を縮小したんでしょう。下手に縮小したらそれこそ盗賊団がうようよ出て来るわ。警邏隊の増強はそれを見越したものね」


 私の言葉にガリウスが苦笑いを浮かべる。

 兵隊全てが善人ではない。中にはどうしようもない者だっているのだ。軍を縮小するとなると、そんな輩が大勢はじき出される。

 苦労して開墾を始めるよりも安易な道に進む者だっていないとは限らない。その為の予防措置って事になるんだろうな。まあ、その辺りは私が口をはさむ事ではない。定期的に膨れ上がる軍を縮小して新たな土地開発を行うのは、これが初めてではないのだから。


 そんな私達にマリーがお茶を運んできた時だ。

「あら、誰かと思ったらリオンよね。立派になって……。お姉さんは元気なの?」

 皆がマリーの話し掛けた相手を見たぞ。私だって思わず両者を見比べてしまった。

「久しぶりですね。マリーも元気そうで。姉も元気ですよ。2人も子供がいます」


 そんな言葉に片手を口に当てて驚いた仕草をマリーが見せているけど、これはひょっとして、ひょっとしたりするのかな?

 思わずダノンに顔を向けると、にこにこしながら私にウインクしてるぞ。その顔では止めた方が良いと思うけど、今はマリーの方が優先だ。


「私達は幼馴染だったんですけど、親が商人だったので小さい時分にこの町を離れて王都に近い町に引っ越したんですよ。まさか、まだマリーが独身でいたとは思いませんでした」

 そんな事を仲間に告げているけど、マリーが独身なのはどうしてわかるんだろう? マリーの歳ではとっくに嫁に行ってる筈なんだけどね。ひょっとして情報のリークはガリウス辺りなのかもしれないな。


「リオンが新しい副隊長だ。この町は幼いころに暮らしたとはいえ、かなり昔の話だ。馴染みならその辺りを良く教えてやってくれないか?」

「リオンじゃ仕方ないわね。泣き虫リオンが副隊長とは世の中何が起きるか分からないわ」

「それは言わんでくれ。俺だって立場があるんだからな!」


 今更泣きついてもどうしようもあるまい。クスクスと部下達が笑ってるぞ。だけど、それは昔の話。今では副隊長を務めようと言うのだからそれなりに努力したんだろう。


「屯所はここから直ぐだ。俺はお前にこの3人を引き合わせたかった。そして、良いか。良く聞いておくんだぞ。困った時にはミチル殿を頼れ。王都の参謀達よりも頼りになるはずだ。マリーは知ってるようだが、こちらがミチル殿だ。ハンターでもある。その隣がダノンでギルドの職員とハンターの兼業をしている。それじゃあ、後は頼んだぞ」


 ガリウスも中々忙しい奴だな。

 たぶん軍隊の同僚にでも案内を頼まれたんだろう。ある意味、王都の有名人って事だろう。次期侯爵のグライザム退治や3つ首ダルバ退治の武勇伝は彼の立場をそれなりに上げているんだろうな。

 そんな彼に輿入れした姉を持つ護民官の活躍もだいぶ様になってきたからな。それも彼あってのこととちまたで噂されているに違いない。手を取り合っての視察は私も聞いたことがあるからな。


 ガリウスが去ったところで新たな警邏隊員は少し肩の荷を下ろしたようだ。やはり緊張していたのかな? ちょっとかわいそうになってきたぞ。


「それで、私達の宿をマリーに探してほしいんだ。警邏隊が宿屋に泊るわけにはいかないし、警邏隊の屯所は小さいからね。新しく町外れに作るらしいんだけど、2か月ほどは民泊したいんだ」

「そうなると……、待ってね」


 マリーがカウンターに走っていくと、フィーネと何やら話し込んでギルドを飛び出して行った。まったく行動的だな。十分ハンターになれるぞ。


「ところでミチル殿は剣の腕が高そうですね。ガリウス殿が相手に殿を付けるハンターに初めて会いました」

「昔助けたのを恩に思ってるんじゃないかしら? 至って普通のハンターよ。普段持ってる剣だって片手剣だし」


 それでも私を見つめる目は真剣に私の技量を計ってるようだ。ガリウスには届かなくとも、かなり近いところにいるんだろうな。

 ふと、リオンが目をそらした。どうやら自分なりに納得したようだな。

 

「たぶんマリーが民泊口は見付けてくれると思うわよ。一休みしたら、屯所の隊長はバリーさんだけど、剣ではあなたの方が遥かに上よ。でもね。彼には人望があるの。それは剣の腕以上に大切な事よ」

「ご忠告、ありがたくお受けします。それでは、お邪魔いたしました。後でギルドに部下を向かわせて民泊場所を確認します」


 そう言ってベンチから腰を上げると、部下達が彼に続いてベンチを後にした。

 扉近くで私達に一礼して去っていく。中々出来た若者だな。辺境の町の警邏をさせておくには惜しい人材だぞ。


「姫さん。俺はひょっとしてと思うんだが?」

「偶然ね。私もひょっとするんじゃないかと思ってたのよ。中々見どころがあるわ。将来が楽しみな人材なのは確かなんだけれどね」


「だが、将来よりも今が大事だ。俺は行動に移すぞ」

「何もせずに見守ってあげましょうよ。生暖かく見守るのが筋ってもんでしょう」

「まあ、確かに生暖かくもなるわな。だが、この冬一番の町の話題に違えねえ。ロディ達がかすんじまうな」


 傍目で見てる分にはおもしろいから、楽しみに違いないな。これはミレリーさんの頭にも入れておかなくちゃならないぞ。


 夕暮れまでギルドで過ごして、プレセラ達の無事な姿とキティ達の無事な姿を確認したところで、キティ達と一緒に宿に戻ると、すでにミレリーさんが食事を準備して待っていてくれた。

 いつものように、ネリーちゃんが食事を取りながら狩りの様子を話してくれる。今日は雪レイムが4匹とは中々じゃないかな。

 その内の1匹はキティが弓でしとめたらしい。この頃急激に体力が伸びてきたように思えるな。キティもそろそろ弓を変える時期に来ているのだろうか? となると片手剣も教えておかねばならない。来春は色々と忙しそうだぞ。


 お茶を飲みながら明日の狩りに話が弾む。

「ロディお兄ちゃんのパーティに宿の小母さんが同行してくれるんだって。宿の小父さんが私達と一緒に来てくれるの」

「6人中2人が抜けたらちょっと心配ですからね。テレサなら安心です」

 

 確かに安心過ぎるくらいだ。ガトルが群れでやってきても安心出来そうだぞ。

 子供達がお風呂に向かうと、私とミレリーさんで蜂蜜酒を傾けながらシガレイを楽しむ。

「実は……。」

 マリーと新しい警邏隊の副隊長リオンについて話してみると、ミレリーさんはどこか遠くを見ているようだった。


「確かにあの2人は幼馴染だったんです。いつも一緒でしたね。私達のまね事で仲良く薬草を採ってましたよ。その内ハンターになると皆が噂してたものです」

「でも、『泣き虫リオン』ってマリーが言ってましたよ」

「別にケンカが弱いという事は無かったんですが、根が優しい性格なんでしょうね。【私達が狩った獣を見て涙を浮かべてたのを覚えています】


 天然記念物並みの優しさだな。神官になれば大成したかも知れないけど、今では副隊長で、剣の腕もそれなりだ。

 彼の優しさは無くなってしまったんだろうか? マリーはきっとその優しさを覚えてるんだろう。昔と変わった彼を見た時、果たしてどうなるんだろう?

 これも、来春までには分かることに違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ