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GⅡー36 焦ってるのかな?

 ダノンがお嫁さんを貰って10日も経つと、とりあえず周囲も落ち着いてきた感じだ。

 マリーが少し焦っているようにも見えるけど、こればかりは縁だからね。きっと良い旦那様が見つかるだろう。それまでは焦ってもしょうがないんじゃないかな?


 「ミチルさんは結婚しないんですか?」

 「そうね。まったくその気がないわ。エルフだからかしら? 他の種族と結婚したら、旦那を先に無くしてしまうものね」


 そう言って、ごまかしておく。マリーはそんな私に向かって溜息をついている。ひょっとして紹介しろって事なのかな?

 

 「町に、良い人が見つからないの? テレサさんに頼んであげようか?」

 「そんな事をしたら、日替わりで男の人を連れてきます! それだけはダメですからね」


私の目の前で両手を振って訂正してるぞ。となると、ミレリーさんか、ガリクスあたりだな。

 「町を出たいって考えてるのかしら?」

 「昔はそうでしたけど……。やはり、この町で育ちましたから」


 ということは、ミレリーさんって事になるぞ。今夜にでも相談してみよう。

 プレセラの連中がラビーの毛皮を売って帰ってきたところで、私も家に戻ることにした。だいぶ、寒くなって来たけど、ラクス達はちゃんとセーターを着ているようだ。風邪なんかひかせたら暮らしが立たないからな。何といってもハンターは体が資本なんだから。


 「ただいま」と言いながら、扉を開ける。

 「お帰りなさい。まだ、ネリー達は帰ってこないんですよ。今日は、テレサが一緒ですから、もうすぐ帰るとは思うんですが」


 暖炉に焚き木を追加しながらミレリーさんが呟いた。ポットを掴むと、テーブルに持ってきて、2つのカップにお茶を注ぎ、テーブルに着いた私の前に置いてくれる。


 「だいぶ寒くなってきました。もうすぐ雪の季節ですね」

 「たぶん1週間もしないで雪が降ると思います。罠猟の季節ですが、大型獣を狩りにハンターが町からやって来るんでしょうね」


 ハンターの交代の時期ってことだな。若いハンターは南に移動して、壮年に近いハンターが山沿いの町にやって来る。

 互いの交流で噂や、人の交流が起こるからそれなりに楽しい季節なんだけど、怪我をする者が多いのもこの季節なのだ。

 筆頭ハンターのクレイ達は何を狩るんだろうか? リスティンは確定なんだろうけどね。


 お茶を1杯飲む間もなく、「ただいま!」と声がする。ネリーちゃん達が帰ってきたみたいだ。テーブルに着かずに3人で暖炉の前に腰を下ろしたのを見たミレリーさんが、笑顔を見せながらお茶のカップを配っている。


 「今日はね。雪レイムを見たんだよ。キティちゃんが1匹し止めたから、この季節で最初だね」

 ネリーちゃんの報告に、キティが笑顔を見せる。中々の腕になってきたようだ。来春には、弓を変えねばならないだろう。今のままでは、本来の弓使いのように矢を次々と撃てないからな。


 「そうなんだ。だいぶ上手くなったわね。雪レイムは罠でも捕れるんだけど、断然弓の方が数が捕れるわ。頑張って皆の帽子が作れれば良いわね」

 私の言葉に、うんうんと頷いている。


 「雪レイムの帽子は女の子の憧れですからね。頑張ればこの冬で全員が被れるでしょう。ミチルさんは被らないんですか?」

 「私は、革の帽子で十分です。裏はラビーの毛皮ですから暖かいですよ。それに、これも持ってはいるんですけど……」


 そう言って、魔法の袋から取り出した帽子を見て、ミレリーさんが目を丸くする。

 「スノウガトル……。噂では聞いたことがありますが、見るのは初めてです」

 「綺麗……。まるで細い銀の糸みたい」

 「だいぶ昔に隣国の山奥で手に入れたものです。雪原を群れるガドラーって感じの獣でした」

 私の話なんか聞いていないな。手に持ったふさふさした帽子に目が行ったきりだ。

 見せびらかしているようで、ちょっと被り辛かったんだよな。汚れたりしちゃ勿体ないしね。【クリーネ】はあるけど、やはり汚れるのは嫌だからな。

 そんなわけで、冬は革の帽子を被っているんだけどね。

 

 ネリーちゃん達の罠猟の話を聞きながら食事が終わると、ミレリーさんと2人で蜂蜜酒を飲みながらシガレイを楽しむ。


 「ミレリーさんは、マリーのお相手を見たことがありますか?」

 「いいえ、ありませんわ。確かにそろそろ相手を探す年頃ではありますね。セリーは早くに嫁ぎましたから、内心は少し考えるところがあるというところでしょうね」


 人のうわさで飲む酒は美味しいものだ。ミレリーさんもマリーに相応しい相手に考えが及ばないらしい。これは、マリーも大変だな。同じ年頃の若者がいないって事になるからね。

 そうなると、残りはダノンが頼りって事になる。だが、彼にはたして見つけられるだろうか? 私の知ってる若者で一番マリーに歳が近いのはグラム達だからな。グラム達には、怖いお姉さんの印象が強いからちょっと無理だろう。姉さん女房は上手く行くって聞いたこともあるけど、その前に恐怖心を克服しなければならないのが問題だな。


 「最後の手段はテレサさんですけど、『日替わりで紹介されそうだ』と言ってました」

 「テレサならそうなるでしょうね」

 2人で笑い声をあげてしまった。今頃噂の2人がくしゃみでもしてるんじゃないかな?

 それはそうとしても、この冬の話題はマリーのお相手は誰か? であちこちの茶の間が賑わう事は間違いなさそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・


 ついに、この冬最初の雪が町を包んでしまった。

 いつもなら降っては融けるの繰り返しを2、3回繰り返してから根雪になるんだが、今年は最初の雪がそのまま根雪になってしまった。

 ネリーちゃん達は、カインドさんに連れられて、林の中に罠を仕掛けている。その先にある森はロディ達の狩場だし、更に先はグラム達が罠猟をしながらガトルを狙っているようだ。

 私は、プレセラの連中を引き連れて、荒地に罠を仕掛ける。林に続くなだらかな斜面の雑木や藪の影が狙い目だ。たまに見掛けるラビーやラッピナは弓の良い練習にもなるから、全く何も捕れないという事はない。吹雪が続かなければ、それなりに暮らしが立つだろう。

 そして、ダノンはキティ位の子供達を数人連れて町の周りにたくさん罠を仕掛けている。数で勝負する気だな。


 雪が降る日は、ネリーちゃんや私達は早めに引き上げるが、ロディ達は最低でも1泊はするようだ。森の中に安全な場所を作ってあると教えてくれた。どうやら、簡単な小屋を作ったようだな。そんな中で焚き火を囲むなら、吹雪だって怖くはないだろう。3日分は非常食を持っているようにと忠告すると、笑って頷いていた。たぶんもっと持っているんだろうな。


 そんなある日。朝から凄い吹雪に町は包まれていた。

 ネリーちゃん達は、今日はお休みらしい。プレセラの方も吹雪の日は休みだと言っておいたのだが、万が一にもギルドに集まっていると面倒だ。

 食事を早めに頂いて、私一人でギルドに出掛けた。

 風でマントが吹き飛びそうになる。しっかりと両手でマントを抑えながらギルドに着くと10人程のハンターが吹雪の治まるのをまっているようだった。


 「マリー、プレセラとネリーちゃんのパーティは本日は休業だから、メンバーがやってきたら伝えてくれない?」

 「これじゃあ、無理ですよね。分かりました」


 用事が終わったところで、依頼掲示板に期限切れの依頼が無いことを確かめて暖炉に向かう。

 暖炉の傍にあるベンチには数人の男女が座っていた。厚着はしているようだから、吹雪が治まれば直ぐにも出掛けるのだろう。


 「姉さんは1人なのかい? 俺達はリスティンを狩るんだ。青の半ばなら連れて行っても良いぞ」

 「声を掛けて貰って嬉しいけど、若い連中に狩りを教えてるのよ。ごめんなさいね」


 私がベンチの端に腰を下ろしたのを見た、若い男が声を掛けてきた。まあ、悪気はないのだろう。どちらかと言うと単なる暇つぶしに話題を振ったに違いない。


 「狩りを教えるだって? 罠猟を教えるのは誰にでも出来そうだ」

 「それなりに教えてるわよ。それで、リスティン狩りをこの町でやるのは初めてなの?」

 

 「生憎とそうなる。姉さん、良い狩場があれば教えてくれないか?」

 今度は壮年の男だ。たぶん彼がリーダーなのだろう。黒6つと言うところだろうか? ざっとベンチの連中を眺めると、残りは黒3つ程度に見える。まあ、リスティン狩りをやるにはこの辺りのレベルが最低欲しいところだ。


 「この町の北門を出て直ぐに東を目指すと森があるの。リスティンはその森を抜けて更にその先の尾根を越えた辺りからが狙い目なんだけど、注意点が2つあるわ。1つは尾根を2つ越えたら、グライザムの危険性があるという事。もう1つは、リスティンを狩るとガトルが追ってくるってことね」


 グライザムとガトルの言葉を聞いて、連中の顔色が変わる。少なくともグライザムが危険だという事は知っているみたいだ。


 「ガトルはどれぐらい出るんだ?」

 「昨年の狩りでは100を超えたわ。ガドラー2頭がいたぐらいよ」

 

 う~ん……、と唸り声を漏らしている。

 「やはり、他のパーティと組んだ方が良さそうだな。出来れば姉さんにも来てもらいたいんだが……」

 「おめえ達は、黒姫様に同行を頼んでるのか?」

 近くのテーブルから椅子を運んできて、私の隣に腰を下ろしたのはダノンだった。


 「黒姫だと! それじゃ、この姉さんが……」

 「間違いなく、姫さんだ。銀9つ、この王国、いや近隣の王国を含めてそのレベルになったハンターはいねえだろうよ。確かに姫さんもリスティン狩りはするが、赤の連中を連れてだぞ。それでも怪我人さえ出さねえ。そんな狩りを子供等に教えてくれてるんだ。おめえ達が狩りに連れだしたら、子供等が困ってしまう」


 「なら、せめてリスティン狩りに使えるパーティを紹介してくれ。グライザムは無理だがガドラーなら俺達も1頭ならどうにか倒せる。だが周りのガトルを倒せる連中が欲しい」

 それは理解できるな。となると……、グラム達ってことかな?

 「グラム達ってことかしら?」

 「ああ、十分に対処できる。黒4つなら問題ねえだろう。秋口からガトルを狩っているから、襲ってくるガトルも少ないだろう」

 

 ダノンもグラム達で十分だと判断したようだ。彼らも少しは稼ぎの良い獲物を狩れるから喜ぶだろう。


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