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G-010 ちびっ子達の秘密


 「ジルギヌですか?……石を退かすのは子供の手では大変じゃないですか?」

 「そこは、ちゃんと考えてますから大丈夫ですよ」


 「それと、これが関係してると?」

 「そうなんです。でも、そんなに綺麗に編めるなんて思いませんでしたわ」


 ミナリーさんは、私が買い込んできたタコ糸のような糸を使って、網を編んでくれてるのだ。網の目は3cmもあるから、かなり粗い網だがこれが無いとジルギヌを捕まえるのは熟練の腕がいる。

 ジルギヌは水面から顔を出すと、獲物を挟んでいたハサミを開くのだ。

 私なら、一瞬に取り込むから問題は無いのだが、子供達だとその呼吸を合わせるのが難しいだろう。後ろから網を近づけて網の中にジルギヌが入るようにすれば良いだろう。


 「さぁ、出来ましたよ。どうですか?」


 出来た網は風呂敷のような大きさの物が2つだ。

 沢山タコ糸は残っているし、革紐も買い込んできた。これで、明日は大漁間違い無しだな。


 「十分です。これで沢山捕まえられますわ」

 「明日は、ネリーちゃんも一緒の筈です。この依頼を私に見せてくれたちびっ子達に、小さい子達も連れてきなさい。って言っておきましたから」


 「沢は流れが速くて危ないですわ。ミチルさんが一緒に行ってくれるんですよね?」

 「捕らえ方を教えないといけませんから……。でも、水には入らずに済むと思いますわ」

 

 私の言葉に頭を捻っているようだ。

 昔もそうだったけど、この世界ではジルギヌを釣ろうって考える人がいなかったんだよな。

               ・

               ・

               ・


 次の朝、ギルドでお茶を飲んでいると、子供達がぞろぞろと集まってきた。

 早速ちびっ子のリーダーである男の子が私のところにやって来る。


 「皆集めたよ。早速教えてよ!」

 「それじゃあ、出掛けましょう。……マリー、ちょっと出掛けて来るわ。南門の外の広場の東を流れる小川にいるから何かあったら呼んで頂戴!」


 そして、子供達を引き連れてギルドを後にする。

 南門の門番さんは、不思議に思って声を掛けてきた。


 「だいぶ大勢引き連れてるな?」

 「ちょっと、子供達の依頼のお手伝いです。広場の東の川の辺りにいますから」


 「あそこは薬草が多いからな。薬草に気を取られてると落ちる子がいるかもしれん。気を付けてな」


 どうやら、薬草採取と勘違いしたみたいだ。

 そして、門を出て10分もしない内に、小川の辺に着いた。


 川岸が崩れないように、杭を岸辺に打ち込んであるから、子供達の足元が崩れる心配もないし、この杭にジルギヌが潜んでいるのだ。


 子供達のリーダーはロディと言う11歳の男の子だ。

 ロディに命じて、長さ8D(2.4m)程の棒を人数分手に入れるように命じる。岸辺の藪には釣竿にするのに丁度いい雑木が生えているから早速、ロディ達年長者が竿を作り始める。

 それを見ながら私はタモ網を作る。

 腰の強い雑木の枝で、網を縫うようにして輪にすれば簡単なタモ網が出来る。それを3m程の棒の先に革紐でしっかりと結べば出来上がりだ。


 「作ってきたよ!」

 

 そう言って、私の作ったタモ網を興味深く見ているぞ。

 

 「これで釣竿を作るの。よく見てなさいよ」


 ロディ達が作った竿にタコ糸を竿の長さに取付ける。

 そうして出来上がった8本の竿に餌を付ける訳だが……。


 「ゲロッコは?」

 

 私の声に、直ぐに目の前に蓋の付いた桶が出された。

 地面に桶を置いて蓋を開けると……、いるいる。


 1匹を手に取ると、地面に叩きつける。

 子供達が吃驚して私とゲロッコを見てるぞ。


 「いい? これからが一番大事なところだからね」


 足を突っ張って死んでるゲロッコを手に取ると、片足を持って足の外側の指をグイって引張った。すると、ズルリ……って感じで皮が剥ける。そのまま下に引張るようにすると全ての皮が剥ける。もっとも片足だけは残ってしまうのだが。


 子供達はオォォ!って言いながら私の作業を感心して見ていた。

 皮の剥けたゲロッコの足にタコ糸を結ぶと、川の中にポチャンとゲロッコを投げ入れる。

 直ぐに竿先がグイグイと引かれる。ゆっくりと竿を上げて用意したタモ網に誘導するようにして水面に上げるとジルギヌがタモ網の中へと入って行った。

 そのタモ網を岸に上げれば、最初の1匹が手に入ったことになる。

 その一部始終を、目を大きく見開いてちびっ子達が見ていた。


 「どう? 分ったかな?」

 「やってみる!」


 早速年長者が見よう見まねでゲロッコを地面に叩き付け、皮を剥いてタコ糸に結んでいる。

 それを小さい子に渡しているのは偉いぞ!

 30分ほどで全員分を作ったところで、岸に並んでジルギヌを釣り始めた。


 「引いてる!」

 「直ぐ行く、待ってろ!!」


 忙しそうだ。年長の2人は殆ど自分の竿をを持ってる暇も無いほどだ。

 昔のガキ大将みたいだな。

 しっかりと歳下の子供達の面倒を見てやってる。

 最初に私に依頼書の判断を求めたのも、そんな責任感からなのだろう。

 現段階で、リーダーとして必要な資質をロディは持っているようだ。

 これなら村人も安心して子供を任せられるはずだ。


 そして私は、シガレイを吸いながらのんびりとちびっ子達を眺めてる。

 やはり、ザリガニ釣りは子供の遊びだと思うな。

 ところで、この依頼って幾らなんだ?

 ロディを呼んで依頼書を見せてもらうと、20匹で60Lと言うことだ。20匹以上の時は1匹2Lという事だから、これはお小遣いに苦労しないんじゃないかな。

 子供達は全部で8人だから、1人10Lになれば良いだろう。80Lならば30匹だな。1人4匹釣れれば問題なしって感じだ。

 それより多く釣れたら各自に持たせれば良い。焼くと結構美味いんだよな。


 ロディが少年を村に走らせている。どうやら獲物を入れる桶が足りないらしい。

 ロディを呼んで、数を数えさせた。あまり多く獲ると次が獲れなくなる事を告げておく。


 「そうだね。お姉さんの言うとおりにするよ。1人10L何て久しぶりだし、ジルギヌなんて生まれて初めてだよ」

 「面白いから、たまに釣るのは良いけどね。あまり釣りすぎると他の人だって始めるわ」


 こう言っておけば、ちびっ子達は秘密にするだろう。

 大人達が知らない、秘密の獲り方を知っているというのは、ちびっ子達の自尊心をちょっとは満足させるに違いない。


 そして、ちびっ子達が獲物を選んで数えている。どうやら50匹以上釣り上げたらしい。

 30匹をギルドに渡して、各自が2匹ずつ手に入れることになったようだ。

 余ったジルギヌは小さなものが多いし、変に分配をすれば子供達の間にしこりが残る。

 ロディは思い切って、それ以外のジルギヌを川に戻すことにしたようだ。


 そして、釣竿から糸を外してゲロッコの足を解くと、それを川に投げ込んだ。

 証拠は残さず。糸があればまた釣れるし、タモ網はロディと年下のパーティを率いている男の子が1本ずつ分けたようだ。


 そして、次に釣りをする時にはロープを用意することを言い聞かせた。

 「落ちたら大変よ。ロープがあれば引き寄せられるでしょ。そして門番さんを急いで呼べば良いわ」


 水辺は危ないからな。今日みたいにしていれば川に落ちる事は無いが、万が一って事もある。


 ギルドではちょっとした話題になった。

 ジルギヌ20匹は普通なら2日位が目安らしい。それを30匹以上の数を半日も掛けずに依頼の結果として持ち込んだからな。


 ロディ達は満足げに参加者全員に銅貨を配っていたし、これから各自の家を回ってジルギヌの分配を始めるようだ。

 私に手を振りながら子供達がギルドを出て行くと、マリーが慌てて私のところにやって来た。


 「いったい、どうやったらあんなにジルギヌが手に入るんですか? 誰も信用しませんよ。未だ半日も経ってませんから」

 「ゲロッコの死体にジルギヌは群がるのよ。それを利用して獲ったんだけど。これも記録に残すの?……出来れば、子供の遊びとして伝えていきたいわ」


 「子供達の秘密ですか……。たしか蜜蜘蛛もそんな感じでしたよね。良いでしょう。これは記録として残さずにおきます」


 暖炉の傍でマリーとお茶を飲む。

 昔子供の頃に、年上の子供に教えて貰ったやり方だと説明すると、マリーが目を輝かせる。


 「私にはそんな遊びを教えてくれる人がいませんでした。ミチルさんが羨ましいです」

 「遥か昔のことだわ。でもね、そんな遊びを今でも覚えているの。それはハンターになった時に色々と役にたったわ」


 シガレイを吸いながら、前に暮らした20年にも満たない世界を思い出す。

 今では断片的な記憶が残っているだけだが、あの時代の私は幸せだったのだろうか?

 小さい頃の事は多く覚えているのだが少年時代の事はあまり思い出せないし、家族については顔すら思い出せなくなってきたな。


 

 「あのう……。高レベルのハンターとお見受けします。ちょっと相談に乗っていただけませんか?」

 「ええ、良いわよ。でも私で役にたつかしら?」


 私はそう言って、彼をさっきまでマリーが座っていたソファを指で示す。

 どうやら、3人のハンターのリーダーらしい。

 歳のころは、まだ少年と言うところかな?


 「しばらく前から貴方の事が気になって見ていました」

 「あら!」


 ちょっと驚いた仕草を示す。

 途端に少年の顔が赤くなったぞ。自分の言葉が誤解を与える言葉だと気が付いたらしい。

 

 「いや、そういう風な気になるという事ではなくてですね……」

 「あまり、年上のお姉さんをからかわないでね。それで?」


 反応が面白かったけど、からかってばかりじゃかわいそうだ。


 「実は、そろそろ狩りを始めようかと言うことになりまして。皆は一応、親譲りの長剣を持っているのですが、俺はそんなものはありませんから、コツコツと貯めた資金で武器を買おうと考えてました。

 でも、どんな武器を買ったら良いか見当もつかなくて……」


 フム……、この手の相談は難しいぞ。

 確かに、少年の両隣に座った同年代の少年は長剣を背にしている。そして、私の目の前の少年は採取ナイフを腰に差したままだ。

 このまま3人でハンターを続けるならば、魔道師が欲しい所だが、この少年も仲間と同じ剣を使いたいのだろう。


 「1つ教えて頂戴。何故、私の意見が聞きたいの?」

 「この間、あのテーブルでハンターを前に話しているのを聞いたんです。私は前衛だと言ってました。でも、貴方は片手剣です。片手剣で前衛が出来るのであれば、長剣を止めて少し上の片手剣を買う事が出来ます」


 なるほど、迷ってる訳だな。

 剣ならどちらでも良い。だけど、買うのは一度きりだから納得した買い物がしたいという事だろう。


 「難しい問題ね。そればっかりは、貴方が選ぶ外はないわ。でも、私が前衛であったことは確かだけど、これを常に使ってた訳じゃないわよ。どちらかというと、こっちの方が遥かに多かったわ」


 ソファーの小さなテーブルに、私の剣とバッグから採取ナイフを取り出して並べた。

 

 「これが、貴方の片手剣ですか? 普通の片手剣よりも横幅が狭いですよ。そして、これは採取用のナイフじゃないですか?」

 「剣を抜くのはギルドでは無理だけど、それは片方に刃があるだけなの。だから細身に見えるようね。そして、その採取ナイフは特注品よ。槍として使う事もできるの。

 それに、6D(1.8m)程の柄を付けたものを使うことが多かったわね」


 「槍ですか! でもそんなことが出来るようには見えないんですが?」

 「あら!こう見えても力は貴方達より上だと思うわ。エルフ族でも変り種はいるものなのよ。そして、長剣でも片手剣でも狩りをする時には相手を叩けばいいわ。両手で叩くか、片手で叩くかは個人の好みもあると思う。それに、何を狩るかによっても違ってくるでしょうね」


 ある意味、短槍はオールマイティに使える。向いてないのは小型の獣だけだ。

 だが、槍を持つより剣を持った方が格好が良いからな。

 

 「俺達はしばらくは野犬やガトルを狙おうと思っています。この場合なら貴方はやはり槍を使うんですか?」

 「槍は付けないわ。棒で十分だもの。でも、貴方達がそんな依頼を受けるなら、素早く動ける武器を装備しなさい。群れを相手にしたら、長剣はちょっと不利になるわね。でも、逆に長剣でガトルの群れに挑めるようであればハンターとして大成するでしょうね」


 「相手によって武器を使い分けるという事ですか……」

 「それが大事なの。オールマイティに使える武器は少ないわ。そして、そんな武器でも、全ての狩りに使える訳ではないわ。得意な武器とそれが通用しない相手用にその武器の欠点が長所となる武器の2つを使えこなせると良いんだけどね」


 私の言葉で余計に迷うことになるだろうな。

 たぶん、一緒の2人が長剣だから、片手剣になるんだろう。それともお揃いにするのかな?

 中型の獣の狩りで、剣の持つ長所と短所をしっかりと自覚できれば良い。

 長剣3人の前衛なんて贅沢だから、直ぐにも魔道師が寄って来るだろう。そして、数人のパーティで大型の獣を狩る時に初めて万能の武器がないことに気が付く筈だ。それからは創意工夫の世界になるんだけどね。


 「相談に乗っていただきありがとうございました。武器屋に何故あんなに種類があるか少し分ったような気がします。これからの狩りを考えて仲間でよく相談します」

 「役にたてなくてごめんなさいね。でも、野犬やガトルを狩る時には相談に乗るわ」


 私の言葉に少年達は席を立つと、もう一度深々と頭を下げて去っていった。

 

 

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