八話
仕留めたイノシシを沢に沈め、私たちはぼんやりと焚き火を囲んでいた。
正確には、ぼんやりと焚き火を囲みながら、内臓肉を焼いて食べていた。
腐りやすい内臓類は、場合によっては狩りの最中に食べてしまうこともある。
獲物をとったのは私たちなので、食べる権利もあるのだ。
また、焚き火はある程度の野生動物を遠ざける効果もある。
腹が膨れ、襲われる心配も減らすことが出来る。
まさに一石二鳥だ。
一緒に来ていた三人の大人達も、一緒に肉を食べていた。
ウォーゴブリンは肉に目がない。
じゅうじゅうと焼けている肉を目の前に、我慢しろというのは実に酷な話だ。
私と「こるて」ならば、なんとしてでも肉を食べようとするだろう。
肉とはそれほどまでに、私たちウォーゴブリンの心を捉えて止まないものなのだ。
「りぃむ」たちにはいつも呆れられるのだが、彼女たちは一体どうやってこの衝動を抑えているのだろう。
一度「ぼっつ」に聞いてみたのだが、「君たちの食欲がすごいんだと思うよ?」という答えが返ってくるだけであった。
私も「こるて」も、ウォーゴブリンとしては多少大柄な部類に入るのだが、だからと言ってそこまで違うものだろうか。
たしかに私たち二人は、他の三人と違い前衛になる為に肉体的訓練を多く取り入れている。
運動量が違うわけだから、たしかに食べる量に違いは出るだろう。
しかし、一キロも二キロも違いが出るものなのだろうか。
生まれ変わったとはいえ、未だ私の中にある常識の多くは生まれ変わる以前のものだ。
不思議に思うことは間違いで、そういう差があるのが当たり前なのかもしれない。
将来私たちが大人になれば、後輩、つまり子供たちの訓練を指導することもあるだろう。
そういうときに対応できるよう、そういった知識も持っておかなければならない。
訓練を施す大人に知識が無いというのは、恥であるだろう。
もっとも、まだまだ半人前以下の私が考えることではないのかもしれないが。
さて、今食べている肉なのだが、きちんと味付けを施したものであった。
私が持参したツケダレを使ったのである。
「海原と中原」には、日本にあった調味料と似たものもあれば、全くかけ離れたものも存在している。
塩やしょうゆのようなものがあったのは、日本の味に慣れ親しんだ私にはとてもありがたかった。
もっともしょうゆと言っても、魚の内臓などを使った魚醤と呼ばれるものであったのだが。
まあ、味が似たようなものであれば同じようなものである。
私はどちらかといえば味音痴なほうであったから、そこまでこだわりは無いのだ。
持参していたツケダレは、そんな私が自分で作ったものであった。
唐辛子のような辛さのある実と、ギョショウ、それに、いくつかの果実の汁を混ぜたものだ。
これを内臓肉に良くすり込み、焼き上げるのだ。
肉汁と良く引き立て合い、食が進む味である。
このたれを作るのには、随分と苦労したものだ。
生まれ変わる以前、私の妻は酒が好きであった私のために、良く酒にあうつまみを作ってくれたものであった。
妻は様々なものに合わせるタレを作るのが得意だった
肉を焼くときも市販のものは使わず、自分で手作りしていたのだ。
唐辛子に醤油、すりゴマ、ネギ、コショウ、おろしにんにくに、揚げにんにく。
そういったものを使い、手間を惜しまず作られたタレは、酒のつまみにも飯の友にもなったものである。
今つっているツケダレはそれを再現しようと思って作ったものなのだが、なかなか上手く行かない。
「海原と中原」、というか、少なくともウォーゴブリンの基地には無い食材もあるので再現はなかなか難しくあるのは分かる。
だが、それを差し引いてもどうしても一味足りない気がするのだ。
配合分量などもまだまだ研究が必要なのだが、何よりその一味が分からない。
恐らく、これが隠し味という奴なのだろう。
そういえば、妻に面と向かってタレの材料を聞いたことは無かった。
妻が死んだ後、その味は娘に引き継がれていたから、味を恋しいと思うことも無かった。
まさか、死んで生まれ変わってからその作り方に悩まされることになるとは、夢にも思わなかった。
こんなことであれば、死んだときに少し天国により、タレの作り方だけでも聞いてくれば良かったかもしれない。
私としては未だに完成に至っていないと思われるツケダレであるが、仲間達には思いのほか好評であった。
お世辞ではなく本当に気に入ってくれているであろう事は、皆の食べっぷりを見れば分かる。
美味いものを食うときは、一心不乱に成るものなのだ。
それは、人間であってもウォーゴブリンであっても変らない。
一緒に居た大人達も、なかなか気に入ってくれているらしい。
まだまだ年齢も青年といったほうがいい程度なことも手伝ってか、良く食べている。
それでありながら周囲への警戒を怠っていないその姿勢は、実に見習うべきところがあった。
肉を食べていると、「ぼっつ」がこんなことを言ってきた。
「これもおいしいけど、漬け込んだのもおいしいよね。あの何日か寝かしておくやつ」
その言葉に、「こるて」も呼応する。
二人が言っているのは、ツケダレというより漬物に近いだろうか。
キムチの様に大量の香辛料を使い、味を濃くして漬け込むのだ。
浸透圧の関係で細菌も沸きにくく、痛みも遅い。
難点としては、味が馴染むのに数日から十数日掛かるところだろうか。
ここで、私はあることに気が付く。
この漬け込む時間というのは、運搬の時間に当てられないだろうか。
内臓肉を輸出する直前、または数日前に漬け込めば、完成は到着後か、直前ということになる。
ウォーゴブリンが取引をしている相手は、そう遠くに居るわけではない。
「おおあしかなりあ」をつかって、精々五日から七日の距離に居るものばかりだ。
で、有れば、これで輸送の間に肉が悪くなるという心配は無くなるかもしれない。
私は早速、その思い付きを仲間に話してみた。
なかなかに反応がよく、皆賛同してくれる。
それらを食べたことが無い大人三人は、是非それも食べてみたいといってくれた。
どうも、よほどツケダレを気に入ってくれたらしい。
自分が作ったものを喜ばれるというのは、実にうれしいものだ。
妻もこんな風に感じていたのだろうか。
もっと妻の料理を褒めて置けばよかったかもしれない。
後悔先に立たずとは、よく言ったものである。
そんなことを考えていると、大人の一人がふと心配そうな顔でこんなことを言った。
「内臓肉も輸出できるようになったら、俺達新鮮な内臓肉あたらなくなるのかねぇ?」
その瞬間、私と「こるて」そして、大人の兵士たちの手が止まった。
なんということとだ。
私は愚かにも、その恐れを考えていなかったのである。
言われてみれば、私たちが今新鮮な内臓肉を食べられるのは、それが輸出用のものでないからである。
他の部位の肉は持ちがいいので、交易品として扱うことが出来る。
その分、内臓肉に比べて私たちの口に入ることは少ないのだ。
私は内臓肉も好きだが、他の肉も十二分に好きであった。
腿肉やハラの部分の肉。
様々な部位の肉が好きだし、生の刺身として食べるのも好きなら、焼いて食べるのも好きだ。
時々、三日に一度程度の感覚で食卓に上る肉は、どのウォーゴブリンにとってもご馳走だろう。
それを待つ思いは、まさに一日千秋だ。
もし内臓肉が輸出されるようになれば、たしかに私たちの口に入る機会は減るだろう。
そうなったら、どうなってしまうのか。
食卓に上る内臓肉の量が、減ってしまうかもしれない。
もしかしたら、上らない日が来るかもしれない。
例え肉があったとしても、内蔵肉が食卓にあがらないことは殆どない。
そんなことが本当に起こってしまったら。
大人の一人が皿を取り落とし、私の手からはしが落ちる。
私が作ってしまったタレは、悪魔の品であったのかもしれない。
言いようの無い沈黙が周囲に立ち込める。
それを払拭したのは、「ぼっつ」であった。
彼は肉を咀嚼しながら、さも当然の様にこういったのだ。
「持っていける肉の量はどうせ変らないんだから、その分他の部位の肉が当たるんじゃないかな?」
一度に運搬できる肉の量には限りがある。
相手方が消費する量にも限度があるわけで、こちらが用意したからと言って何も全て持っていけるわけではない。
それに、味の良い肉や加工済みの肉は付加価値が付く。
塩に漬け込んだ肉や燻製肉は生肉よりも価値があるものとされるし、美味い肉であればあるほどやはり価値も上がる。
私が考えているような漬け込んだ肉は、少なくともウォーゴブリンの基地では作っていない。
ということは、ウォーゴブリンの基地から肉を手に入れている集落にとっても、珍しいものということになるだろう。
珍しく美味い肉にすることが出来れば、その価値は上がり、交換レートが上がるだろう。
そうすれば必要なものを手に入れるために必要な肉の量は減り、寧ろ自分たちが食べる肉の量も増えることになるかもしれない。
「とはいっても、相手もお腹一杯食べたいだろうから、そんなに持っていく量が減るわけ無いとも思うけれどね」
「ぼっつ」は肉を頬張りながら、そう締めくくった。
その場に居た「ぼっつ」以外全員の手が止まっている。
皆ぽかんとした顔をしているが、恐らく私も相当に間抜けた顔をしていることだろう。
いち早く復活したのは、大人の一人だった。
「お前……天才だな」
「ぼっつ」はそんな大げさな、と謙遜していたが、私もしみじみとそう思った。
全く、この男の頭の中はどうなっているのだろうか。
イノシシ一頭分の内臓というのは意外なほど量が多く、大人三人、私たち五人でも食べきれるものではない。
残った肉を袋にしまっていると、突然「くりっつ」と大人の一人の表情が変わった。
近くに大型の魔獣がいるというのだ。
言われて耳をじっと澄ませば、たしかに微かではあるが枝木を踏みしめる音が聞こえてくる。
ウォーゴブリンの五感は、人間のそれよりも遥かに優れている。
この音を立てている主も、そう近い位置にはいないだろう。
早速、全員が感じ取ったことを言い始める。
情報を共有し、状況を判断するのが先決だ。
相手が直近くにいるわけではないこと、大型の魔獣であるらしいこと。
この二つは、全員同じ判断をしていた。
音があまり近くなく、踏み潰されたらしい枝木の音が多いことからそう判断したのだ。
更に、大人の一人が「相手は六本足である」と付け加えた。
私にはまだ判別が付かないが、足音からそれを察知したらしい。
地球では小さな昆虫ぐらいしか居ない六本足だが、この「海原と中原」では爬虫類や哺乳類のような生物の中にもそれらは存在するのだ。
そして厄介なことに、六本足の大型の魔獣というのは、凶暴なものが多い。
大人の中の一人、リーダーであるその大人は、難しい顔を作った。
相手が六本足であることを突き止めた大人に、相手の種類は分かるかと尋ねる。
帰ってきたのは「恐らくムシの類だろう」というものだった。
硬い殻に覆われた、昆虫型の魔獣であるというのだ。
リーダーの大人は、その答えにますます顔をしかめた。
昆虫型の魔獣は理性が殆ど無い場合が多い。
食欲という本能に突き動かされ、場合によっては格上の魔獣魔物にさえ喰らい付いていくのだという。
そんな魔獣であるから、ウォーゴブリンの縄張りであるこの辺りにまで出張ってきたのだろう。
基地には沢山の兵士が居るから、まず危険は無いだろう。
だが、建物に損害が出た場合が厄介だ。
ウォーゴブリンは、建築などの仕事が得意ではない。
どちらかというと嫌う傾向にあるので、恐らく実力のある地位の高いものはやらず、若い兵士達がやらされることになるだろう。
つまり、今私たちと一緒に居る大人三人ぐらいの世代だ。
大人とはいっても、彼らは人間で言えば二十代後半程度の青年達だ。
私たちの訓練の教官役をしている以上実力は認められては居るだろうが、それはある意味使われやすいということでもある。
基地近くで戦闘になり、建物に損害が及んだ場合、真っ先に修繕に使われるのは彼等だろう。
どうやら私の予想は当たっていたらしく、彼等の一人がぼそりと「司令官は基地の近くでグレネード使うからなぁ……」とぼやいてる。
私の父はどんな場所であっても爆発物を使うのをためらわないらしい。
たしかに「ぐれねいどぅ」は魔獣と対峙するとき心強い武器になるだろうが、場所を考えず使うというのはどうなのだろう。
基地は我々にとって家でもあるわけだから、その近くで爆発物を使うというのはいただけない気がする。
彼等の口ぶりからすれば、恐らく過去にそういうことがあったのだろう。
今日家に帰ったら、それがどういう状況であったのか聞いてみることにしよう。
もしかしたら、私の知らない面白い話が聞けるかもしれない。
だが、今はそれよりも目の前の問題に集中すべきだろう。
魔獣の発見を基地に知らせるのか、それともここに居るもので対応するのか。
どちらにしても、相手を見張っておかなければ成らないのは変らない。
相手の位置が分かっているのといないのとでは、雲泥の差がある。
なんにしても、この時点で訓練は終了だ。
ここから先は、リーダーである大人の指示に従うことになる。
リーダー……名は「けいんず」といった。
「けいんず」は僅かな時間考え込むと、全員に今もって居る装備の申告を指示する。
大人の一人の装備は、ナタ、手斧、短弓。
この短弓は小さくはあるが、複数の素材を重ねて作った強力なものだ。
つがえる矢には分厚いナイフのようなやじりが取り付けられている。
有効射程こそ短いものの、威力は十分だ。
連射も効くので、矢が通る相手であればかなりの効果を発揮する。
もう一人は、ハンマーに短槍、そしてナイフという、実に分かりやすいパワータイプの装備だ
「こるて」が目指すとすれば、このような形になるのだろう。
それらの装備のほかに、大人はそれぞれ五つの「ぐれねいどぅ」を持っていた。
全員実物を見せ合い、不備が無いか確認しあっている。
私たち五人は大人の装備を、興味深く眺めていた。
皆それぞれ、少しでも自分の参考にしようとしているのだろう。
自分の目指す兵科と違うものであったとしても、仲間がそういった装備をすることはあるだろう。
そういった時のためにも、現役兵士の装備を見ておくのは実に参考になるのだ。
ふと、「ぼっつ」がなにやらぼそぼそと呟いているのが聞こえた。
「そうか、あのぐらいの厚みのあるものをもっと高速で飛ばせば、クロスボウでも威力が稼げるんだ」
良く聞いて見れば、実に不穏なことを言っているではないか。
また何か武器を作るつもりなのだろう。
狩りが効率よくできるようになるのは喜ばしいことだが、「ぼっつ」が作るものはどうにも物騒でいけない。
今度もう少し安全性を考慮するように言っておく必要があるだろう。
そんなことを考えていると、「けいんず」から思わぬ声が掛かった。
「よし、それじゃあお前たちの装備も聞こう」
この言葉に、私たちは少なからず驚いた。
監督役である彼等には、私たちの装備はある程度報告しているはずだ。
もっともそれはある程度であり、詳しい数や品物などは報告していない。
聞けばアドバイスなどをしたくなることがあるからだ。
そういった準備を自分達ですることも、この訓練の一環であるのだ。
困惑はしているが、上官の指示である。
グループの決まりごととして、こういった場合は私が最初に行動する事になっていた。
私は地面にしゃがみ、装備を口頭と実物を示しながら報告していく。
剣が二本、投げにも手に持っても使えるサイズのナイフが四本、「ぐれねいどぅ」が五つ、分厚めのナタが一本。
剣を好んで使う、私の性格が出ているのではないだろうか。
固い相手をどうにかするときのために、ナタが紛れてはいるが、基本的には使うことは無いだろう。
続けて、「こるて」だ。
大型ハンマー一つ、ナイフが四本、獲物を解体する為のナイフが一本、「ぐれねいどぅ」が五つ。
見事なまでのパワー思考である。
一本ぐらい剣があってもよさそうだと思うのは、私だけだろうか。
「りぃむ」は、大型、中型、小型の「ぐれねいどぅ」が五つずつ、かんしゃく玉ほどの大きさの「ぐれねいどぅ」が手提げ袋に一杯。
そして、投げナイフ六本に、短槍一本、分厚いナイフが二本。
なんとも重装備だ。
全身火薬庫と言っても差し支えないだろう。
「くりっつ」は、「ぼっつ」が作ったクロスボウが一丁、予備は「ぼっつ」の足つき丸太に積んである。
矢玉は四十以上と、「ぐれねいどぅ」を括り付けた特殊矢が六本、そして、分厚いナイフが二本だ。
彼女の場合、クロスボウを撃つのが仕事なので装備自体はこの程度で問題は無いのだ。
さて、最後に、「ぼっつ」である。
彼は若干興奮気味に、足つき丸太を私たちの前へと押し出した。
「ぼっつ」が何かしらの指示を出すと、足つき丸太の背が開き、何かがせり上がって来る。
連射機能つきの、大型クロスボウだ。
でかすぎて抱えるのが大変だということで、足つき丸太のに装備させたらしい。
丁度、備え付けのバルカン砲のような状態だろうか。
ウォーゴブリンはハンドルを握り照準を合わせ、トリガーを引けばいいというわけである。
丸太の横には、左右に本体と同じ太さの小さな丸型くくりつけてあった。
それらのふたを外すと、内部に無数の穴が縦に入っているのが分かる。
中には、何かが詰まっているようであった。
「ぽっつ」がその一つを取り出し、説明を始める。
「これは、金属の筒の先を尖らせたものに炸裂用のグレネードと、小型の推進用グレネードを仕込んだものです。爆発の勢いで敵に推進して対象に突き刺さり、遅滞性のグレネードが炸裂します。これのすばらしいところは、個々に推進力を持つという点です! この発想にたどり着いたのは何を隠そう、「までぃ」のお陰なんです! 本当に彼の発想にはいつも驚かされますよ!」
何故そこで私の名前が出てくるのかいまいち釈然としないが、少なくとも全員が同じ想いであったらしい。
「お前のほうに驚かされるわ」
全員を代表して、「けいんず」が言葉に出してくれた。
流石リーダーである。
だが、「ぼっつ」の装備はこれだけでは終わらなかった。
グリップ部分に「ぐれねいどぅ」を仕込んだナイフに、腕に括り付けたバネ式の小型ナイフ投擲機。
極め付けが、足つき丸太本体に仕込まれている、大型の推進式杭なのだという。
これは丸太の横についているものを大きくしたもので、当てるのは難しいものの、直撃さえれば大型魔獣でも倒すことが出来るのだそうだ。
そういえば、そんなようなものを以前実験していたような気がする。
そのとき私は肉を食っていたので、それ所ではなかったように記憶しているが。
なんと厄介なものを作るのだろう。
まったく彼の頭はどういう作りになっているのだろうか。
「ぼっつ」の装備を確認し終わった「けいんず」は、こらえきれないといった様子で肩を震わせた。
何が面白いのか、おかしくてたまらないといった様子だ。
暫く我慢して、ようやく笑いが収まったらしい。
「けいんず」は咳払いをすると、こう切り出した。
「よし、装備は大丈夫そうだな。お前たちの腕もある程度ここに来るまでに見せてもらった。相手にも寄るが、この面子で六本足を狩るぞ。いきなりで悪いが、初めての大型魔獣狩りだ」
予想もしなかった言葉に、私は度肝を抜かれた。
私たちはようやく十数回の狩り訓練を終えた、ひよっこだ。
その私たちに、「けいんず」は大型の狩りを手伝えというのだ。
これは無謀もいいところではないか。
しかし、しかしである。
こんなチャンスは滅多にない。
若いとはいえ、「けいんず」は経験豊富な兵士だ。
判断に間違いは無いだろう。
その彼が私たちがやれると判断し、狩りに参加させてくれるならば。
自分の実力を知るための、願っても無いチャンスである。
私は自分でも知らないうちに釣りあがっていた口の端を何とか引き摺り下ろし、「願っても無いことです」と応えた。
皆同じ意見だったのだろう。
顔を真っ青にしている「ぼっつ」を除いて、皆獰猛な笑顔を浮かべている。
おそらく、「けいんず」でなければ、即時撤退を指示していただろう。
今日このタイミングで彼が監督役になったことは、まさに幸運である。
後々にして思えば、これが私たち五人と「けいんず」の出会いになるわけだが。
このときはまだ皆そんなことには気づきもしていなかった。
戦闘を入れる予定が、こんな事に・・・。
まあ、次回は戦闘だけで一話作れると思います。