六話
ウォーゴブリンの狩りには、それぞれ役割が決まっている。
まず、装備や食料、獲得した獲物を運ぶ運搬係。
私達が相手にする魔獣は、その多くが私たち自身よりも巨大だ。
自然、それと戦う為の武器も大きくなる。
例えば「こるて」などは、自分の頭よりも二周りも大きいハンマーなどを扱う。
こんなものを幾つも持って歩いては、獲物に出会う前にくたびれてしまう。
かといって、それ一つだけ持って行っては、汎用性にかける。
そこで、丸太に足がついたあの魔法の道具や、道具の運搬係の出番になるのだ。
彼らは戦闘になれば後方に下がることになるが、その役割は重要だ。
戦闘員は武器を持ち、常に周りを警戒する都合上、大きな荷物や倒した獲物を運ぶことは出来ない。
彼等が居なければ、折角狩りに成功しても手ぶらで帰ることになるのだ。
次に、遠距離攻撃などを担当する、後衛。
これは、クロスボウや弓、「ぐれねいどぅ」などの魔法の道具を使い、攻撃をする役になる。
これらは小型の動物には非常に有効で、それだけで獲物に止めを刺すこともできる。
遠距離からの攻撃は、獲物に近付かなくて良い分こちらが怪我を負う恐れを低く出来る。
実に理にかなった、理想的な攻撃手段だ。
しかし、我々ウォーゴブリンが相手にするその多くは、魔獣や魔物といった文字通りの化け物だ。
中には、鉄板すら貫通するクロスボウの攻撃を、毛皮で弾き返すものすらいる。
そういう化け物を相手にするには、私達ウォーゴブリンの持つ魔法武器や遠距離武器ではどうしても火力不足になってしまう。
それを補うのが、剣やハンマー、槍や斧などといった武器での攻撃を担当する、前衛だ。
得意の獲物を手に、直接獲物に近付いて攻撃するこの役割は、もっとも相手に効果的にダメージをあたえることができる反面、もっとも危険な役回りでもある。
求められるのは、獲物にダメージを負わせる腕力。
相手からの攻撃を避ける技術。
万が一攻撃を喰らったとしても、耐え切れるだけの体力。
そして、もっとも必要なのは、運搬係や狙撃係に注意が向かないようにすることだ。
彼らは魔獣や魔物に対して、決定的な攻撃手段を持っていない場合が多い。
であるから、気をそらすような援護はしてもらったとしても、けしてそちらに攻撃が向くようにはしてはならないのだ。
実に難しい立ち回りを要求されるが、仕方がないことだろう。
前線に出るものというのは往々にしてそういうものである。
さて、この前衛であるが、体は大きければ大きいほど、体格は立派であれば立派なほど良い、とされている。
体が大きいというのは、それだけで力が強いこととイコールに成るし、それだけ打たれ強くなるからだ。
私達ウォーゴブリンは、常に訓練などを行っている為、体重が増えるというのはつまり筋肉量が増えるということを意味する。
重く、大きく、逞しくなればなるほど、それに伴って筋力は増えるのだ。
そして、強靭な筋骨を持つウォーゴブリンは例え多少大きくなったとしても、動きが極端に遅くなるようなことはない。
根本的に人間とは体のつくりが違うせいなのか分からないが、かなり体格がよくてもすばやく動くことが可能なのだ。
その為、前衛役を務めるウォーゴブリンたちは、兎に角身体を大きくしようとする。
肉を食べ、身体を鍛え、よく休息をとる。
そうしたことが体作りに必要だと、ウォーゴブリンは知識として知っているのだ。
そういった物事は当然子供達にも伝えられており、将来前衛役の兵科になることを夢見るものは、何とか大きくなろうと躍起になっている。
私のグループでは「ぼっつ」と「くりっつ」以外の三人が、前衛系の兵科になることを望んでいた。
私、「こるて」それから「りぃむ」である。
とはいえ、「りぃむ」は特殊な兵科を目指しており、他の二人ほど熱心に身体を大きくしようとはしていなかった。
彼女が目指しているのは、「爆雷兵」という兵科なのだが、それについては後で私達ウォーゴブリンの魔法についてと一緒に話すことにしよう。
とりあえずは、私と「こるて」の体作りに関して、話して行こうと思う。
身体を大きくする為に必要なのは、何はなくとも食べることである。
それは人間でも、ゴブリンでも同じだ。
外からエネルギーや材料を取り込まない限り、細胞を増やすことなど出来ない。
であるから、私と「こるて」は訓練が終わった後の遊びに費やせる時間で、なんとか食料を得られないものかと常に頭を悩ませている。
訓練が終わった後は疲れているせいか、兎に角ハラが減るのだ。
まあ、そのせいで夕食まで何も食べずにいるのが我慢できない、というのも大きな理由の一つなのだが。
若いからだというのはとてもよく動くことが出来る分、外からのエネルギーも欲するものなのだ。
特に私や「こるて」は身体を酷使し、筋力を増やす訓練をしている分、兎に角腹が減る。
これだけ腹が減るというのも、実に不思議な感覚だ。
生まれ変わる以前、まだ戦後間もない頃も食事には苦労したものだったが、ここまで腹が減っていた記憶はなかった。
実に新鮮な感覚だが、これだけは勘弁してもらいたかった。
それほどに辛いものなのである。
もしかしたら食べている分は身体を作る分に回されず、運動のエネルギーとして消費されているから、こんなに腹がすくのかもしれないと思うほどだ。
そんなことを「こるて」に話してみたところ、実に真剣な表情で考え出してしまった。
そして、もしかしたらそれはあたっているのかもしれない、と言い出したのだ。
幾らなんでも、そんなはずはない。
第一、そんな話は聞いた事がない。
子供というのは常に腹がすいたような感覚を味わうものだが、ある程度食べていれば育つものなのだ。
実際、私が生まれ変わる以前も、そういうものであった。
と、そこまで考えて、私ははたと重要なことに気が付いたのだ。
そう、ここは私が生まれ変わる以前の世界とは、全く違う世界なのだ。
魔法があり、ゴブリンが存在し、魔獣が闊歩する、「海原と中原」なのである。
もしかしたら。
万が一。
そういうことがあるかもしれない。
私と「こるて」は真っ青になった。
なんということだろう。
折角身体を鍛え、大きくなろうと訓練しているのに、それが裏目に出るとは。
では訓練をしなければ良いのかといえば、そうは成らないだろう。
訓練しなければ筋力はつかず、それでは前衛としての意味がない。
となれば、解決策は一つだ。
なんとしても余剰食糧、つまり、おやつを手に入れるしかない。
これは健全な育成と成長、ひいては、ウォーゴブリンの繁栄に必要不可欠なことである。
ただ単に腹がすいて仕方がないから、何かを食べたいだけ、などということは、けっしてないのだ。
とりあえず私と「こるて」が向かったのは、「ぼっつ」のところだった。
彼ならなにか良い手段を知っているかもしれないと思ったのである。
私と「こるて」の話を聞いた「ぼっつ」は、腕を組んで何かを考え始めた。
暫く唸ると、ぽんと手を叩いてこんな内容の事を話しはじめる。
取った獲物の加工場には肉が吊るしてあるが、内蔵は抜かれている。
それらは内臓脂が乗っている分、日持ちがしないためになるべく早く食べる必要があるのだ、という。
言われてみれば、確かに内蔵肉が入った食べ物は多い。
生まれ変わる以前も白モツやレバーなどの、所謂ホルモンは好物だったので特に気にしていなかったが、なるほどそういう事情があったのだ。
私はてっきり、この辺りのご当地メニューという奴なのだとばかり思って居たのだが。
さて、そういった内臓、特に白モツと呼ばれる腸の部分なのだが、これは美味いのだが足が速く、長期保存が出来ないという。
食べ切れなかった分は痛むこともあるので、場合によっては捨てられることもあるというのだ。
これを聞いた私と「こるて」は、思わず叫び声を上げてしまった。
なんと言うもったいないことをするのだろう。
捨てるぐらいならば、是非私達に譲ってもらいたいところだ。
いや、そうするべきであろう。
慌てて走り出しそうになるのを、私はぐっとこらえた。
既に走り出していた「こるて」も呼び戻し、座らせる。
不満を言う「こるて」を宥め、私は勤めて冷静に話し始めた。
内容は、以下のようなものだ。
「私達が考え付くようなことは、必ず誰かが考え付いているはずだ。そして、それが成功していないところを見ると、大人に断られているはずなのだ。であれば、それなりの理由がなければ、私達は内臓肉を手に入れることは出来ない。逆に言えば、理由さえあれば大人たちは快く内臓肉を譲ってくれるはずだ」
私の言葉に、「ぼっつ」は大きく頷いて肯定してくれた。
しかし、同時にその理由付けの方法は考えてあるのか、と聞いてくる。
勿論、そのあたりも織り込み済みだ。
私は、「まあ、とりあえずやるだけやってみよう」と、二人にその方法を話し始めたのである。
私が目をつけたのは、肉の保存方法についてだった。
私達ウォーゴブリンは、物々交換の手段として肉を使用している。
生肉を使用することもあるが、多くの場合は燻製、香辛料などを使った香辛料付け、塩漬け、などなど。
殆どのものは保存が利くように加工しているのだ。
ぱっと見た限り、私が生まれ変わる以前の世界で行われていた馴染み深いものもあれば、聞いたこともないようなものまで様々な方法がなされていた。
なるほど必要がある分、ウォーゴブリンたちはわたしの知識などよりも遥かに多くの保存方法を知っていたのだ。
ところが、である。
実はこれらの方法は、全て外部から輸入したものなのだという。
つまり、ウォーゴブリン特有の保存方法というのは存在しないというのだ。
どうもゴブリンというのは、分業意識が強い生き物らしい。
狩りは狩り、農業は農業、鍛冶は鍛冶と、それぞれの分野以外には思いのほか無頓着なのだ。
驚いたことに、それは料理に関しても同じだった。
何処かからレシピを聞いたりすればその通り作るが、自分で新しいものを作るという発想が殆どない。
ある程度アレンジを加えることはある。
しかし、殆ど興味がないのだ。
狩りの為の作戦や編成、武器の扱い方などは、実に深く考察する。
だが、それ以外の物事に関してはあまり興味がない。
生まれ変わる以前の記憶を持っているという特殊な経歴を持つ私でも、事ここに至るまで思いもかけなかったのだから、これはもう種族自体の傾向なのだろう。
そういうことを否定しているわけではないし、悪いと思っているわけではないし、無価値だと思っているわけでもない。
ただ単に、興味がわかないのだ。
それは生まれ変わる以前の記憶を持っているという、異色の経歴を持つ私でさえ同じだ。
狩りの事以外に工夫し考えるということ自体、意識の外にあった。
だが、私は思いついたのだ。
私が思いついた、肉を得るための方法。
それは、「新しい保存食を作るための実験材料」として、肉を分けてもらうというものだった。
腸詰や塩漬け、香辛料付けや干し肉。
様々な保存食が存在するが、その中には内臓そのものを食料として保存する方法はなかったのだ。
ならば、作ってしまえばいい。
そういう理由であれば、内臓肉は必須だ。
それがなければ話が始まらないのだから。
どうせ捨てるものを有効利用するのに、何の悪いことがあるというのだろう。
普通であれば、子供がこんなことを言い出しても大人は渋るだろう。
まして戦術などを考えるのを得意としている、ウォーゴブリンであればなおさらだ。
しかし。
そう、しかしである。
私達には、「ぼっつ」がついているのだ。
既に幾つもの発明品を作り、実績を挙げている意識改革の権化、「ぼっつ」がついているのだ。
例えば私や「こるて」がこれを言い出したとしても、それを通すのは難しいだろう。
だが、「ぼっつ」が言えばどうだろう。
その説得力は圧倒的だ。
実際、話はとんとん拍子に進み、「ぼっつ」は定期的に廃棄予定の内蔵肉を入手する権利を得たのだ。
まさに、発想の勝利である。
「でもマディ。肝心の保存食の開発はどうするのさ。何かあてでもあるのかい?」
内臓肉の塩焼きを食べている私と「こるて」に、「ぼっつ」が不安そうに尋ねてきた。
たしかに彼の心配ももっともだろう。
実験をするからには、何かしらの成果を出す必要がある。
私は暫く考えた後、こう応えた。
「まあ、そのうち何か考えよう」
そう、今はそんなことよりも、目の前の肉を食べることが大切なのだ。
さて、置いておいた「爆雷兵」という兵科について話そうと思う。
爆雷兵というのは、その名の通り爆雷を使う兵科だ。
この爆雷というのは、私が個人的にそう呼んでいるだけであって、正確な名称ではない。
それは、私達ウォーゴブリンが「ぐれねいどぅ」や「ぱぁいなぽぅ」と呼んでいる武器で、魔法を込めた爆発物なのだ。
扱い方としては、丁度手榴弾と似ているだろうか。
ただ、サイズは大きいものから小さいものまでまちまちで、一概にどの程度とは言えないのである。
これがどういったものであるのか説明するには、まず私達ウォーゴブリンの魔法について説明する必要があるだろう。
この世界「海原と中原」の生物は、皆魔力という力を持っている。
これは多かれ少なかれ、必ず持っているのだ。
地球上の生物がたんぱく質を基準に身体を作るように、これは絶対のルールであるようだ。
勿論、ウォーゴブリンも魔力を持っており、これを使って魔法を使うことが出来る。
ウォーゴブリンが使う魔法は、ものに自分の魔力を流し込み、任意の現象を起こすというものだ。
例えば、そう、石を爆発させるとか、である。
勿論、他の効果を発揮させることも出来る。
「ぼっつ」が作ったクロスボウの弦を引く動きも魔法の効果であるし、丸太の足が動くのも魔法の効果だ。
ただ、私達ウォーゴブリンにとってもっとも発動させやすいのは、どういうわけか爆発なのである。
「ぐれねいどぅ」の作り方は、実は簡単だ。
まず手ごろな石を用意して、魔力を注入する。
このときの感覚だが、なんとも言葉では言い表しにくいものなのだ。
生まれ変わる以前、人間であったときにはない感覚なので、説明が実に難しいのである。
人間に第3の腕がないのに、それを動かす感覚を伝えてもピンとこないであろうように、こればかりはなんとも言い表し難いのだ。
しいて言葉にするとするならば。
そう。
にゅるにゅるっとして、きゅっ、としたところを、ぽむっと言った感じだろうか。
これで伝わらないと成ると、恐らく一生かかっても私には伝えることは不可能だろう。
兎に角、石に魔力を所定の強弱などをつけて流し込むと、「ぐれねいどぅ」になるのだ。
だが、実はこれに掛かる時間が厄介で、一つ作るのに十分近く掛かるのである。
一つにつき、十分間。
一時間で六個がやっとなのだ。
これを早いと見るか遅いと見るかは、まあ感覚次第だとは思う。
しかしそれは同時に、咄嗟に手から火の玉を出すといったような芸当が出来ない、ということを意味するのだ。
私達ウォーゴブリンの魔法は、必ず何かしらの物質に魔力を込めなければ、発動できないのである。
しかも、相当に時間をかけて溜め込む必要があり、即効性がないのだ。
これは、私達ウォーゴブリンの魔力放出の特性に原因があるのだという。
ウォーゴブリンは、弱い魔力を長時間放出することは出来るが、強い魔力を短期間で放出するのが出来ない、というのだ。
例えるなら、乾電池のような弱い力をずっと出すことは出来るが、スタンガンの様に一瞬で放出しきってしまうことは出来ない。
ジョギングすることは出来るが、走ることは出来ない。
そんな感じだろうか。
数字で言うとするならば。
100の力を十分かけて放出することは出来るが、一瞬では出来ない。
といった所だろうか。
私達ウォーゴブリンの魔力の量が少ないわけではない。
寧ろ、若干多いぐらいだという。
だが、時間当たりに放出できる魔力の量は少ないのだ。
なんとも難儀な話である。
私達が放出できる量では、瞬時に現象を起こすことは出来ず、何かにためておく必要があるのだ。
実に歯がゆい話だ。
世の中には手から火の玉を打ち出したり、衝撃波を打ち出すゴブリンもいるのだという。
森にすむ獣でさえ、魔法を使った飛び道具を使うものがいるのだ。
にも拘らず、私達ウォーゴブリンはそういった瞬発的な魔法の扱いが出来ない。
これはとても不利ではあるまいか。
だが、逆に、であるからこそ、魔法道具を工夫することを覚えた、とも言えるかもしれないわけだが。
兎に角、ウォーゴブリンが魔法を使うには、何かに魔力をためておく必要がある訳だ。
それが「ぐれねいどぅ」のようなものであれば、直接石に。
それがクロスボウのようなものであれば、グリップ部分などにためておくことになる。
こうした魔力の仕込みは実に重要で、工兵などの専門の兵科か、もしくは自分用に自作することになるのだ。
この、自作する、というのは実はとても重要なことであった。
狩りの前に本部から渡される道具の数、特に「ぐれねいどぅ」などの魔法物品の数は、厳密に決められており、それ以上渡してはもらえない。
それ以上に欲しい場合は、自分で作るしかないのだ。
逆に言えば、自分で作りさえすれば、幾ら持っていてもかまわないのである。
「爆雷兵」は自作した「ぐれねいどぅ」を大量に持ち、それらを有効に使うことで敵に有効な打撃を与える、工兵と前衛兵科の中間に当たる兵科なのだ。
「ぐれねいどぅ」の破壊力は、込められた魔力の量に比例して大きくなる。
小さければ作る時間も短縮できるが威力が下がり、逆に大きければ時間は掛かるが威力が上がる。
本部から配給される「ぐれねいどぅ」は一律の品質であり、皆平均して同じ性能だ。
だが、「爆雷兵」は自作した様々なサイズの「ぐれねいどぅ」を、場合によって使い分けるのだ。
通常の「ぐれねいどぅ」のサイズでは対処できない魔獣であっても、「爆雷兵」が持つ大型の「ぐれねいどぅ」であれば、有効な場合もある。
逆に、小さい獲物を簡単に取る為に、小石サイズの「ぐれねいどぅ」を使うことも出来る。
これらを自在に用意し、場合によって使い分ける。
いわば「爆雷兵」は爆発物のスペシャリストであるわけだ。
ここでもう一つ、「ぐれねいどぅ」の特徴を説明しなければならない。
爆発させるとき「ぐれねいどぅ」を起動させる必要があるのだが、これは実は魔力を流すことで行うのだ。
外部からの衝撃で爆発することは、一切ない。
ある所定の方法で魔力を流して、初めて爆発させることが出来るのだ。
配給される「ぐれねいどぅ」は、魔力を流し込んでから5秒ほどで爆発するように設定されている。
しかし、「爆雷兵」が自作した「ぐれねいどぅ」はその限りではない。
魔力を流し込むときの、その流し方で爆発時間を調整するようにしていたり、爆発回数、爆発方向を調整したりできるようにも設定できるのだ。
自分で作っているから、好きなように設定できるようにすることが出来るのである。
そのかわり、そういった「ぐれねいどぅ」は往々にして他人には扱いづらく、起爆させることすら困難になる場合が多い。
それがかえって、彼等の特殊性を後押しする形になっているのだ。
さて、この「爆雷兵」だが、前衛後衛と分ける場合、どうしても前衛になってしまう。
「ぐれねいどぅ」を使うには、どうしても接近する必要があるからだ。
投げればいいではないか、と、思うものも居るかもしれない。
だが、一抱えもあるような、漬物石の様に巨大な「ぐれねいどぅ」を使う場合はどうだろう。
まあ、それを遠くまで放り投げることが出来る筋骨隆々としたウォーゴブリンも、居るにはいる。
しかし、一般的ではないだろう。
寧ろ、運んで、置く、というようなことが精々である場合が多いといえるのでは無いだろうか。
爆発の威力が石の大きさとある程度イコールである分、大きな爆発を起こしたい場合は、こういった弊害が生じるのだ。
大きい獲物を狙えば、当然大きな爆発力が望まれることになる。
となれば、「ぐれねいどぅ」も大型のモノを用意する必要がある。
それを扱えるのは、作った本人だけであり、当然設置するのも本人でなければ成らない。
なにせ、他人では起動すら出来ない場合が殆どなのだから。
このように、「爆雷兵」は魔法に特化した兵であり、破壊力に富んだ兵科でありながら、最前線に出なければ成らないというある種の矛盾を抱えた兵科なのだ。
そう。
言ってしまえば、まさに「りぃむ」にうってつけの兵科なのだ。
すばやく身軽で、投擲技術に優れ、接近戦の素養もある。
彼女にとっては天職といえるだろう。
であるから、彼女がこの兵科の存在を知ったとき、「絶対にこれになる」と宣言したのは、至極当然であると言える。
それからの「りぃむ」の努力は、実に感心させられるものだった。
大きな「ぐれねいどぅ」を扱えるように身体を鍛えつつ、設置したらすぐさま逃げられるように、足も鍛えていた。
そして、「ぐれねいどぅ」作りの練習にも余念がない。
訓練で作り方を習ってからは、毎日の様に私達が集まっている「ぼっつ」のヒミツ研究所で、「ぐれねいどぅ」を作っているのだ。
私も「こるて」も、その姿には関心しきりである。
これは、負けていられない。
私達も負けないように訓練をしなければならないだろう。
その為にも、まずは腹ごしらえである。
そう結論を出し、私と「こるて」はいそいそと内臓肉焼きの準備を始める。
肉を焼きだすと、「りぃむ」はいつも「気が散る」と怒り出すのだ。
たしかに、美味そうな匂いを嗅がされては気が散るに違いない。
私が「りぃむ」にも食べるように促すと、彼女はぶつぶつと文句を言いながら肉を食べ始める。
これが、いつもの流れである。
そして横を向くと、いつのまにか「くりっつ」も肉を食べているのだ。
それをみて、私は慌てて肉に手を伸ばすわけである。
おたおたしていると、肉が全部食べられてしまうのだ。
それを見た「ぼっつ」が、不安げにこう話しかけてくる。
「ねぇ、保存食の開発、どうするの?」
もちろん、私の答えは決まっていた。
「まあ、そのうち何か考えよう」
そう。
そんなことを考えるより、目の前の肉のほうが大事なのだ。
マディも、大分ウォーゴブリンらしくなってきたようです。
ぼちぼち周りの説明が終わった所で、いよいよ森に演習に行くようです。
次回はついに、実物の魔獣と会う事になるかもしれません。