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閑話 「あいつらすげぇ怖い」

 ウォーゴブリンは勇猛果敢であるとはいえ、ゴブリンである事には変わりない。

 基本的には臆病で、だからこそ武器を揃え、敵を理解し、群で行動をする。

 身体を鍛えるのも、基地を作るのも、厳しい訓練に励むのも、臆病さの裏返しであるのだ。


 二匹のウォーゴブリンの子供が、訓練施設の端で斧を振っていた。

 分厚く破壊力のある斧は、大型魔獣を仕留めるときにウォーゴブリンが用いる定番武器のひとつだ。

 二匹は前衛職に就くことを目指し、腕力の向上と斧の扱いの習得を目指して訓練に勤しんでいるのだ。

 暫く素振りをしたあと、二匹は地面に突き刺した杭に鉄板を打ち出して作られた鎧をくくり付けた。

 斧での打ち込みを練習する、的にする為だ。

 二匹が打ち込みをしていると、一匹のウォーゴブリンが近付いてきた。

 他のグループのリーダーをしている、マディと言う子供だ。

 彼は同い年の中でもずば抜けた剣の使い手で、皆彼の動きを真似しようと観察の対象にしていた。

「打ち込み練習か。皆精が出るな。君等は体も大きいし力もあるのに、まだ練習するんだな。俺も見習わないとな」

 お前に言われたくねぇよと言いたい二匹だったが、マディの勤勉さは生まれた時からの事なのでつっこまなかった。

 それよりも、マディの剣のふり方を覚えようとその動きを観察し始める。

 マディも近くに打ち付けてある杭に鎧をくくりつけると、ゆっくりと剣を構えた。

 反りのある分厚い刀で、マディが製法を教えボッツに作らせていると言うものだ。

 以前から刀を使いたいと口にしていたマディだったが、最近我慢が出来なくなってきたらしい。

 支給されるのを待つのではなく、ボッツに作ってもらうことにしたようだ。

 兎も角、刀を持ったマディは思わず二匹が後ずさるほどの迫力を放っていた。

 数秒か刀を構えて集中をすると、マディはゆっくりにも見える動作で刀を振るった。

 刀が振り下ろされるのと同時に、鉄で出来た鎧が縦に切り裂かれる。

 力で無理矢理叩き斬られたと言うより、竹を割るように真一文字に綺麗に割られたような切り口だ。

 唖然とする二匹を他所に、マディは不満そうな顔で鎧の切り口を観察している。

「いかんなぁ。やはり腕が鈍っているか。昔の様にはいかんなぁ。あの頃も毎日木刀は振っていたんだが。やはり真剣ではなくてはいかんのだろうな」

 なんだか良く分らない事をつぶやいているが、要約すると腕が鈍ったとかそんなような内容だ。

 腕が鈍っているウォーゴブリンでも、あんなに綺麗に鎧が切断できるものらしい。

 まして、マディと二匹は同い年だ。

 自分たちももっとがんばらなくては。

 そう心に決めた二匹だった。


 別の日、二匹が基地の中をふらついていると、マディたちのグループがたむろしているのを見つけた。

 なにやら妖しい道具を歩行丸太に積み込み、試射をしようとしているらしい。

 二匹は彼等に挨拶をすると、見学をさせてもらうことにした。

 それを開発したらしいボッツが、興奮した様子でそれがどういうものなのか説明を始める。

「これはマディのアイディアを実用化しようと開発中の兵器で、グレネィドの破壊力を一定方向に集約する事で敵対象を倒すためのもので……」

 早口な上に内容が難しすぎてついていけなかったが、要するに途轍もない破壊力を生む物品であるとは理解できた。

 早速試しうちをするというので、彼等は歩行丸太から距離をとった。

「じゃあ、早速行くよ! 発射準備……撃てっ!!」

 ボッツの合図で、丸太に火が入る。

 その瞬間、丸太が爆発した。

 凄まじい炸裂音が鳴り響き、丸太が四散する。

 破片があたりに飛び散り、もげた丸太の足が地面に突き刺さった。

 唖然とする二匹を他所に、マディのグループの者達はまるでそれが当たり前だと言うような様子でいる。

「うーん、やっぱり爆発しちゃうなぁ……強度が足りないのかな?」

「材料を木だけに拘るからだろう。強度が足りんのだ。周りに荒縄でも巻けばいい」

「縄! そうか! それならうまくいくかもしれない!」

「しかし、良く爆発するものだな。初期のロケットでもこんなに爆発すまいに」

「ロケット? なんだそりゃ」

「爆発の勢いで飛んで行く円筒形の物品だ。知らんか?」

「全然知らない」

「ちょ、ちょっとまってマディ! それはどういうものなんだい?! 詳しく教えてよ」

「しまった余計なことを言ったか……。まあ、なんと言うかだな……」

 まるで当たり前の様に話し始める彼等を見て、二匹は「コイツラって怖いな」と心に強く思ったのであった。


 別の日、二匹が歩いているとボッツが丸太を弄っているのを見つけた。

 嫌な予感が背筋を走り、逃げようとした二匹だったが、いつの間にか後ろに回っていたボッツに捕まってしまった。

 コイツこんなにすばやかったっけと思った二匹だったが、それどころではなかった。

「丁度良かった! 是非二人に見学してもらって意見を聞きたいんだ!」

 凄く逃げ出したい二匹だったが、ボッツにしっかりと捕まれて逃げることが出来なかった。

 コイツこんなに腕力あったっけと思いつつも、二匹はしぶしぶ見学を了承した。

「なあ、俺すげぇいやな予感がするんだ」

「俺も」

 二匹は嫌な予感を抱えながらも、近くに有った鉄板の裏にかくれて丸太を見守った。

 丸太には蜂の巣のようなものがくくりつけられており、その中には鉄のくいのようなものが入っていた。

「これはこの間マディが言っていたロケットっていうのを参考に作った、噴進爆発弾なんだ! これが魔獣に突き刺さり爆発すれば凄いダメージを……」

 難しい単語が並んでよくわからなかったが、兎に角凄い武器であるらしい。

 二匹はしっかりと鉄板を抱え、実験が始まるのをまった。

 少し離れた場所に設置している、彼等が隠れているのと同じ鉄板が的なのだと言う。

「行くよー! 発射っ!!」

 次の瞬間、爆音とともに丸太から光の矢が発射された。

 ボシュボシュという音とともに飛び出した光の矢は、次々と鉄板に殺到。

 鉄板にあたったと思ったその瞬間には、途轍もない爆発音を上げて爆発する。

 二匹は、顎を外して鉄板を眺めていた。

 上がっていた土ぼこりが晴れると、そこにあったのはズタボロになった鉄板の姿があった。

「やったー! 成功だ!!」

 飛び跳ねるボッツを他所に、二匹は自分たちのひざが笑っているのを感じた。

 自分たちが隠れていたのと同じ鉄板がズタボロになったのだ、無理もないだろう。

「何事だ?」

 そこにふらりとやってきたのは、マディであった。

 彼はきょろきょろと周りの状況を見ると、深くため息をつく。

「全く。またゴミを増やしたのか。運ぶのが大変だな」

 そういうと、マディはやおら腰に挿した剣を引き抜き、鉄板を切り裂き始めたのだ。

 薄い鉄板ではない。

 二匹が身を隠そうと思うぐらい、逞しい鉄板だ。

「なあ。あいつらすげぇ怖い」

「偶然だな。俺もだ」

 二匹は、彼等に近づくときは細心の注意を払おうと、心に誓ったのだった。

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