表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

プロローグ

 これといって善行を行ってきたとは思っていなかったが、寿命をまっとうして老衰で死ぬだろうと思っていた。

 それが、こうして事故で死ぬことになったところを見ると、知らないところで何か悪いことをしていたのかもしれない。

 仕事の都合で車を走らせていたところ、前を走っていたトラックの積み荷が崩れてきた。

 重そうな金属の支柱が自分に迫ってきたとき、これは死ぬだろうと妙に冷静に思ってしまった。

 なぜ死んだ私が、その時のことをこうして思い出しているのかといえば、ここが死後の世界であるらしいからだ。

 なぜそれがわかるのかといえば、今私の体がいわゆる火の玉のような形状であり、目の前で天使らしき背中に純白の羽をはやした人物が二人揉めているからだ。


「あのね。俺前に行ったよな? ファンタジーなめんな!! 簡単に転生させろとかふざっけてんのかごらっ?!」

「俺に言わないで下さいよ。主任が約束したんじゃないですか、あの世界の神様とは」

「社交辞令だろ?! よかったら魂転生させますよーって! 輪廻転生をつかさどる者同士の間を円滑にするための社交辞令だろう!!」


 これが世にいうキレているという状態なのだろうか。

 状況がわからないままではまずかろうと、私は天使のような二人に話しかけてみた。


 どうやら彼らは本当に天使であるらしい。

 話によると、私は、正確には私の魂はずいぶんと善行を積んできたのだそうだ。

 世界の運営にずいぶん貢献してきたのだそうで、以前いた世界の神様がその褒美として記憶を持ったままの輪廻転生を許可してくださったのだという。

 記憶を持ったままの輪廻転生というのがどうして褒美になるのか私にはよくわからないが、今は神様の間でそういう褒美が流行っているのだという。

 神の間の流行というのは人間には及びもつかない考えのもとに行われるものであろうから、私は「そういうものなのか」と思うことにした。

 先ほど、「以前いた世界の」といったが、どうやら今私がいるのは前世の私から見て異世界の「転生を司る場所」なのだそうだ。

 そして、目の前の二人は天使であり、魂の運用を司っているのだという。

 実に大変そうな仕事だ。

 しかし、大変重要で立派な仕事である。

 私がその旨を彼らに伝えると、彼らは泣きながら私の体をたたいた。

 どうやら普段はそういった声をかけられる事が無いらしい。

 信じられない話だ。

 これほど重要で、苦労の多いであろう仕事も少ないだろうに。


 さて。

 彼らの話によると、私は記憶をそのままに転生する権利を有しているらしい。

 ただ、それは彼らにとってすごく面倒な仕事でもあるようだ。

 それはそうだろう。

 異世界の知識を持った人間が、その世界に及ぼす影響は計り知れない。

 その世界と違う分野に発展した知識を持っている者なら、なおさらだ。

 違う価値観、倫理は、異端以外の何物でもないだろう。

 さらに言うと、わたしはそれなりに高い地位の者の子供として生まれることになっているらしい。

 これは、問題が起こるのがわかっていて物事を行うようなものだ。

 悪いことが起きるに決まっている。

 私はその権利を辞退しようと天使たちにその旨を伝えたのだが、そういうわけにもいかないらしい。

 相手の神様への手前もある、と。

 私は大いに困ってしまった。

 彼ら二人の手を煩わせるのは、私一人の問題ではない。

 一つの世界の、魂全体の損失になるだろう。

 それはよろしくない。

 そこでふと、私はあることに気が付いた。

 何も人間などの、主要種族に生まれ変わる必要はないのではないか、と。

 それなりの地位というのであれば、たとえばオオカミの群れのボスの子供、などでもいいわけだ。

 その考えを天使たちに伝えると、それもあまり芳しくないという。

 ある程度知識がなければ、意味がないのだとか。

 何とも難儀な話だ。


 いろいろと彼らと話しているうち、どうもこの世界はいわゆるファンタジーの世界であり、多種多様な種族が文明を持って暮らしているのだという。

 世界の名は、「海原と中原」というのだとか。

 私はその話を聞きながら、以前子供たちを連れて見に行った映画を思い出していた。

 たしか剣を携えた青年が、ドラゴンと戦って姫を助け出すという話だったはずだ。

 ふと、その中に出てきた文明度の低い生物の名を思い出した。

 小さな子鬼、たしか名前を「ゴブリン」といったはずだ。

 私は彼らもこの世界にいるのか、と、天使たちに尋ねてみた。

 なんと、何種類ものゴブリンがいるという答えが返ってきた。

 しかも私が思う以上に文明度の高い生活をしているという。

 ならば、と、私は考えを伝えた。

 そのゴブリンの一つに、転生するのはどうだろうか、と。

 どうせ二度目の人生だ。

 何も同じ人間になる必要もないだろう。

 長く生きていれば、いや、死んでいるわけだが、ゴブリンに生まれ変わることもあるであろうから。

 天使たちは最初こそ「いつ死ぬかわからない」「危険だ」と反対したものの、それは人間として生まれ変わっても同じだろうといえば、渋々ながらうなずいてくれた。

 ゴブリンは知能こそそれなりに高く集落のようなものを作るものの、世界の情勢にはあまりかかわらない生物だという。

 それならば、彼らの負担も大いに減らせるし、神の「地位の高いものの子」という要求もクリアできる。

 我ながら、これはなかなか素晴らしいアイディアだろう。


 こうして私は天使二人に見送られ、異世界「海原と中原」へ、とあるゴブリン種族の族長の子供として、転生することになったのだった

活動報告でぼちぼち書いていたものがたまったので、連載形式にしようと思います。

こっちは「神様は異世界にお引越ししました」の外伝になるのですが、本編以上に何も考えないで書いて行こうと思います。

不思議生物が沢山な「海原と中原」を、ゴブリンさんの目を通してお見せできていければなぁ、と、思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ