正しい恋の恋し方
生まれてこのかた、恋をしたことがない。
それは別に僕の顔面が崩壊しすぎて誰もが僕を忌み嫌い、恋愛する相手がいないだなんて、ことはない。
異性から告白を受けたことは数回あるし、街を歩けば声をかけられたこともある。
けれどもそれはどれもピンとこずに、全て適当にいなしてきた。
そもそも恋愛というのは相手のことをよく知ってからするものであって、よく知らない人から受けた告白や、全く見ず知らずの人から受けたアプローチを受け入れて付き合ったりするのは恋愛じゃあないだろう、ということを友人の充也に話したら、
「とんだ戯言だ」
と一笑された。
帰り道、僕たちは二人並んで歩いていた。
陽は既に沈みかけて、通学路に立ち並ぶ建物は緋色に染まっている。
3ヶ月後に迎える高校受験のために、がらにもなく二人で図書館で勉強していて、普段よりも帰るのが遅くなってしまった。
「恋愛なんてのは、その人次第だろ。決まった形なんかないんだよ」
充也は笑いながら、僕の意見に反論した。
僕はムッとしながら、
「だったら、聞かせてよ。充也の恋愛が、どんなものか」
と答える。
充也は考えるような素振りをしていたが、しばらくして、
「思いつかねぇ」
と諦めた。
「まだまともに恋愛したことがねぇ奴が、恋愛を語るなんておこがましいやな」「…まぁ、それもそうかもね」
僕たちは小さく、笑いあった。
8月。
僕たちは高校生になって、別々の高校に通うようになり、メールをすることはあっても、互いに顔を合わせることはなくなった。
僕は別に、それでもいいと思った。
きっと、それが僕らの、正しい距離のとりかたなんだろう。
そして今日は、市の夏祭りの日だった。
3日間に渡り、市の中心部の路上で行われる祭りは、まぁそれなりに大規模だ。
今日は3日目、最終日。
僕は高校でできた新しい友人達とともに、祭りへとやってきた。
時刻は7時をすぎて、段々と人が増えてきた。
一体どこからやってきたんだというほどの多くの人間をかきわけて進んでいるときに―――。
充也を見つけた。
かき氷の屋台の前で、イチゴのかき氷を食べている充也は、中学校の卒業式の日に見た姿よりも、少し大人っぽくなったような気がした。
声でもかけようか、と一歩踏み出して、足を止めた。
充也の隣には、可愛い女の子がいた。
楽しそうに話す二人を見ていると―――なぜだか、胸が痛くなった。
僕の知らないところで、充也は恋をしていた。
いつまでも変わらない僕とは違い、充也は、少しずつ変わっていた。
踵を返し、動揺を悟られないように友人達と並んで歩く。
ふいに思い出したのは、あの日の会話。
今の充也なら―――。
自分自身の恋愛の形を語れるのだろうか。
先ほどの光景を思い出すと、キリキリと胸が痛くなる。
心の底から湧き上がってくる、嫉妬。
もしかしたら。
自分でも気づかないうちに、僕は充也に恋をしていたのかもしれない。
「…それはないな」
と、思いたい。
僕もそろそろ―――年頃の女の子らしく、恋愛するのも、悪くないかもしれない。
まず、手始めに。
恋に恋することから、始めよう―――。
アドバイス等よろしくお願いします。
叙述トリックの練習として書いてみました。