牡丹の嘘
賑わう花街。
夜どうし、明かりが灯し続ける花街。
今日は花街1の楼澱から一人前の花魁がお披露目される。
男たちは、今か今かと店の前で道を開けて待っている。
そう、牡丹のことだ。
客や富豪は、周りの人と競争心を燃えさえていた。
ーーーーーいったい、誰があの花魁を女にするのか?------
頭の中はそのことしか考えていない。
じわじわと、その時を待っている。
シャラン・・・
鈴の音が聞こえる。
目線はその方角に集まる。
花街中にひきわたる、赤いカーペット。
私のための道。
私の行くべき始まりの開始。
ーーーーーーいつかのあの人との、夢を叶えさせてみせるーーーーーー
幼花魁2人が、明かりを持ち導く。
人々は目を見開いて歓声を上げる。
艶やかな着物。
黒、黄色、桃色、赤、藤色の色が着物の上を流れる。
牡丹の芸名のように、着物の隅々に牡丹が描かれている。
黒く透きとおる髪には細かい小細工した飾りが、牡丹の動きに合わせてシャラと揺れる。
宝石がはじきあい音が鳴る。
その数々に、負けないほどの牡丹の妖雅な美貌。
存在感と艶やかな、自信に満ちた笑み。
客たちは、その気にさせられたように見せられている。
牡丹が優雅に、花街を歩く。
すると、人々は尽いていくように、また一目見たいという、願望で並ぶ。
「おい、あんなに綺麗だったのか・・。噂で有名だったが・・。」
「さすがは、花街1の実力を持つ、楼澱だ。まだ、すごい花魁を持ってたとは・・・。」
感想や意見を張りあう客。
その反応に、楼澱の旦那(商売主)は高笑いして喜ぶ。
それを見た牡丹は、今までのお世話になった旦那に少しでも恩返しができたと心の中で安堵する。
一呼吸し、前を見据える。
今まで怖く、脅えていた花街。
最初は花街の事がわからなかった。
なぜ、女たちは自分を売るのか?
花街に自分の名を残そうとするのか?
留めさせようとするのか?
名誉を欲しがるのか?
なぜ?なんで?
ーーーーーーーー分からない・・・。
でもやっと分かったような気がした。
ここに来た女達は、親や思い人に売られてきたのだ。
それはここ花街では当たり前で、当然なのだ。
だから、居場所がないから花街にいるんだ。
居場所を作るために・・・。
名を残し、自分の生きていた証を刻みつけるために。
そのためなら、仲間を蹴り落とすことも厭わない。
仲間を潰すことを、平気でやってのける。
それをして、死んだ花魁を見てあざ笑う。
恐怖と安堵が混じりあった顔で、不気味な笑い声が夜の花街に響く。
耳にこびり付くように。
ふふっ・・・
とふと聞こえるのだ。その様子は滑稽だ。
仲間どうしで妬みあい、殺す瞬間を待ちわびている。
そして殺したときに現実を知るのだ。
ーー私もいつかはこのように無様に死ぬのか・・。
いずれ、私の番が回ってくる。
仲間に潰されるのだ・・。--
惨めになる瞬間。
強くないと生きていけない。
弱い者は殺される。
客の知らない所で花魁は死んでいく。
だから、また不安が大きくなるのだ。
毎夜、客といないとき私は殺されるのではないか・・・・?
今日?明日?
心の不安は消し去ることのない、闇に沈んでいく。
だが、客の前では魅惑の声で取り込み魅了させる。何も知らない無垢な顔をして。
裏と表が入れ違う。
その花魁を見ていると、怖くて、信じることができなかった。
花街で花魁が死ぬことや、消えることは少なくない。
誰も、見ようとしない。
見ても知らないふりをする。
誰か、助けて・・・。
この一生囚われ続ける、檻の中で生きる。
どうすることもできない・・・。
自由を無くなした、息のすることが難しい花街で。
そんな時、牡丹の姐花魁の菜花が救ってくれた。
菜花は、花街1の花魁で楼澱の旦那に‘この子をあたいの幼花魁にしたい‘と頼んでくれた。
「お前さんなら、私の名を継ぐことができるなんし」
雨の中で虐められていた私に手を差し伸べてくれた。
・・・もし、菜花花魁が救ってなかったら、私は醜い、汚い花魁になったであろう。
菜花は、裏なくまっすぐに上をめざしていた。
そんな姐花魁を見て、私は信じることを思い出すことができた。
強く偉大な菜花花魁みたいに、いや、越してみせると強く思い、願った。
昔の事を考えてた自分を笑い、花街で生きることを覚悟して客の前で舞を始めた。
これで、いいんだ。
良かったはずだ・・・と。
思い込むことにした。
よかったんだ、あってるんだと・・・・
心に嘘をついた。
今回は長くなってしまいました。
お付き合いありがとうございます!!