クラス一の美少女にSランクドローン傭兵だとバレた結果、美少女だらけのチームへ強制加入させられた件
超空間航法とハイパーリンクシステムの合わせ技によって、30光年先の惑星を、リアルタイムで操縦したドローンが開拓するこの時代……。
生身で学舎に集い、大して広くもない教室に安っぽい机と椅子を並べ、前世紀から続く古式ゆかしい教育を受けることの是非は、23世紀を生きる人類ならば誰もが浮かべる疑問だろう。
未来を担う若者たちに対し、地球連合政府教育委員会の返してきた答えは、簡潔なもの。
いわく、「生身で実際に移動することで人類本来の移動欲を満たすとともに、同年代の人間と触れ合うことで、将来必要になる社会能力の獲得を目指すため」。
お笑い草。
特にどこが面白いかというと、このお題目を提示している教育委員会の職員たちは、リモートを奨励されているところ。
じゃあ、お前らも生身で出勤して仕事しろよ、というのは、誰でも思いつくツッコミだ。
そんなわけで、説得力の欠片もない理屈により、20世紀……いや、19ないし18世紀くらいからかな?
ともかく、そのくらい昔から延々と続いている古式ゆかしい学校教育システムは、俺こと倉橋テツルにとって、無意味で、忌まわしく、理不尽で、退屈で……。
何より、屈辱的なものであった。
他はともかく、屈辱的って、何が屈辱的なのかって?
「よー、倉橋ちゃん!
今日もマッシュルームヘアー、キマってんじゃんか!」
「倉橋パイセンのくそダサキノコ髪、到底真似できないっすわ!」
「真似する気も起きねえけど!」
……こんな風に、始業時間ギリギリで入室してきたヤンキー予備軍たちが、目元を隠せるような形で整えた俺の黒髪をからかったり、その他にも様々な形で侮蔑してきてるのが屈辱的。
感じるんだよな。
俺のこと、人間として一段も二段も下に位置づけて考えてるってこと。
まあ、実際のところは違うわけだから、好きにしてればいいんだけど。
「倉橋、今日もイジられてるじゃーん」
「あれね、可愛がりってやつじゃね?」
「ウケるー」
光栄なことに、そんな俺の姿を見て大ウケになられたらしい女子たちの会話が、不快に耳朶をくすぐる。
「サーヤはどう思う? 倉橋のことー?」
ふと、そんな風に話を振られたのが、クラスで一番の美少女こと、暁サーヤ。
いや、容姿なんていう数値的な基準のないものに、一番も二番もないだろうというのは、俺としてもうなずける理論だ。
だが、暁に関しては、それでもなお、クラスで一番だと断言できた。
というか、学年でも一番だし、この開洋高校でもきっと一番。
ひょっとしたら、都内でも一番ではないかと思えるくらいに圧倒的な容姿を誇る高校二年生女子なのである。
枝毛一つない金髪は、ロングの姫カットで整えられていて、これがまあ、実に似合う似合う。
一般庶民離れしているというか、絵本のプリンセスがそのまま受肉したかのように整っている顔立ちのため、ガチお姫様かと錯覚してしまうレベルだ。
そんな23世紀のお姫様は、現代っ子らしくそこそこスカートを折って、魅惑的な白さの脚を見せつけており……。
そんな状態で自分の席に座り、脚を組んでいるものだから、気をつけないと視線が吸い寄せられそうになってしまう。
表情もまあお人形めいているというか、ちょっと感情が希薄げというか、やや冷たい感じをデフォルトにしており、それがかえって、素材の持ち味を高めていた。
総じて、スゴ味すら漂う美少女というのが、暁サーヤという女生徒なのだ。
「倉橋? 興味ない」
そんな彼女の俺に対する寸評が、10文字にも満たないこのお言葉。
まあ、いいですけど。
しょせん、クラス内のカーストで最下位に位置しているこの俺と彼女とに、接点などあるはずもないのだから。
それでもちょっと、胸にチクリとしたものを感じてしまうのは、そう……。
これもきっと、くだらない教育システムの弊害だろう。
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この風……。
この肌触りこそが戦争よ……。
というのは、23世紀現在においても、いまだ傑作としての評価をほしいままにしているロボットアニメにおいて、一番好きな敵キャラクターの名言。
彼の言葉ではないが、ヘッドギアの映像越しに感じられる風と肌触りは、まさしく戦争のそれであった。
四方八方から絶え間なく聞こえてくるのは、56口径ライフルの砲弾が空気を裂き、あるいは着弾して惑星テネトスの白砂を巻き上げる音。
『さあ! 企業と企業とが利権をかけ、地球から遥か離れた惑星でバトローン部隊同士をぶつけ合う『遠隔戦争』!
今回、この惑星テネトスで繰り広げられているバトルも、いよいよ大詰めだあ!』
入れっぱなしにしているチャンネルから聞こえてくるのは、DJサクヤの歯切れ良い実況。
鈴が鳴るような彼女の声を聞いていると、偉人が作曲したクラシック音楽を聞いたときのような心地よい気分になる。
特に、自分が参加している側が勝っている時は、なおさらだ!
『さあ、おそらくラストアタックとなるだろうこの突撃!
ノモトジア食品部隊で先陣を切ったのは、やはりこの男――ルーテツだあ!
リアルでの素性は、一切が不明の機動傭兵!
一年前に鮮烈なデビューを飾って以来、参加した部隊の勝率82%! 勝利したバトルでの生存率73%を誇る超エース!
今回乗機にしているのも、世界のカシヤマ重工が生み出した傑作四脚型バトローン――マティーニ!
その格闘戦カスタマイズだあ!』
DJサクヤが語った通り……。
今回も、俺が乗機に選んでいるのは、マティーニという四脚型バトローン。
昆虫を思わせる四脚型の下半身と、やや装甲厚に劣る上半身が特徴的な軽量高速走行型。
三本線のスリットバイザーを備えた頭部は、地上四メートルの高さから、俺が装着しているヘッドギアへ臨場感たっぷりに各種の情報を送信しており……。
両腕部では、マニピュレーターとして選択した格闘用ドリルが、出番を待ち望んできらめいていた。
「――ハッハア!」
学校では絶対漏らさないだろう凶暴な叫びと共に、コントロールスティックを小刻みに操り、フットペダルも踏み込む。
すると、俺の意を受けたマティーニが、シャカシャカと細かく四本の脚を動かしながら、テネトスの砂漠を右に左にと駆け抜けた。
そこらの川砂よりもなお細やかな砂に足を取られず、それこそゴキブリのように素早く駆け回れるのは、マティーニならでは。
加えて、今回は欲を出して銃火器をセッティングしていないため、その分だけ軽量化も効いているのだ。
元々の走力が軽量セッティングで活かされ、起伏に富んだ砂漠を駆け巡る!
――ドン!
――ドン! ドン!
ほんの一秒前まで俺の機体がいたところに敵部隊の砲弾が命中し、爆発的に砂を巻き上げていった。
これが、これが……たまらない!
ヘッドギアを装着するため、ヘアゴムで前髪をまとめてあらわとなったデコに、心地の良い……それでいて熱い汗が流れる。
『かわす! かわす! かわす!
ルーテツ、かわし続ける!
お前はエスパーなのか!?』
エスパーなんかじゃないさ。
高いところでは10メートル以上もの丘陵があるこの砂漠だから、敵は射角を確保するため、バーニアジャンプをしなければならない。
そうすると、ドラム缶に手足をくっ付けたかのような二脚型バトローン――ノブナガが手にしている56口径ライフルの銃口もよく見えるのだ。
当然、砲弾は銃口の向いた先に飛んでくる。
だから、銃口の向きをチラリと見て、回避するだけ。
ね? 簡単だろ?
『ルーテツ、ついに接近したあ!』
そのような形で回避しつつ、砂漠の上を走り回っていれば、ついに敵機への接近が叶う。
バーニアジャンプの着地点へ爆走する俺に対し、そのノブナガは迎撃射を放ったが……。
それも、見えている!
頭部ユニットに放たれた砲弾は、首の動きで回避!
そのまま着地する敵機へと接近を果たし、両手のドリルを起動!
たくましい回転音を響かせたドリルは、右がドラム缶じみたノブナガの胴体を抉っており、左がさっきまで俺を狙っていたライフルを破砕していた!
『クリーンヒットオ!
トヨハシ・インダストリの傑作バトローンが、その性能を活かせないまま撃墜寸前……!
いや、ルーテツにヘイトが向けられたことでフリーになっているノモトジア食品部隊の僚機が、狙撃でトドメを刺したあ!
これで、残る敵は二機!
ルーテツ、このまま仕留めるのかあ!?』
「当然……!」
ペロリと唇を舐めながら、DJサクヤに答える。
そして、俺はそれを有言実行したのであった。
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『というわけで、ノモトジア食品とポロサワ製麺の遠隔戦争は、ノモトジア食品のウィン!
立役者はもちろん、史上最速でSランク機動傭兵になった男こと、ルーテツ!
強い! 強すぎるぞ!
一体、お前は何者なんだぁーっ!』
DJサクヤの実況を名残り惜しく聞きつつ、ヘッドギアの電源をオフ。
遥か18光年離れた先に今回使ったマティーニをうっちゃる形となるが、遠隔戦争管理委員会の方で回収してくれるはずだった。
「はあ……」
大いなる満足感と共に、ヘッドギアを外して、前髪も元に戻す。
それから、コントロールスティックやフットペダルといった持ち込み品のケーブルも外し、ヘッドギアと一緒にスポーツバッグへしまう。
そうして荷物をまとめてから、カプセルタイプの個室を退出した。
ごっついシートが備え付けられたこいつは、バトローンスタジオのレンタル筐体。
俺たち機動傭兵は、スタジオに存在する筐体をレンタルし、何光年も先に存在するバトローンを操縦。
企業が行う遠隔戦争に参戦し、報酬を得るのである。
ちなみに、今回の報酬は154万ルード。
なんとも歯切れが悪い数字なのは、報酬額の33%が遠隔戦争管理委員会に持ってかれるから。
そっから税金も払わないといけないわけで、儲かってるけど儲かってないような……なんとも言えない気分になってしまうのは、いつものこと。
ま、求めてるのはスリルと興奮だから、別にいいんだけど。
そして、スリルと興奮を得れば、喉がかわくのは生理現象。
整然とレンタル筐体が並ぶ中、隙間を埋めるようにして設置されている自販機からコーラを購入し、やはり隙間を穴埋めするように存在するベンチへと座る。
そうして、コーラを味わいながら、携帯端末から遠隔戦争アプリにログイン。
自分のアカウントデータをなんとはなしに眺めた。
貯金もいい感じに貯まってきてるし、新作のEZR―7狙撃銃を買ってみるのも、いいかもしれないな。
考えるのは、そんなこと。
バトローンのカスタマイズは、それこそ数億通り……いや、数兆通りにも達する。
次はどんなカスタマイズを試そうか考えてると、無限に時間を潰すことができた。
俺にとって、至福の時間だ。
ゆえに、油断していたのだろう。
「あ」
「あ」
ベンチに座っている俺の目の前を通り過ぎようとした誰かのスポーツバッグが、俺の携帯端末に触れてしまう。
「わわ」
結果、俺は携帯端末を取り落としてしまったわけで……。
「すいません」
しかし、スポーツバッグの持ち主である少女が、これを拾い上げてくれた。
綺麗な姫カットの金髪が、床につくこともいとわず。
「暁……?」
そんな象徴的な特徴を見てしまっては、個人の特定などたやすい。
携帯端末を拾ってくれた彼女――暁サーヤの名字を、ぽつりとつぶやく。
「え? 倉橋?」
一方、暁の方も、俺がクラスメイトの倉橋テツルであることに気付いたようだったが……。
彼女の方は、もっと余計なことにまで気付いてしまったようだった。
すなわち、俺の携帯端末に表示された画面を……。
俺のアカウント情報を、視界に入れてしまったのである。
「え? 『ルーテツ』……?
人違いじゃない……よね? Sランクだし」
「あ……あ……」
ヤバめな情報を見られてしまい、何も言えず口ごもる俺。
そんな俺を見上げた暁は、ニマーッ……と、大変にいやらしい笑みを浮かべたのだ。
「そっか……。
あんたが話題のSランク機動傭兵ルーテツだったんだ?
クラスじゃ冴えないあんたが」
そうです、わたくし、Sランク機動傭兵ルーテツでございます。
と、明るく名乗ってみたいところだが、俺がやると滑り倒しそうな気しかしない。
とにかく間違いないのは、厄介な相手にリアルバレしてしまったということ……。
暁サーヤは、クラスの中心。学級のインフルエンサー的な存在だ。
そんな彼女に知られたら最後、クラスの人間全員が機動傭兵としての俺の顔を知ることになり、そこからたちどころにSランク機動傭兵ルーテツの個人情報が世界に拡散。
リアル凸などを防ぐため、俺は泣く泣くここまで育て上げたアカウントを削除し、これまで稼いだ金を使って引っ越しと転校をすることになるだろう。
まさに、最悪の未来。
想定されるそれに恐れおののく俺であったが、暁は意外な提案をしてきたのだ。
「あのさ、倉橋。
ううん、ルーテツ。
私の傭兵部隊に入ってよ。
――お願い!」
言いながら、俺を拝むようにして頭を下げる暁。
「はあ?」
一方、俺の方はと言えば、ただただ、ポカンとするばかりなのであった。
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女性機動傭兵のみで構成されたAランク機動傭兵部隊『キャッツ』に、話題のSランク機動傭兵ルーテツが参入したというニュースがネットを騒がせたのは、その翌日のことである。
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