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第七話



「それじゃあ行くか……」

「OK相棒……」


 俺たち二人は透明マントを羽織り、宿の外へと足を踏み出した。


 このマントを被っている間は、互いのことを見ることができない、なのでシェラとは同じタイミングで宿は出たものの八百屋までは二手に分かれて現地集合ということになった。


 今日は休日であることも相まってエンバークの街は賑わいに賑わっている。

 俺は必死に人とぶつからないように避けながら歩いて市場を目指す。

 そうして、やっとの思いでダフネ市と呼ばれるこの世界で一、二を争うほど大きいとされている市場に到着した。


 そしてここで……俺はこの作戦のある重大な欠点に気がついてしまった。


 (あれ、現地集合って言ってもどうやって顔合わせればいいんだ?……)

 八百屋で透明化を解いてしまったらバレちゃうし、声を出して話し合うわけにはいかない。

 シェラには八百屋で集合って言っちゃったし……

 もし、俺が透明化を解いて辺りを彷徨っていてもシェラがその近くにいるとは限らない。そしてそんなことをしていたら怪しまれるし盗む時間がなくなってしまう。


 …………うっわ、やったわ……


 なんか、だいぶやり過ぎてて逆に冷静になってしまった。

 シェラと手を繋いでここまでくるという選択肢もあったか……

 だが、ここまで来てしまったのならしょうがない。

 というか、シェラがいないといけないような作戦でもないしもう一人で良くないか。


 ……よし、一人で行こう。シェラよしばし待ってくれ。


 そう決意を固めて事前に調べた八百屋の中に店のおっさんに気づかれずに侵入した。


 野菜を外売りしている八百屋の内装は、ただの民家のような雰囲気で闇のオークション会場と繋がっているとは到底思えなかった。


 だがしかし、圧倒的な違和感が、ある棚に存在していた。


 その棚の周りには砂利が落ちていたのである。

 この街の家では靴を脱ぐという文化があり、宿屋でも靴を脱ぐための靴箱があった。

 そしてこの家も例外ではなく、玄関に靴置きが設置されていた。

 なのにだ、この棚の周りにだけ砂利がある…それはつまりその棚の奥が地下通路になっていることの証明になっているのだ。QED。証明終了。


 そう自己完結して物音を立てないように俺はそっと棚をスライドする。

 

 ……ビンゴだ、そこにあったのは石でできた薄暗い隠し通路……


 もしここにシェラがいるのなら今勝手に棚が動いたことで俺の存在に気がついたと思うが、どこからも反応はない。

 少しまってからやはり反応がないことを確認して俺は一人でその通路を通ることにした。


 コツン、コツン、コツン、

 王様にもらった革靴は硬めの素材で石の階段を降ると物音がしてしまう。

 その代わりに、意味があるのかわからないが、俺は息を10秒に一回吸うという謎の行動を繰り返していた。


 真っ暗な階段を3分ほど下っただろうか、下の方から松明による光が見えてきた。

 そうして最後の一段を降りて、俺は辺りを見渡す。


 「……なんだ、これ」

 

 そこには東京ドームほどの大きさの地下市場が辺り一面に広がっていた。

 いや、これは地下市場とかいう規模ではない、もはや小都市のように見える。


 石畳の通路は蜘蛛の巣みたいに枝分かれし、両脇には屋台、露店、檻、布のテントがずらり。

 そして売り物も、まともじゃない。


 瓶詰めの発光する液体、血が滴っている黒い布、骨で作られたナイフ、錆びた聖印、人間っぽい頭蓋骨。

 さらには、何の生き物か分からない物の内臓が氷の上に並べられていて見た瞬間、胃がキュッと縮んだ。


「うげぇぇ、グロすぎ……」


 空気は湿っていて、生暖かい。

 酒と汗の匂いに、獣臭さと鉄っぽい匂いが混じって、鼻の奥が痛い。

 耳に入るのは、笑い声、怒鳴り声、値切る声、金属が擦れる音、どこかの檻から漏れる低いうなり声。

 人間の声だけじゃない。


俺はこの光景にビビるより先に納得してしまった。

そりゃあ、上にヤク中やらがうじゃうじゃいるわけだな……


 さてオークション会場はどこだ…………

 広すぎる市場を手当たり次第に彷徨っていく。


 すると、中央に円形の広場みたいな空間を見つけた。

 そこだけ照明が強くて、人だかりができている。

 多分ここがオークション会場になるのだろうと本能が言っていた。

 

 近くに寄ると狼の頭に人間の体をした亜人?みたいなやつと腕が4本生えた1つ目の怪物が笑い合っている。

 これがいわゆる亜人ってやつか、すげぇけど意外にコスプレっぽいな……


 そんなことを思いながら忍足で近づく。すると二人の話が聞こえてきた。


「今日のオークション品はレア物が多いですね兄貴!」

「あぁそうだな、これでダスゴロス様も喜んでくれるに違いない」


 こいつらは多分運営側の奴らなのだろう……

 重要な情報が手に入りそうだったのでそのまま耳を傾ける。

 

「それにしてもよく情報屋の書いた本を3冊も手に入れることができましたね」

「ふははは!!実はな、俺はダスゴロス様に頼まれて情報屋の家族を人質に取って情報屋に本を書かせることにしたんだよ。そうしたらあいつは三日三晩かけて今まで仕入れてきた情報を3冊の本に書き溜めたわけだ」

「まぁ、それを受け取ってから家族全員ぶっ殺したけどな!!ガハハハハ!!」


 やっべぇ、なこいつら……

 まぁなるほど。大体の経緯は理解した、しかし問題の本のありかがわからないということは解決しないな。

 もう少し情報を……そう思っていたその時だった、


「おぉー」「これが……」

 周りの亜人達が感嘆を吐いていた。

 視線の先を見ると、レンガのような見た目の、梱包された3つの本が、亜人奴隷によって運ばれてきたのだ。


「おっ、噂をすればのお出ましですね!」

「そうだな、あれが情報屋の書いた3つの本だ」


 オークション会場の横の物置にその3冊の本は向かっている。

 あまりのタイミングの良さに独り言が漏れる。

「まさかのグッドタイミングだ、後はこの本を俺が持てば一緒に透明になって逃げ切れる!」

 俺は亜人奴隷に近づき、本に触れようとしたその時だった。


 ピコンッ、俺の視界にあれが現れた。


  【死亡フラグ:発生】対象:佐々木悠斗

発言:「後は〜をすれば」

死亡確率:83%

推定死因:尋問、拷問の末出血多量で死亡。

対策:マントを強く握る。


 ……え?……

 引き込まれるような風が吹いた、それと共にマント上空を舞う。

だがその時には全てが遅かった。

 俺のマントは、俺を横目に海に放たれた魚のように俺の元を離れた。

…………あ、これ、あかんやつや…………

 


 

 


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