第一話
その日、俺は渋谷を歩いていた。授業が早めに終わって、なんとなくセンター街に来て、ドトールでホット頼んで、歩道橋を渡ろうとした。そのときだった。
足先に、謎の円形魔法陣が突如出現した。
「……え、なにこれ。渋谷にこんなアトラクションあったっけ?」
興奮した俺はその大きな魔法陣に近づき、足を踏み入れた。
「うっほ!なんだこれ面白いぞこれ!」
発光する紋章。浮かび上がる謎の文字列。空中に舞う光の粒。すると俺の体は、地面から数センチほど浮き上がる。
「うわ待って、待って待って!!!」
叫ぶ間もなく、俺の身体は光に包まれた。
♢♢♢
「……目が、覚めたかの?」
眠気がみるみる引いていく。
……なんだ?誰だこのじいさん。いや、それよりどこだここ?
俺が目を覚ましたのは、金色のシャンデリアがきらめく大広間のような場所だった。
フカフカの絨毯、やたらゴージャスな壁、周囲には鎧を着た兵士たち。そして目の前には、長く白いヒゲをたくわえたじいさんがいた。
「勇者を召喚したつもりだったが……うむ? なぜか2人召喚されておるぞ」
周りの騎士達が動揺している中、俺はじいさんに尋ねた。
「ここはどこなんだ?」
王様っぽいそのじいさんが答えた。
「ここは其方の世界でいうところの異世界じゃ」
「な、なんだって?」
まさかあの魔法陣は本物で、俺は本当に異世界に来てしまったらしい。
「ちょっと待ってくれ……」
「え、じゃ、じゃあ俺は勇者として召喚されて、魔王を倒してこの世界を救うとかいうことをこれからしちゃったりするのか!?」
髭をいじりながらじいさんは言った。
「え?…あ〜まぁそうなんだがのぉ〜」
「さっき言った通りこちらの手違いで1人のところを2人召喚してしまったのよ」
「つまり、どっちかは巻き込まれて召喚された感じなんよ」
どちらか…その言葉に引っ掛かり横を見る、
俺の隣には——
「ふわぁ〜……ここって異世界なんだ〜」
無防備な笑顔を浮かべた金髪の少女。
目が大きく、肌は白いし、まつ毛は長い、ザ・整った顔と言える。
そして彼女からは驚くほどにここに召喚されたことへのなんの戸惑いも感じない。ここに来たのは当たり前のような気さえ感じる。
まさに絵に描いたような“異世界の女勇者”っぽい。
そう、彼女は勇者っぽいのだ。
(…….つまり、どっちかは巻き込まれた感じなんよ)
じいさんの言葉が頭を駆け巡る。
嫌な予感が背中を走った。
巻き込まれたのは俺とかいうことはないよな……
すると少しして、俺の予感に答えを出すようにある騎士が伝令を王に届けた。
「伝令!!伝令です!!」
「オズ魔法官によりますと、勇者召喚に応じた勇者様はそちらの女性の方だそうです!!」
ぴょぴょぇぇぇぇ!!
バリッバリの巻き添えだったよ俺…
確かにここにくる直前に魔法陣の中心の方にこんな感じの金髪少女がいた様な気がする。
え…てかさっき俺魔王倒すとか言っちゃたよ…
めっちゃ恥ずかしいよ…
「ふむ、そうだったか……」
「……どうしよ……」
「ま、まぁでも良くないかのぉ1人くらい増えても、戦力も増えるし損はないじゃろ。あと……なんかかわいそうじゃん」
「さっきとかすっごいキラキラした目でわしのこと見て、魔王倒すとかいってたんよ」
なんか普通に憐れまれたし、やっぱりすっごい恥ずかしい……
「まぁ男の方は一旦置いておいて…」
「まずこの世界の状況について説明しておこうかの」
じいさんがフカフカの玉座に腰かけながら、貫禄たっぷりに口を開いた。
「この世界は今、“魔王”と呼ばれる存在に脅かされておる。人の世は荒れ、魔物は暴れ、人間が所持している領土の三割はもうすでに魔王の物となってしまたのよ」
じいさんは続けた。
「そこで、異世界から“勇者”を召喚し、魔王を打ち倒してもらおうというわけじゃ」
「さて、其方達よ、自分の“ステータス”を確認してみるとよい」
「ステータス?」
金髪少女がじいさんに尋ねた。
「意識を内側に向けてみるのじゃ。そしてステータス表示と言うのじゃ、さすればステータスという…なんかあの……ごっつい表が出てくるじゃろう」
ごっつい表とは……
俺がこのじいさんに疑念を抱いていると、
首を傾げて金髪少女は問い詰めた。
「内側?内側に向けるってどう言うこと?」
「内側に何を向けるの?」
「てかまず内側って何なの?」
じいさんは答える。
「あの……ほら意識じゃ意識」
「それを内側に向けるの!わかるか?」
「いや、だから内側って何?」
「あと意識はもともと内側にあるものじゃないの?」
この子、急に強くなったな……
「あぁもうええわ!別に意識内側に向けなくてもステータス出るから!」
「ちょっと格好つけて言ってみただけじゃから!」
「はよステータスと言うのじゃ」
うわ、諦めたしめっちゃキレてるよこのじいさん。
「こわっ」
金髪少女が呟いた。
コントでもしてんのか、大丈夫かこの勇者と王様……
「まぁ、とりあえずこのじいさんの言う通りにしてみようぜ」
俺はそう彼女に提案すると彼女も渋々頷いた。
「……えっと、ステータス……表示?」
「ステータス表示」
そうして2人でステータスを表示する。
⸻
【名前】:佐々木悠人
【年齢】:17
【種族】:人間
【職業】:なし
【筋力】:F -
【魔力】:F -
【俊敏】:F -
【幸運】:C +
【固有スキル】:
・《未来予知》
⸻
【名前】:門脇シェラ
【年齢】:18
【種族】:人間
【職業】:勇者
【筋力】:B
【魔力】:S+
【俊敏】:A+
【幸運】:E
【固有スキル】:
•《聖剣適合》
•《希望の光》
•《運命改変》
俺達二人のステータスがデカデカと表示される。
周りの騎士からは歓声が上がった。
「なんだ!このステータスは!!」
「素晴らしい」
「さすが勇者様だ!!」
微笑ましい歓声だ。
こっちまで気分が良くなる……ほどのものであったが俺のステータスはそれを許してくれなかったらしい。
騎士達は俺のステータスを一瞥して吐き捨てる。
「なんだこのステータスは」
「うわっえっぐいな……」
「なんか本当にかわいそうになってきたな……」
――圧倒的弱者
周りからの反応は見て取れるし、そうとしか説明ができないだろう。
ただそれはステータスだけを見ればの話だ。
俺は最も下にある固有スキルに目を付けた。
そう、固有スキル――《未来予知》
名前から察するに何秒か先の未来を見れるとか、よくラノベ系にある最強スキルに違いない!
これは異世界無双するにはうってつけのスキル。
ニヤニヤしていると、じいさんが口を開ける。
「なるほど、なるほど……」
「勇者のステータスはやはり尋常じゃないようじゃ」
「そして……なんか付いてきた付録……お主はステータスはホソハネコバチほどのものだが、固有スキルがなかなか面白そうじゃな」
ひっでぇ言われよう…てかホソハネコバチって何だよ
不服ながら気になるので質問をする。
「ちょっといいか?」
俺が挙手すると、王様と騎士たちが一斉にこっちを見た。
「この《未来予知》ってスキルの詳細を見ることってできるのか?」
王様は顎ヒゲをくるりと撫でたあと、ニコッと微笑んだ。
「ふむ。付録の固有スキルを調べてやろう。……オズ、見てやってくれぬか」
「はっ!」
出てきたのは、見るからに魔法使いっぽい長身の男。つば広帽子にローブ姿、眼鏡は鼻のギリギリにかかっている。
少ししてこの男の目が青色に発光して俺を吟味し始めた。
よくある鑑定系のスキルだろうか……
そんなことを思っていたらオズは口を開けて言った。
「なるほど…分かりました。」
「固有スキル《未来予知》、正確な名称は──」
「《未来予知【死亡フラグ視認】》でございます」
「………………は?」
「つまりこのスキルは未来で死亡に繋がりそうな言動を誰かが言うことで、視覚情報として死因を確認できるという能力でございます」
……あれ?
「え、それ、未来予知じゃなくて……」
「ただの“死にそうな人の死因が見える”スキルでございます」
「そしてこのスキルは今にも死にそうな人からでしかその人の死因とその死因に繋がる言動を可視化することができない様です」
名前詐欺じゃねぇかこれ!!
死亡フラグとか現実の世界で実際に立てて死んでるやつなんて見たことねぇよ。
「えっなにそれ便利そう!すごいね!」
とんでもなく落ち込んでいる俺の隣でシェラが無邪気に笑う。
「えっ、これがすごい……のか……?」
「だって、そのスキルを使ったら死亡を回避することができるってことでしょ?」
彼女は俺を覗き込む様に話した、
「そうなのか……そうか、そう思えば実は強いのか……これ」
彼女の励まし?によって少し自信というものを取り戻した、そう思ったその時だった。
「でも……」
「物語では主人公が死ぬことってないよね、普通」
「ってことは私が死ぬわけないと思うんだよね、だって私勇者じゃん?」
「だからごめんね、せっかく来てもらったのに君は魔王討伐には必要ないかも」
シェラが悪意も屈託もない笑顔で言い放った瞬間。
ピコン!
俺の視界に、突然ウィンドウのようなものが浮かび上がる。
⸻
【死亡フラグ:発生】対象:門脇シェラ
発言:「私が死ぬわけない」
死亡確率:100%
推定死因:第一遭遇魔物にて過信突撃による即死。なお第一遭遇魔物は自爆による攻撃を実行する。
対策:おとなしく聖剣を投げてブッ刺す。
「出たぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ひゃっ!? なになに!? 爆発するの!?」
「お前が爆発するんだよこのままだとォォォ!!」
——————
と、まぁこうして
死にそうな仲間たちと、死なせないように右往左往する俺の、圧倒的に地味すぎる冒険譚が、今ここに始まるらしい。
読んでくださりありがとうございます!!




