シマリスのチト
森のはずれに、小さなシマリスのチトが住んでいました。
チトはほかのリスよりも少しだけのんびりしていて、冬の準備もいつもぎりぎりになってしまうのでした。
ある秋の日の朝、森の動物たちは大忙しでした。
木の葉は赤や黄色に染まり、風は冷たくなり、どんぐりも木の実もどんどん落ちはじめました。
「チト、まだ冬の食べもの集めてないの?」
キツツキのコンコンが枝の上から声をかけました。
「えへへ……今日からがんばるよ」
「今日から? 冬はもうすぐだよ。ぼくなんて、もう倉庫がいっぱいだ」
コンコンは誇らしげに羽を広げると、木のてっぺんへ飛んでいきました。
チトはほっぺたをふくらませ、ひとりでぶつぶつ言いました。
「みんな急ぎすぎだよ……森にはまだまだ木の実がいっぱいあるのに」
けれど、木の下を探しても探しても、大きなどんぐりはほとんどありませんでした。
先に見つけた動物たちがもう全部持っていってしまったのです。
「どうしよう……冬になったら、お腹がすいちゃう」
チトはしっぽを落として肩を落としました。
そのとき、森の奥から不思議な光が見えました。
木々の間からまばゆい金色がちらちらとこぼれています。
「なんだろう……?」
チトはそっと近づき、草をかき分けました。
そこは小さな丘の上で、一本の大きなクルミの木が立っていました。
幹は太く、葉は光を浴びてきらきらと輝き、その根元には、見たこともないほど大きなクルミの実が山のように積もっていたのです。
「すごい……! これだけあれば冬を過ごせる!」
チトは夢中になってほっぺたに実を詰め、穴へ運びはじめました。
行っては戻り、戻っては運び、チトの頬はパンパンにふくらみました。
「ふう……だいぶ集まったぞ」
けれど、ふと気づくと足元には、まだたくさんの実が残っていました。
チトはほっぺに残ったクルミを入れようとして、手を止めました。
「こんなにいっぱい、ぼくひとりで食べきれるかな……?」
そこへ、弱い声が聞こえました。
「だれか……だれか、助けて……」
声のするほうを見ると、小さなヤマネが倒れていました。
体は冷え、震え、ほとんど動けなくなっています。
「どうしたの!?」
「……ずっと食べものが見つからなくて。もう、歩く力も出ないんだ……」
チトは胸がぎゅっとしました。
自分だけで全部クルミを運ぼうとしていたことが、急に恥ずかしくなりました。
チトは迷いなく、ほっぺの中のクルミを全部出しました。
「これ、食べて! 早く元気になって!」
「いいの……? 君だって冬の準備が……」
「だいじょうぶ。全部じゃなくていいんだ。ひとりで抱えるより、みんなで分けたほうがきっと暖かいよ」
ヤマネは涙を流しながらクルミをかじりました。
その顔が少しずつ明るくなるのを見て、チトの胸もぽかぽか温かくなりました。
そのとき、丘に風が吹き、金色の葉がくるくると舞い上がりました。
クルミの木がゆっくりと枝を揺らし、どん、と大きな音を立てて、さらにたくさんの実を落としました。
大地に転がる音は、木の笑い声のようでした。
「ありがとう……」
チトは思わず木を抱きしめました。
すると、木の幹からやさしい声が響きました。
「ひとり占めを考えた者には、わたさぬ実。分けあう心をもつ者にこそ、わたす実」
ヤマネが目をまんまるにしました。
チトも口をぽかんと開けました。
「この森は、助けあう心で守られている。だから、冬を越す力を持つ者は、いつも心のあたたかい者だよ」
木の声はやさしく森に溶けていきました。
金色の葉が舞う中、チトの胸は温かな光でいっぱいになりました。
次の日。
チトは森じゅうの動物たちに声をかけました。
「丘にクルミの木があるんだ! みんなで取りに行こうよ!」
最初は誰も信じませんでした。
けれどチトが先頭に立って連れていくと、動物たちは驚きました。
「すごい……!」
「こんなに大きな実、見たことない!」
「チト、ありがとう!」
みんなで分けあい、笑いあい、チトははじめて誇らしい気持ちになりました。
ヤマネもすっかり元気になり、チトのとなりでしっぽをふりふりしました。
「チト、君は小さいけど、心はすっごく大きいね!」
「えへへ、そんなことないよ。ひとりじゃ何もできなかったし」
でも、心の中で小さく思いました。
(ぼく、冬が来るのがちょっと楽しみになってきた)
みんなでいれば、きっとどんな冬の寒さにも負けないから。
風が吹き、金色の葉が空へ舞いました。
チトのしっぽもふわりと揺れ、笑顔が太陽のように輝きました。




