ふゆのあさ
まだお日さまが顔を出すまえの時間。
まちの家々は、みんな毛布にくるまれたみたいにしずかで、空はうすい青と灰色がまざったような色をしていました。
けんたは、ぱちりと目をさましました。
カーテンのむこうが、いつもよりずっと白く光っている気がしたのです。
「……雪、ふったのかな」
けんたは布団からむくっと起きあがりました。
布団の中はあったかいけれど、床はきっとつめたい。
でも、気になってたまりません。
えいっとがまんして布団をけり、足をそろりと床につけると、ひんやりした感触がかけあしで体の上をかけあがりました。
「さむいっ……!」
それでも、けんたは急いで窓のそばへ行きました。
カーテンをばさっとあけると……
「わああっ!!」
外はまっしろでした。
家も道も木も屋根も、すべてが雪のふわふわの布団をかぶっているようでした。
まだ朝の光が弱いせいか、雪はうっすら青く光っています。
けんたは手袋とコートとマフラーをつかみ、玄関へ走りました。
ドアをあけたとたん、つめたい空気が顔にぶつかりました。
「さむっ……でも、きれい……!」
白い息が、ふわあっと空へのぼっていきます。
まだ世界はねむっているみたいに、しずかでした。
「だれの足あとも、ついてないんだ……」
けんたは、まっさらな雪のじゅうたんを見つめました。
そこへ、ぎゅっ、と足をふみだしました。
ぎゅっ。
ぎゅっ。
雪をふむ音が、しずかな世界にひびいていきます。
まるで雪が「おはよう」と返事してくれているみたいに。
「たのしい……!」
けんたが公園の方へ歩いていくと、ブランコの上に小さな白い山がありました。
その山が、もこっと動きました。
「えっ!?」
けんたが目をこらすと、白い山は、ロボットみたいな形の雪だるまでした。
頭には赤いバケツ、手には木の枝、そしてお腹には小さな青いリボンが結んであります。
「おはよう!」
雪だるまがしゃべりました。
「しゃ、しゃべった……!」
「そうだよー! ぼく、ユキオ! 冬の朝だけうごける雪だるまさ!」
「すごい……! はじめて会ったよ!」
「そう? じつはね、雪だるまって、冬の朝がいちばん好きなんだ。空気がきりっとしてて、世界が生まれたばかりみたいに感じるからね」
ユキオは胸をどんとたたきました。
「でも、ちょっとこまってるんだ」
「こまってる?」
「うん。大事な宝ものがなくなったんだ。“朝のひかりのつぶ”っていう宝もの。それがなくなると、冬の朝の光がうすくなっちゃうんだ。そうすると、雪はすぐとけちゃうし、ぼくも動けなくなっちゃう」
けんたは目を丸くしました。
「それ、どこにあるの?」
「わかんないんだよ。夜のあいだに、北風のナガレさんが持っていっちゃったみたいでさ」
「さがそうよ! 一緒に!」
「ほんとに? うれしいな!きっと、この公園のどこかに落ちてるはずなんだ」
けんたとユキオは公園の中を探しはじめました。
すべり台の下。
ベンチのうしろ。
木の根もと。
ジャングルジムのてっぺん。
でもどこにもありません。
「あーあ、見つからないよ……」
「もう少しさがそうよ! まだ朝だもん!」
けんたは空を見あげました。
空はゆっくり白から金色へと変わりはじめていました。
「あっ!」
けんたはブランコの下に、小さなきらきらしたかけらが落ちているのを見つけました。
「ユキオ、見て!」
「それだ!! 朝のひかりのつぶ!!」
けんたがひかるかけらをそっと手にとると、それは雪の粒のように小さいのに、ぬくもりがありました。
「ありがとう、けんた!これがないと、冬の朝はちゃんと輝けないからね!」
ユキオがお腹のリボンにその粒を大切にしまうと、ぱあっと、空が光りはじめました。
太陽が顔を出し、世界が金色に染まっていきます。
雪がきらきら光り、空気がすきとおるように輝きました。
「わあ……きれい……!」
「でしょ? 冬の朝はね、がんばった人へのプレゼントなんだよ」
「プレゼント?」
「うん。早く起きたり、寒さに負けないように一歩ふみだした人だけが見られる朝の光。今日の君みたいにね!」
けんたは胸がじんと熱くなりました。
「ありがとう、ユキオ」
「ぼくこそありがとう! また雪が降ったら、きっと会えるさ!」
ユキオは笑いながら、少しずつ動かなくなっていきました。
朝日が強くなったからです。
「じゃあね、けんた。すてきな一日を!」
けんたは大きく手をふりました。
「また会おうね!!」
家への帰り道、けんたは何度も空を見あげました。
青い光が広がり、太陽がまぶしく輝いています。
雪の上の足あとが、まっすぐ家まで続いていました。
その足あとが、未来につながっているように思えました。
「冬の朝って、すごいなあ」
白い息がきらきら光って空へのぼっていきました。




