第52話 狼獣
リテルとフギレが駆けつけた時は、飢餓に錯乱する蛸獣、ミミ・ヒットは狼獣のオオイナサタタツを捕食する直前だった。
「まずいよ。
あの蛸獣、狼獣を食べる気だ。」
「そうか。
さぁ!リテル、なんとかなれ!」
フギレはリテルの後ろ襟を掴んで、激闘の中へ投げ込んだ。
マジかよ、あの狼愛好野郎。
衝動的すぎるだろ。
空中で体勢を直して、剣を抜く。
そして蛸獣の頭頂部を一思いに突き刺した・・・。
が、痛む仕草は見受けられない。
むしろ俺を見ることすらない。目線はいつも狼獣だけ。
剣で刺された痛みにも、自分の体から体液が出ていることにも気づかないほど、極限の飢餓であることがわかる。
統率する脳と分割整理ができる脳同士が連携されておらず、分割整理する脳が統率を拒否して、捕食するという行為のみが触手、体を支配している。
リテルは触手を切り落とそうと試みるが、海中の蛸とは違い、固く、しなっている。
武術のようにいなされた。
一方、リテルを投げ飛ばした後のフギレは風魔法を準備していた。
木枝の上から魔法を溜めている。
両手を上下から合わせて、手の内側に風魔法を収束させる。
風魔法が両手の隙間から溢れるその時、右回りに手を回転させ放つ。
自然の威を込めて・・・。
「最高風速、獣王無尽に意のままに!!
乱れて制す、天琲上昇!」
蛸獣と狼獣を目掛けてフギレは投げた。
魔法が地面とぶつかった瞬間、リテルの体が全身浮くほどの上昇気流が発生した。
リテルはかろうじて枝に掴まってしのいだ。
暴風の中、蛸獣は一瞬躊躇いながらも狼獣を手放した。
そしてその隙は決して逃さない。
狼獣は上昇する風に乗り、風の中を立体的に動く。
まるで自分だけの足場が全方向にあるようだった。
風に乗った狼獣は目にも止まらないほど速く、稲光が風の中を走っている。
「すごいよ!イナサちゃん!!
まさに古代から生きた極獣の品格、全盛のイナサちゃんそのもの!
最後の一撃まで昔は今。」
フギレの声に応えるように狼獣は加速し、ドンウドララーの時とは比べられないほど、火花が散る連撃が炸裂した。
流石にこの痛みは蛸獣の意識を戻す。
地中へ逃げようと足をうねらせ、潜ろうとも、もう狼獣から逃げることはできない。
逃げる蛸獣の頭に食らいつく狼獣。
ギシギシと鳴る噛み付く音。
蛸獣は狼獣を引き剥がそうと触手で掴むが、一向に離すことは見受けられない。
逆に狼獣の喰らう強さはより強力になる。
体液は頭からだんだんと吹き出し、ついに皮膚を突き破った。
「キギェェーーー!!」
蛸獣の悲鳴と共に頭は食いちぎられた。
体液は吹き出し、狼獣の毛に塗られた。
狼獣は体をブルブルと震わして、蛸獣の体液を落とした。
「素晴らしい出来だ!
私は・・・ハァ・・・
イナサちゃんをほk・・・・・・。」
突然、フギレは枝から落ちた。
フギレは魔法を限界まで使っていたので体が持ちこたえられず、意識が飛んでいってしまった。
リテルは手を前に出し、フギレを下で待ち受けようとするも、間に合わない。
その時、ヒュッと出てきたのは狼獣。
フギレを背中で受け止めた。
今まで狼獣はフギレに対して守ろうと思った行動は一度もしたことがなかった。
しかし今、初めて狼獣からフギレを助けた。
「リテル!」
ムロフが来た。
「巨大な風がリテルのそばに現れたから来たが、見た感じは大丈夫そうだな。
そこで寝そべってるのは?」
ムロフが指差した先には地面でうつ伏せになっているフギレ。
狼獣はフギレを置いて森に帰ったようだ。
そしてフギレはムロフに担がれ、リテルと王国に帰った。
王国に帰り、餅の源の卓でアメハにミミ・ヒットのことを話した。
「なるほど。飢餓による暴走ということですね。
おそらく植獣のメプル・ブアムアダムの樹液の匂いに誘われて来たのかもしれません。
植獣の養核には栄養が濃縮されていて、それを食べるために来た可能性があります。
けど、なぜ飢えていたのかが疑問ですね。」
蛸獣のミミ・ヒットは雑食で、基本はなんでも食べることができる。
野菜や果物があれば生きていけるはずだが、わざわざ森まできて樹液か狼獣を追うのか理由がわからない。
研究のためミミ・ヒットの一部の細胞を切り取って、アメハは採取瓶にいれた。




