第44話 船の持ち主
船に乗り、ブレイサー港王国へ向かっているリテル達。
操縦席にはリテルがおり、船の上にはオイカゼ旅人とシャッツとソス。
会えたことを喜んでいると悲劇は起きた。
リテルが舵輪を握っていると、突如腹部が飛び出した。
リテルは刃物と共に倒れ込み、背後を振り返った。
「妙に船が回っていると思ったらー。
なーにやってくれてんの、俺の船で。」
無造作な黒髪で目が隠れている、振袖姿の男が立っていた。
足音が一切しなかった・・・気づけなかった。
「おとん!さっさとその人間を海に沈めといてや。」
「お前らに船を任せた俺が悪かった。
こいつらの連中も始末する。」
その男が部屋を出ようとした時、リテルは男の足首を掴んだ。
「友達に何もするな・・・」
「知るか。お前らが乗り込んできたんだろ。」
背中に刺さった刃物を抜き、次は手の甲に刺した。
再生ができない・・・
この刃物は普通の物じゃない・・・
男は船にいるホールン達のいる場所に歩いて行った。
「俺の船で呑気にしやがって。
ここはそんな場所には不釣り合いだ。」
ホールン達は身構える。
すると男は腰裏から歪な小刀を取り出して言った。
「出てこい。蟹椰、料理の時間だ。」
「キルキル♪キルキル♪それ以外解なし。」
ノリノリに歌を歌いながら、船の扉から出て来た。
蟹が8割、人が2割ぐらいの知的魔物だった。
青緑の体で、右手は大きなハサミを持ち、一方左手は貧相なハサミに見える。
蟹椰という魔物は出て来てからも歌をぐちぐち言い、控えめに踊っている。
「真面目にしろよ、蟹椰。」
「ギィッッ。」
蟹椰の横腹に男が小刀を突き刺した。
膝から落ち、突然脱力した。
仲間割れかと思ったが全く違った。
俯いていた蟹椰の体はだんだんと青緑色から赤色に変色した。
一回り体が大きくなっているようにも見える。
「キルキルキル・・・キル!!」
さっきまで踊っていた奴とは思えない速さで距離を詰めて来た。
船の床を甲殻類が這うようなカタカタする音が鳴る。
そして蟹椰はムロフに大きなハサミを振りかぶった。
「せい!」
と、掛け声と共にムロフはハサミへ拳を突き出した。
拳とハサミが衝突し、先にヒビが入ったのはハサミの方だった。
「魔物基礎増幅薬を使用して通常の約8倍の強さを持つ甲殻を素手で割るか・・・。
鉄板以上の硬さ。魔物じみた手だな。」
「イデェ、イデェ・・・」
蟹椰は海に帰った。
「本来なら蟹椰だけで片付けるつもりだったが、直向きに向かい合わないといけないのか。
無茶するガキらだ。」
船の持ち主、ニグメ=グラッド。
出身国不明、所属不明の許可なし貿易船の船長。
複数の種類の魔物を束ね、独自の発展を遂げた謎の男。
一度、政府に捕まった実歴を持つが、その際に特性は発見されず無特性、無魔法と記載されていると、ソスは言った。
しかし政府から逃げた手段は明かされておらず、真相は途中記載となっている。
突然シャッツは水牛に変身し、ニグメが出て来た扉の方へ走った。
「どこに行く?!」
サイダンがそう叫んだ。
しかし変身を解除することもなければ止まることもなかった。
そのまま扉を突き破り、操舵室に向かった。
ニグメはシャッツを気にせず攻撃を仕掛けた。
ムロフに小刀を振る。
しかしムロフは油断した。
明らかに届いていなかった距離の刃が体に傷を刻んだからだ。
油断した!!
そういう系の魔法か!
「ホールン!俺に共鳴を!」
魔法を斬撃化させ、武器の素早さと長さを加え、長い刃物を簡単に振れる細工。
「俺はその魔法は既に克服済みなんだよ!」
ニグメの小刀から出る魔法を両手で受け止めた。
ニグメは少し動揺を見せ、魔法を回収し、小刀を抜く。
ムロフの特性は「威風堂々」。
筋力だけでなく、自身の心の「芯」も強化する。
精神が強いほど扱える魔法は強く、防御では受け止めやすい。
魔法の放出と耐性には個人差が大きく、努力で超えられない壁は存在する。
ムロフは特性を活用し、ニグメの魔法を捕らえたのだ。
ニグメはムロフを後回しにすることに決めた。
先に無防備のホールンとサイダンを迅雷の速度で一撃を与えた。
ホールンとサイダンは床に突っ伏した。
ムロフにも攻撃が襲うが、なんとか受け止めた。
「お前らがくるところじゃねーんだ。
俺が海賊じゃなくてよかったな。」
ムロフの体力はニグメとの戦いでジリジリとすり減っていく。
リテルの危機を察知したシャッツ。
舵輪の前で出血して倒れているリテルを見つけた。
リテルに刺さっている刃は内臓にも届いている。
シャッツは慌てふためいた。
そこに縄が解かれた二匹のプロテクティバーが近づく。
「もう死んだんや。
血の量を見ればわかるやろ、グェグェグェッッエ!」
笑う二匹を突き上げ床に叩きつけた。
シャッツは膝から崩れた。
「起きろよ。リテル・・・」
返事することはなかった。




