第42話 チの妖精
カイは砂浜を離れ、ジュガンドラ平原の真ん中を歩いていた。
チの妖精が導き示す後を辿っていると、夜が来てしまった。
あたりには寝床も家もない、光すらない。
照らしてくれるのは空の星だけ。
「ずっと歩き続けているが、おどれの腹は減らんのか?
わしは虫が何度もなっているのじゃが・・・」
「おいらは妖精だから飯は食わないのだ。
食べたいなら出せるが?」
「出せる・・・?」
チの妖精は全身を震わせ、カラカラと頭の木を小刻みに鳴らした。
カイはその様子に首を傾げて見るしかなかった。
カイが口を開こうとした時、何かが草むらを倒してこちらへ来ている音がした。
刀に手をかけて待ち構える。
チの妖精は小さな声で「来た!」と囁いた。
草むらから角の生えた鹿が出て来た。
カイは鹿が自分に気づく前に仕留めた。
チの妖精は親指を立てて、グッとした。
そしてチの妖精が火を起こし、鹿を捌いて食べた。
それから自然の中で一泊した。
獣研にて。
ある一本の通話が繋がった。
それは極北部の新種のランカ種の調査の結果だった。
その通話はディープロス点が受け取り、発信先はディープロス点と同じ階級のボロゾア=メタン、ボロゾア点。
北の地で極獣や生物の研究と調査を行っている。
そして約五ヶ月の月日を経て調査が完了した。
「ディープロス点、新種のランカ種について研究結果報告を後に送る。
まず口頭でいおう。
その調査対象は、「完全な生物」ではなかった。」
「完全な生物?どういう意味だ?」
「いくつかの体の成分を調査した結果、人工改造のような箇所を複数発見した。
神経だけが繋がった特殊金属が体に組み込まれていた。
これは最近出始めた改造極獣だ。」
過去から度々発見される少数の改造極獣。
いまだに生息地、発祥地はわからず、多くの獣研の研究者を困らせている。
「やはり改造極獣であったか。
わしが先、頂へ資料とともに伝えておく。」
近年発見される改造極獣、今後オイカゼ旅人団にどう影響を与えるのか・・・
一夜明け、カイとチの妖精は再び進む。
ジュガンドラ平原からジュガンドラ森林に突入。
ジュガンドラ森林には人の手入れは施されていなく、草を分けながら進むしかなかった。
当然人のいない森の中で人の声をカイは聞いた。
声を辿ると、一人の男性が不思議な物を観察していた。
遠くから覗いていると、観察していた物が動きだした。
それは極獣夜行でも見た極獣、ウヌク・ロイカーに似た生き物だった。
単眼で、一部に銀色に輝く物が装着されている姿で、キリンではありえない足が生えていた。
カイはあれがなんなのかチの妖精に聞くと、首を振って答えた。
その場で見ていると、その極獣らしき生き物が動いた。
男が木の実を取り出して、少し遠くの場所に置いた。
餌をあげているのかとカイは思ったが、違ったようだ。
その生き物は木の実の一点だけを見つめ静止した。
次の瞬間、目の先から光が強く飛び出した。
そして木の実は弾けた。
その光景にカイは腰を抜かす。
「なんじゃ・・・何かの兵器か・・・」
兵器と言っても否定し難い威力の光線を放つ生物。
去る方が安全と考え、後ろに足を踏み出した時、枝を割ってしまった。
「誰かいるのか。」
その一言に息を飲む。
「まあいい。誰がいるのか知らんが最初の獲物になってもらおう。
Case3、木裏に攻撃命令!」
そのCase3と呼ばれる生き物はカイの隠れている木陰を向き、先ほど同様、光線の準備をし始めた。
Case3の目には光が集い、光線は放たれた。
カイに容赦なく放たれた光は、危機一髪でチの妖精によって防がれた。
「生物の恩義を・・・無下にするな。」
チの妖精の姿はみるみるうちに大きくなる。
-天チ開闢-
紫の大きな手で男とCase3の首を掴み、握り潰した。
男の体液が飛び散り、手の隙間から滴る。
Case3の首が潰れたと同時に緑の光を放って動きを止めた。
そしていつもの姿に戻るチの妖精にまた腰を抜かす。
これが・・・妖精の力なのか・・・?
恐怖と関心の混ざった気持ちがカイの体を震わす。
さっきまで呑気な野郎だと思っていたが、反転した。
「おいらは動物を殺した人を恨むようなことはしない。
ただ、おいらは動物を無慈悲兵器にすることを絶対に許さない。」
生物の道理を重んじるチの妖精だった。
決して訳もなく殺したのではない。
「わしに似ているな・・・」




