第35話 ブレイサー港王国に向かって
ラレラレット王国の西にブレイサー港王国がある。
ブレイサー港王国に行く道のりには一つの大山が存在し、その山は西から吹く湿気の多い風の水分を奪う。
東にある地域、主にラレラレット砂丘が乾燥地帯になるの原因になっている。
しかし悪いことだけではなく、その山の山面には木が繁り、動物の住むかにもなっている。
その山の名前はジュガンドラ山である。
ラレラレット砂丘を抜け、背丈の低い草が生えた野道を馬車で進む。
以前の馬車とは快適さが断然違う。
軽い素材の為、進みが速い。
しかしムロフには少し不平がある。
それは・・・
「これじゃあ軽すぎて筋肉がつかないぞ。」
重量が軽くなったことにより、筋肉への刺激が足りず困っているようだ。
ムロフは遅くなってでもとにかく刺激が欲しいらしい。
だけどカイは地図を見ながら言った。
「この調子で次の宿に行けば時間に余裕が空き、筋トレもできるのじゃがな・・・」
その言葉にムロフは目を輝かせる。
そして歩くスピードは次第に速くなり、通常で数時間かかる道をひと時の間に完走してしまった。
「僕の共鳴なしでこの速さを?・・・?」
ムロフの速さにホールンは思わず声を出してしまった。
筋トレには目がないムロフであった。
山前の宿は森に囲まれており、木造の宿には少しキノコが生えている。
この宿は山と砂丘の間に建てられているから旅人の通行が頻繁に行われている。
馬車を駐車して中でくつろいでいると、ある旅人の話が耳に流れてきた。
どうやらこの山あたりで極獣が目撃されているそうだ。
山の動物を狩る者を角で串刺しにするという。
ヤギや鹿の姿をしていて、白い角を頭に掲げている。
「物騒じゃのう。
角の生えた極獣の名前がわからぬのならそれは新種ということか。」
緊迫した空間の中で、ゼヴァのお腹が馬車内に鳴る。
ゼヴァが頬を赤らめて、手で顔を覆う。
「そろそろ食事の時間かな。」
ゼヴァは恥ずかしいと思っているが、リテル達は気を使わせないよう、何事もなかったかのように宿に入った。
漢・・・!
席につき、丸々としたおばちゃんに肉を注文をしようとした時、肉がないことを告げられた。
訳を聞くと、例の極獣の出現によって肉が獲れていないそうだ。
なんでも、動物の悲鳴を聞くと一目散に森を駆け抜けて、食材ハンターに角を突き刺すそうで、何人かが被害に遭っているのだと。
だから野菜やキノコ、果実しか採れない。
少し遠くからの食材ハンターから集めないといけない状況になっている。
ここもこの先の宿にも肉が供給されていないらしい。
ムロフはあからさまに落ち込んだ。
「肉の代用でタンパク質を補える野菜はありますが?」
「純度100%の肉はねぇのか・・・」
その時ムロフの心に火がついた。
ムロフはその極獣を討伐することを宣言した。
おばちゃんは苦笑いするが、決してそれを否定することはなかった。
その日は肉を食べることができなかったが、ムロフはタンパク質を補える野菜を渋々食べた。
翌日、早朝に宿で目覚め、ムロフは極獣狩りの準備をしていた。
フィジカルは言うまでもなく強い、さらにムロフの強みは旅人体験学習の時に発揮した。
上空にスチル・ランカもどきの装甲をそこらの石で穿孔を開けた実歴を持っている。
石でもムロフの手にかかれば銃弾のようにもなる。
本当に狩りに行くのか?とホールンは聞く。
次の王国まで耐えればいいじゃないかと安全の道を進もうと言う。
「肉が食えて、死者も減るならいいじゃねえか。」
ホールンはただムロフが肉に飢えているだけだと思っていたが違ったようだ。
実際は肉目的だが、人助けでもあったのだ。
「その極獣を討伐するのはいいけど、どうやって探して倒すんだ?」
「そりゃぁ、その辺の動物をしばけば出てくるだろ?
そうしたら後は仕留めるだけだ。」
そうして、その極獣の性質を利用して誘き寄せることにした。
少し離れた場所で食用になる動物をムロフが殴ると、奴の鳴き声が山、森に響き渡る。
バキバキと木枝を折る音と、ヒズメが落ち葉を踏む音が一方向から怒涛の勢いで迫ってきた。
そして走り現れたのはうねり、鋭く白い角と皮膚下の骨が浮き出る体を持ったトナカイだ。
そして間一髪でその角を避けるムロフ。
その極獣は鼻息を荒げる。
「極獣の生体反応。
極獣 鹿獣 コルノボーン・チェルヴォー。
角が生えた極獣で、その角はバラの針のように身を守り、また蜂の針のように対象を攻撃します。
角は非常に脆く、一つの衝撃で折れることが多い。
しかしその角は超再生能力に匹敵するほどで、例え折れたとしてもすぐに再生してしまいます。
角を振り、角の先端を飛ばすことも可能で中距離でも油断はできません。」
やはり極獣は一筋縄では討伐することはできないか。
角の針を防げることができる物・・・
リテルが思い浮かんだのは、ゼヴァの融解。
融解なら角を防ぐことができるはずだ。
「ゼヴァ。融解で角を押さえられるか?」
ゼヴァはコクリと頷き、体を液体化させる。
粘度の高い液体は極獣の角へ被さった。
ゼヴァを振り払おうと容赦なく体も使い、頭と角を震わせる。
この機会を逃すまいと足を踏み出した途端、ゼヴァが振り落とされた。
しかしそこには角まみれに混同したゼヴァと角が一切ないコルノボーン・チェルヴォーの姿が。
そして眩い光と共に復活する角。
ゼヴァを振り落とすためだけに全ての角を自ら落としたようだ。
これじゃダメか・・・!
再度俺達に突撃してくる極獣。
ゼヴァの封じ込めはもう通用しない。
猛攻は続く。




