第32話 カカト谷の魔物
カカト谷の入り口は大きな岩の狭間にある。
その狭間には監視役の魔物が構えていて、正面から行けばすぐに臨戦状態になり、突破が困難になる。
作戦は上からの奇襲をすることにした。
「ウドララー」という灰色の皮膚に小さな二個の角の生えた小型の魔物が「親玉」を中心に谷に巣食っている。
彼らはどんなところでも住み着き極寒、灼熱にも少しずつ適応する。
旅人団の賞金の的になることが多く、国から離れた場所に住処を作ることが多い。
そしてカラル、スーぺ、その他の魔人の背中に乗り砂丘を越え、谷に来た。
「故郷と家族を苦しめた根源となった谷に遂に復讐ができるのだ。
私はこの戦いから逃げることはない。
復讐の機会を逃すわけにはいかない。」
谷に近づき、上から覗くと有象無象と帆蔓延る魔物がいた。
ブルーイチによると昔よりかなり発展しているようで、数も増えているようだ。
「ミー、こんな所に立っていると足がすくむー。」
カラルは魔物の威圧に足を小刻みに揺らす。
その揺らしていた足が小石に当たり、谷の中へ落ちた。
その小石は不幸にもウドララーの頭にヒットした。
そして見上げたウドララーと目が合ってしまった。
「あ。」
そのウドララーは角笛を取り出して、吹き鳴らした音が谷全体に響いた。
すると巣から木製、岩製の棍棒を持ったウドララーがわらわらと俺達を目掛けて、谷から出てきた。
ガラガラした声がウドララーの大群の後ろから聞こえた。
声の主は禍々しいオーラを持った「ドン・ウドララー」。
図太い腕にたるんだ腹、二メートル程の背丈のウドララーの親玉だ。
大木を担いで現れた。
「ガキが啄くところではないぞ。
ん?見知顔が一人いるなぁ。」
ブルーイチを指差した。
「俺はお前を追い回した一匹のウドララーだ。」
しかしブルーイチはその言葉を聞いても思い出せなかった。
なぜなら、ブルーイチを追い回したのは小さなウドララーの姿しか覚えていなかったからだ。
「わからんか。
無理もない、俺は王になり進化したのだ!」
ウドララーという種族は強い力を持つと進化し、ドン・ウドララーとなる。
ドン・ウドララーの周りに従えるウドララーがいれば、親玉として座につける。
「行け!ここへ来たこと後悔させろ!」
合図と共にウドララーは俺達に襲いかかる。
ただ無闇に棍棒を振り回して簡単に反撃することができる。
まだ未熟なのだろう。
八方を囲まれてもどうにもできるはずだった。
未熟なウドララーの中に紛れて多少技術を持ったウドララーが攻撃してくる。
剣だけではキリがないので舌でまとめて谷へ突き落とした。
「ただのガキではないのか?
舐めていた。家族にこれ以上手出しはさせない。
俺が仕留める。」
ウドララーは俺達と距離を置きながら囲んだ。
ドン・ウドララーと囲みの中で対峙することになった。
ウドララーは闘技場のような壁になり、ヤジを飛ばす観客のように見ている。
「始めるぞ、何人でも来い、俺は王だ!」
という言葉と同時に地を足で鳴らし、オーラを増幅させた。
その時、ギポーの物とは違うオーラを放った。
俺とカイが同時に攻撃しても素の力をで弾き返された。
「あいつから一切悪を感じない。
悪じゃなく、家族を守るための行動じゃから正義を感じている。
わしらが悪のようになっているようじゃ。」
「はにかむじゃねえか。
だが逃しはしない。」
今度はドン・ウドララーが攻撃を仕掛けた。
一振りした大木は地面を叩いた。
もし当たっていれば頭がかち割れていた。
その大きな一振りは強いが隙は大きかった。
カイはその隙を逃さす太刀を振った。
しかし刃は皮膚にさえ通らなかった。
カイの太刀は上へ弾かれた。
ドン・ウドララーは浮き上がったカイの腹を一発吹き飛ばした。
刃を通さない皮膚はムロフの拳も跳ね返した。
ホールンがムロフに共鳴しようとするが、ブルーイチは止めた。
「強化できる特性は非常に強力だ。
しかし反動も大きい。
加えた力を跳ね返させられた時には、腕が破裂することもある。
魔法が有効打だ。」
ブルーイチは呼穴から例の手袋を取り出した。
地面に手を擦り、火を起こした。
「この手袋は属性変換装置の一部である。
私の場合、無属性を火属性へと変換することができる。」
燃える手を振り、ドン・ウドララーに着火させた。
ドン・ウドララーは慌てて手足を動かして火を消そうとする。
しかし、ブルーイチの延焼しやすい炎はなかなか消えず、皮膚を焦がして燃え尽きた。
「イ、痛イ・・・
ケど、家族のためならば・・・ストラグってやる。」
ドン・ウドララーは爛れる皮膚にも屈しず、大木を担ぐ。
だが動くたびに火傷が風にさらされて痛み、動きが明らかに遅くなる。
リテルは剣で左腕を切り付けると、今度は硬かった皮膚が剥がれたおかげで容易く切り落とせた。
その後も刃は体を斬り、ドン・ウドララーはもう動くことができず、仰向けで倒れていた。
意識はあれど、体力はもうない。
血液も漏れていて、息も荒く細かった。
「散レ!!死ぬんじゃねぇ!」
最後の息を全て使って家族に逃げることを命令した。
ウドララーは組んでいた円を乱し、親玉に背を向けて砂埃をたてながら走り去った。
ドン・ウドララーは動きを止め、瞼を瞑った。
魔物のいたカカト谷には魔物がいなくなり、静かな谷を取り戻した。
「これで私は悪夢から抜け出し、遂に叶った。」
喜びながらブルーイチは手袋をリテルにあげた。
お礼ということで手袋をくれた。
ちなみに、リテルは無属性魔法すら持っていないので火を出すことはできない。




