第2話 初めての戦い
4年が経ち、12才になった。
俺は師匠との修行を経て、かなり強くなった。
相変わらず攻撃力は1のままだが、バレットタイムの集中時間の延長など学んだことがたくさんあった。
「かなり強くなったな。
そろそろ名前をつけよう。
おまえはもう若造じゃない。」
「でも、まだわからない。」
「なら、私と勝負をしよう。」
俺は剣を使い、師匠は魔法を使う。
師匠が勝ったら、師匠が俺の名前を名付ける。
俺が勝ったら自分で名前をつける。
というものだった。
「師匠、本当に斬ってもいいんですか?」
俺は剣を持っているのに、師匠は何も持っていない。
「私は構わない
では、始める
加減はいらんぞ!
始め!」
俺の特性は“バレットタイム”。
集中をしている時は自分の動きが速くなる。
つまり、相手の動きを遅くする感じだ。
ダメージは1しかないが、高速で攻撃を繰り返すことで、数秒の間でも通常の攻撃と同じようなダメージになる。
ある意味、俺の特性同士が噛み合っている。
この4年間の努力、今発揮してみせる。
魔法も使えない俺は距離が空いていれば何もできないので、一旦リーチに入ろうとして、師匠に斬りかかろうと思ったら・・・
いきなり何かに邪魔をされ、体ごと弾かれてしまった。
「なんだ今の!」
今まで隠してきたのか?
魔法?
「気になるか?
これは魔法ではない。
私の特性だ。
私の特性は“無関心”
他者を寄せ付けない壁を作る。」
希少特性“無関心”
他者を寄せ付けない透明な壁を作ることができる。
人と関わる時間が少ないほど、壁は分厚く、強くなる。
しかし、“エフェクト”が発動しなくなる。
“エフェクト”
クリティカルなど属性や攻撃などとは違う別の要素。(運ゲー)
“クリティカル”
相手の特性を無視、弱体化して攻撃や魔法でダメージが与えられる。
透明な壁のせいで攻撃どころか、近づくことさえできない。
でも、近づくにはこれを破壊するしかない。
エフェクトのクリティカルで特性を無効はできないかもしれないけど、弱体化で弱っているうちに攻撃を続ければ壊せる気がする。
俺は透明な壁に向かって毎秒50回程斬り続けた。
クリティカルが出ればと願って運任せの攻撃だけど、俺はこれしかできない。
「クリティカルを出そうと思っているのか?
でも、ガラ空きの体にも気をつけなさい!」
透明な壁が俺を吹っ飛ばした。
近づいて攻撃をしても吹き飛ばされる。
どうすれば・・・
「“バレットタイム”の使い方を考え直せ。
攻撃を繰り返すこともできるが、避けることもできるだろう?」
そうだった。
集中してる間は全てがスローになっている。
俺は師匠に言われたことを学習し、攻撃を与えてから避けるというのを続けた。
「わかってきてるな。
では、囲まれた時はどうする?」
四方に透明な壁が作られた。
逃げることができなくなってしまった。
避けれないなら・・・
上が空いている!
「上に逃げる!」
師匠は関心して頷いたように見えた。
「次は魔法に対応してみろ」
師匠の属性は草属性だから奇襲がしやすい。
バレットタイムを利用して、攻撃がきた瞬間に切る!
上手く魔法を断ち切ることができた。
今のうちに壁を!
何百回目かわからないが、ついにクリティカルが発動した。
今ならいける!
脆くなった時を狙い壁を壊した。
師匠の一歩手前まで来た。
「見事だった。
私の負けだ。」
突然の敗北宣言に俺は驚いたが、師匠に勝ったことに喜んでしまった。
「じゃあ約束通り、自分で名前をつけなさい。
相応しい名前を。」
自分に相応しい名前・・・
パッと脳に出てきた名前は・・・
『リテル』
「俺の名はリテル=クロテウス!」
リテル=クロテウス・・・
いい響きだ。
「では、名前を記名しよう。」
師匠に名前を入れてもらった。
「それと・・・
私はもう歳でな。
長い間この森を守ってきたが、戦える体ももう消耗しきってしまった。
だからこれが私の中にあっても無駄だ。
私が生きていたというのを後世に繋げなければならない。」
師匠は俺に近づき助けてくれた時と同じ手で手を額に向けた。
何かが俺の体から溢れてくる。
「これは特性の継承。
私が引き渡した希少特性は“生死の賢者”。」
“生死の賢者”
亡くなった生物を取り込むとその一部を使用することができる。
また、死期が近くなった者、死の危機が迫った者が近くに現れた時感知できる。
「特性の継承は終わった。
後は、全てリテルが決めなければならない。」
「その無関心はくれないの?」
「ははは!
欲張りじゃのう!
だが、譲ることはできないんだ。
希少特性の性質はわかっているか?」
通常特性
『誰にでもある可能性がある特性』が通常特性の分類に振り分けられる。
全ての通常特性は継承ができる。
希少特性
『この世界に一つしかない特性』が希少特性と分類される。
基本的に継承はできないが、稀に希少特性の中には継承ができる希少特性がある。
「生死の賢者は継承ができる希少特性。
無関心は継承ができない希少。
それと、継承した特性は誰にも語るなよ。」
それを聞いて疑問が生まれた。
すぐに聞いたけど、教えてくれなかった。
就寝前に再びなぜ話してはいけないのか、もう一度理由を聞いても硬く口を閉じて話してくれなかった。
寝ようと布団に潜り込み、目を瞑った。
すると外から
ポワーン プワーン ブクブク・・・
と木管楽器の音と水が泡立つ音が聞こえた。
「奇妙に響く音・・・
あいつが来たな。」
あいつとはなんなのだろうか?
夜中に楽器を弾く奴はどんな奴だ?
師匠は布団から出て、俺についてこいというかのように、指をひょいと曲げた。
俺は布団から出て、師匠の背中を追った。
師匠はどこに行くんだ?
向かっていく方向に行くほど、さっきの音が大きくなってきた。
向かった先は森の中央にある湖だった。
トリホタルの光がいい感じに池をデコレーションしていた。
湖のほとりには、巨大なカエルがいた。
音の主はカエルだった。
「リテル、あれは
蛙獣 ズウェッル・クリング。」
蛙獣 ズウェッル・クリング
大きな蛙で丸々とした鳴嚢を持っている
音の詰まった泡を作り出すことができる。
その音の泡を割ってしまうと、爆音が出てしまう。
街中に現れると別の意味で被害が大きい。
基本的には無害だが、縄張りや攻撃をすると激怒し、大声で鳴く。
師匠によると、ごくたまにここの湖に来ることがあるらしい。
何年もここにいる師匠はこれには慣れているらしい。
「生死の賢者を使いたいだろ?
なら、あの蛙を倒してみい。」
近づいてみるも特に逃げることも、攻撃的になることもなく、ずっと音を出している。
近くで見ると鳴嚢がプクプクしていて気持ち良さそうだ。
触りたいという興味でそっと手を当てようとすると・・・
「ゲッコー!」
鳴嚢を膨らませて叫んだ。
逆鱗に触れたみたいだった。
メスへのアプローチを邪魔されて怒ったようにみえた。
「リテル!
容易に泡に触るのではない。
弱めの極獣であっても油断は禁物だ。」
極獣
蛙獣 ズウェッル・クリングのように環境生物が巨大化や獣化したものを極獣という。
極獣は群れを作ることが少なく、攻撃に特化している。
ズウェッル・クリングは泡をポコポコ生み出して威嚇や攻撃をしてきた。
可愛い見た目とは裏腹に攻撃性は高い。
どんなに攻撃力1を与え続けてもダメージが入っている気がしなかった。
その時、俺は修行を思い出した。
どんな相手にも弱点がある。
柔らかい部分やどこかに隙間がある。
という師匠の教えを。
俺はズウェッル・クリングをよく観察した。
柔らかそうなのは鳴嚢だけど、ツルツルに滑って斬撃では歯が立たない。
今度は目を狙おうと思ったが、蛙には特有の瞬膜というものがあって、こちらもダメージには期待ができなかった。
どんなに探しても、どの肌も硬いかツルツルの柔らかいかの部分しか無く、俺では無理だと思った。
師匠の方をチラッとみたが一向に助けるそぶりはなく、「自分でなんとかしろ」と言ってる感じがした。
そして、気がついた。
俺はある場所を見逃していた。
それは内側があるということ。
ズウェッル・クリングには歯がない。
つまり多少噛まれても大丈夫だから、俺は口が開いた瞬間に喉を剣で突き刺した。
「ゲコ?!」
ズウェッル・クリングは俺の腕を咥えながら暴れ出した。
どうしても離してくれなかったから、可哀想だけど口の内側から皮膚を引切り裂くように斬った。
動きが・・・止まった?
勝った?
「よくやった!
リテル。」
どうやら俺は勝っていた。
「では、生死の賢者を使ってみよう。」
[生死の賢者を使用しますか?]
脳内に誰かの声が聞こえた。
「驚いたか?
聞こえるだろう?
それは生死の賢者の声だ。」
これが賢者の声・・・
脳内からの声を初めて聞いた・・・
[使用しますか?]
心の中で[はい]と答えた。
すると、さっき倒した死体が分析され始めた。
[極獣蛙獣 ズウェッル・クリングを取り込みました。
長い舌を出すことができます。
腕を舌に変え、拘束や鞭、移動に使えます。
更に、泡魔法も使えるようになります。]
長い舌っていうのは気持ち悪いけど、バリエーションが少ないよりはマシかな?
試しに湖にいた魚を捕まえてみた。
元の能力は蛙だから素早く捕まえることができた。
けど、我ながら本当に気持ち悪い。
舌という物もあり、少しベトベトする。
人前ではつかなさそうだな。
さて、次は泡魔法を使ってみようかな。
大きめの泡が出てきた。
シャボン玉が何倍にも膨らんで、ちょっとやそっとじゃ割れない泡だった。
もっと上手く使えさえすれば、閉じ込めたりすることも出来なくはないかもしれないけれど、まだまだ俺には巧みに操ることはできないようだ。
初めての極獣にはプレッシャーを感じたけど、機転を回して討伐することができた。
その日の夜は色々なことに出会った。
それ以降特に極獣と会うことはなかった。