第28話 vs奇術師
「慌てたその行動が命取り・・・
私の邪魔をしないでおくれ。
静かに眠ってくッ・・・」
俺は刃ごと穴へ体を放り込み、リテル達の元へ必死に飛び出した。
「ブルーイチ侯爵と侯爵に変装した奴がいる。
惑わされるな、注意したことも忘れるな。」
ムロフは伯爵を死なせないと担ぎ、近くの病院に運んだ。
ムロフは一時的に離脱。
「これからブルーイチ侯爵が襲ってくる、気を引き締めろ。」
リテルが舌を使い、城を登った。
空いている窓から侵入すると、どうやらここはホップアップ公爵の部屋のようだ。
目の前の空いたドアからはブルーイチ侯爵の姿が二人見えた。
「お前らが公爵と伯爵に手を出した犯人だな!」
舌で捕まえると変装していたであろう男だけ捕まえることに成功、がしかし本人は安易に捕まってくれなかった。
偽物を窓から投げると、下にいたゼヴァが確保する。
その偽物は素顔を現し、俺達がラレラレット王国へ行く途中に襲ってきたもう一人の男と酷似していた。
部屋の中に突入したリテルに見失った侯爵の声が部屋の全体から耳に入ってくる。
「不意に攻撃とはなかなか乱暴な方が来たようで。
失礼ですがあなた、待ち伏せているのは死のみ。
わざわざ敵の敷地に入るのは悪手で?」
侯爵の攻撃に構えてバレットタイムを発動。
その瞬間、部屋の四隅から炎が飛び出してきた。
咄嗟に舌で身を包んだが、両腕が燃えるように舌を火傷した。
舌は敏感な部分であるから、本来の耐久性と比べて痛く感じる。
耐久性には問題ないのだが・・・
侯爵の言う通りここにとどまるのは悪手。
意思の思うまま窓から飛び出すと、構えていたのはブルーイチ侯爵と剣。
先を読まれていた。
勢いで止まることのできない俺の前には剣が迎える。
刃が俺を貫く直前、刀が剣の進行を弾く。
カイが駆けつけたのだ。
「真っ向武力で切り開くのは苦難の道。
さすればショータイムです。」
侯爵は被っていた黒ハットを手に取り、ハットの底を俺とカイに見せた。
「呼穴。」
伯爵がそう呟いた瞬間、底から強力な光が溢れた。
目を一時的に盲目にする程の強さが目を突き刺す。
平衡感覚のなくなった俺は翼を制御できず落下。
地面に叩きつけられた。
意識はあるものの体が自由に動かない。
カイは持ち堪えているが、それでも目は通常に戻らない。
盲目の中、侯爵に突き落とされる・・・
ところがカイは予知したように刀を使い、侯爵の手を切りつけ、阻止した。
!!
それができたのはホールンのおかげ。
カイの「感」を増幅させて、まるで未来が見えているかのように仕立て上げたのだ。
盲目でもカイの斬り付ける場所は全て避けられているがそれでも的確に侯爵を刀が追い続ける。
戸惑った侯爵は思考、動き共に乱れ、斬撃を直に食らった。
「見えぬとも攻めの姿勢を怠らない、子供あるまじき強さ。
惑わしが効かないというのなら私はもう奇術師ではない。」
ハットを手放し、呼穴から出したのは闘牛の相手をする赤い布。
ムレータのようだ。
マジシャンのようにひらひらと布を揺らすと、布の奥から猛烈なる咆哮、スピードで飛び出す牛獣の姿。
炎で燃え上がる背を持つその極獣は火を吹き、カイを吹き飛ばした。
『極獣の生態反応。
極獣 牛獣 ドレメン・デタイル。
火を吹き、纏う牛科の猪。
リアー・デタイルとは対となり、恐怖で怖気付き安い性格を持つ臆病な猪です。
突進ではなく、炎を撒き散らすことを主流として狩りを行います。』
カイは炎を避け続け攻撃の隙を探すが、炎を勢いは変わらず燃え盛る。
ドレメン・デタイルとブルーイチ侯爵、両方ともの攻撃を受け止めるので精一杯、避けることは不可能だった。
押し負けてしまう。
苦戦を受け止めないといけない。
「変圧先手!」
サイダンの速く、突き上げる拳がドレメン・デタイルをひっくり返す。
巨体を殴った手には赤く打撲を負っていた。
ただ、サイダンのおかげでその極獣はサイダンに恐怖を覚え、侯爵の指示を無視して大通りを走り、門をくぐり、砂埃をたてながら走り去った。
「所詮はショー用の獣だったか・・・」
極獣は逃げ出し、二対一の状況。
侯爵が次に呼穴から出したのは白い手袋。
指同士を擦れば火花が弾けた。
この道具は侯爵のショーを見たことがある人にはわかる特徴的な手袋なのだ。
侯爵が手で城の壁を撫でると、手袋は燃え始めた。
しかし手袋が燃えているわけではない。
手袋から火が溢れ出ているのだ。
手をうちわのように扇げば、火は俺達を目掛けて燃える。
ゼヴァの水魔法では抑えきれない火の強さ。
火が燃えにくい素材でできた家や建物が多いが、それでも執拗に延焼している。
炎はリテル達を囲むように燃え広がっていく。
動けないリテルの元へも地面を伝いながら燃え広がる。
受け身を取ったけど・・・高い所から落ちたから背中が痛い。
火が迫ってきていることはわかっているのに体が起き上がらない。
火でサイダン達と分断されているから助けも要求できない。
絶望の淵に立っていた。




