第21話 旅人になる
政府のある場所にて。
「夜より・・・王へ繋がりません。」
「中央フラット王国との連絡はなし・・・か。
配線の破損、敵襲を考慮し、最寄りの陣を派遣する。
調査兼援護の点を同行させよ。」
中央フラット王国との連絡がないことに疑問を持った政府。
灰陣のセッショウと極研のディープロス点が共に派遣された。
崩壊した王国にて。
リテルが離れていた間、みんなは集まっていた。
集まった良品の食料の数はそう多くはない。
持っても数日、いつかは必ず国を離れなければならない。
火を起こし、焚き火をしていた。
サイダンはリテルがいないことに気づいた。
「あれ?
リテルは?」
「さあな。
翼を羽ばたいてどこかにいってしもうたぞ。
何を思ったのか知らんが、何かあったんじゃろうな。」
リテルを待っている間に夜になった。
枯夏の夜は冷え込む。
準備していた仮テントで夜過ごすことにした。
みんなが眠る頃にリテルは帰ってきた。
見回りのために自発的に外に立っていたカイと出会った。
「リテル、帰ってきたのか。
聞きたいことがあるんじゃ。
焚き火の前に座ってくれ。」
焚き火に移動してカイは質問を始めた。
「おどれは魔法が使えぬはずじゃったが、その・・・翼や舌のような物はなんじゃ?
魔法か特性か?」
リテルは核心を突かれてしまった。
あの時はやむを得ず翼と舌を出してしまった。
いつか聞かれると思っていたが考えてなかった。
「た、ただの特性だよー。」
舌を使い、翼を生やす・・・
かなり便利な特性じゃが、生物の一部を生やす特性か?
不思議じゃ。
前に聞いたことがあるんじゃが忘れてしもうたのう。
「その特性はなんじゃ?
変身系の特性か?」
「いや、取り込んだ生物の一部を使えるだけの特性だ。
特性名は・・・そうだな、リサイクルといったところかな?」
「ならば、その翼はルナ・プリュネルカのものか。
それは便利じゃな。」
なぜ今まで明かさなかったのかは知らんが、わしにもまだ明かしていない特性がある。
それは脚力増加じゃ。
シャッツを柄で殴った時、多少使った特性じゃ。
パチパチと火が燃える中、カイはまだ言いたいことがあるようだ。
今後のことについてだ。
国が崩壊して住む場所がなく食料が少ない。
次の国に渡らなければならないということだ。
次の国への距離はかなりあり、宿をいくつか跨がなければいけない。
つまり旅をしなければならないということだ。
近い国はラレラレット王国。
乾いた温暖な気候で旅人も多く渡る国。
次に候補があるのが南西の島国。
アウトサイドネシア帝国。
温暖で暖かい風の吹く海にある島。
政府基地が置かれている場所でもあり、時に船を出し違法旅人団を払うこともある。
違法旅人団というのは秘密結社を指すこともあり、珍しい動物を略奪することもある。
海を渡らなければいけないということもあるから、ラレラレット王国に向かう方針で話は終えた。
次の日の早朝。
ゴロゴロと石が転がる音がテント周りから鳴っていた。
その音で目覚めたリテルは外を覗くと一人でに転がる岩を発見した。
坂道を転がるわけでもなく、瓦礫の間を転がる岩。
無機質な物が生きているようだ。
生死の賢者には反応していない。
俺は動いている岩を片手で止めた。
手から岩の中の振動が伝わってくる。
岩の中に何かいるようだ。
パカっと岩の一部が開いた。
中から紫の小人が現れた。
人ではない幽霊や妖精的な類のものなのだろうか?
「ピュクピュウピュリュリュゥ。」
すると言語なのか鳴き声なのかわからない音を出した。
しかしながら言葉の意味がわからないので何を伝えようとしているのか解読できない。
その紫の小人は岩の中から何かを取り出した。
カチッと硬い物同士を強く激突させ火を付けた。
何をするのかと見守っていたその時、その小人はその火を付けた物をそこらへ投げた。
「何するんだ?!」
大声を出し怒鳴ると、その小人は岩に潜りゴロゴロとどこかへ砂煙を立てながら転がり消えてしまった。
俺は岩が消えた後、急いで消化活動を行なう。
昨日、焚き火を消す時に残っていた水入りのバケツを手に取り、まだ小さい火種を消火した。
火を消し、落ち着いたところでグルジエが起きた。
「焦げた臭いがするなぁ。
火遊びか?」
状況を知らないグルジエに俺は岩に入って転がってきた紫の小人について説明した。
「ぐははは。
お前は寝ぼけているのではないか?
岩の中に紫の小人なんぞいるはずのない、小人すら見たことない。
それにその小人が火を付けたって?
笑える。」
グルジエは朝ごはんの為に焚き火を起こしながら、嘲笑し俺をからかった。
そしてグルジエが朝飯を作っていると、匂いに釣られて他のみんなが起きてきた。
グルジエの朝食を食べながら、俺は昨夜カイと話したことを伝えた。
「これからラレラレット王国に向かおうと思う。
ここに留まっても何もない。
食料がある内に国を出ようと考えている。
要するに旅をする。」
みんなその意見に賛成した。
が、その中でグルジエだけ旅にはついて行けないと言った。
国が崩壊したことをまず政府に知らせないといけないからだ。
中央フラット王国を出て西側。
ラレラレット王国と真逆の方向に進む。
カイとの別れを告げ、颯爽とグルジエは国を飛び出た。
その一瞬、背後から見たグルジエの姿はもう霞むほど速かった。
グルジエを見送った。
さて、俺らも旅を始めよう。




