第19話 魔法学校15
決意を決めた次の日の放課後。
誰もいない教室で最後の作戦会議をしていた。
静かな空気が流れ、夕日の光が窓から教室を差していた。
リテル、カイ、シャッツ、ダラ、ゼヴァ、サイダン、フラベレが集まっていた。
「明日の放課後、ギポー達と戦う。
始めは話し合ってみるが、結局最後は戦うことになるだろう。
ただ相手も生徒、殺人は犯せない。
気持ちは本気の峰打ちまでだ。」
一人一人に作戦を伝えた。
本当にこれでいいのかと言われたが、カイと一緒に考えた作戦だ。
それに相手はまだ生徒。
大人ほど強く特性や魔法が使える頃でもないだろう。
ホールンの強化を除いてだが。
次の日の放課後。
帰り道にて。
俺とカイでギポー達の元へ行った。
後ろの建物の影にはシャッツやサイダンなどが構えている。
ギポーを呼び止めた。
俺達は少し渋りながらも恐怖を振り切り、口を開いた。
「魔人を乱暴にするのをやめてくれないか?」
俺の言葉を聞いたと同時にギポーの目は鋭くなる。
その冷徹な目によって俺の額に冷や汗が流れる。
返事は予想通りやめてはくれなかった。
「魔人は嫌いよ。
あなたにはわからないと思うけど、やめることはできないわ。
私はここの国の人じゃないの。」
つまりギポーが言いたいことは悪い魔人に出身王国を破壊されたということだった。
ただ今回は何を言われようとも止めさせようと思うカイ。
「じゃが、この学校にいる魔人は悪いことをしてないじゃろ!?」
しかしまたもや否定された。
ギポーが抑えているから暴れないだけだと反論する。
話を続けても一切折れない。
緊迫した雰囲気が漂う。
「諦めないのならあなたも痛い目を見させて、降伏させるわ。」
俺とカイ、他のみんなも構えをとった。
先手はギポー。
恐怖を辺りに広げた。
初めて会った時の比ではない。
ホールンのせいでもあるのか?
こちらもカイはシャッツに指示を出した。
シャッツは水牛になりサイダンを背中に乗せて、ホールン目掛けて突進した。
が、サヨムの念能力に捕まったシャッツ。
けどこれは想定済みの範囲だ。
背中に乗っていたサイダンがシャッツの背中を踏みしめて跳んだ。
サイダンの特性は加速運動。
後ろで隠れている間に、屈伸やジャブをしてウォーミングアップをしていたのだ。
ここだ!
「変速先手。」
サイダンが狙いを定め殴り飛ばした。
計画通りホールンをぶっ飛ばして強化を妨害した。
やはり恐怖の力を強化しており、さっきまでの重い恐怖が軽くなった。
ギポーがホールンに気を取られた隙にサヨムを攻撃。
不意をついた攻撃は簡単にギポーのそばから剥がすことができた。
焦るギポーがウェルカに命令するが当然の様に動かない。
俺はギポーをズウェル・クリングの舌で即座に捕らえた。
後先など考えない行動に自分でも動揺してしまった。
しかしそれを思ったのは行動した後。
今はできることだけ考えた。
ギポーやカイ達は初めて見たリテルにその舌に動揺していた。
リテル。
まだ力を隠しておったのか。
不思議な特性じゃ・・・
リテルの隠していた切り札でこの状況ではもう誰も動くことができない。
ギポーは敗北したかの様に思えた。
しかしながらギポーは最後まで争った。
最大の恐怖を街を越え、国を越えた範囲に振り負けた。
耳鳴りがする恐怖。
心臓の鼓動が大きく脈打つ。
支配する力ではなくただの恐怖を解き放ったのだ。
すぐに恐怖は収縮したが、次が問題だった。
国の外から無数の大きな足音が国を揺らした。
人でも魔人でもない大きな足音。
森の鳥は慌ただしく低空飛行でこの国から離れる様に逃げた。
『極獣の生態反応。
極獣 牛獣 リアー・デタイル。
風を纏う牛。
お互いの体をなすりつけると竜巻が発生する。
恐怖に対して非常に敏感で敵対する者には集団で突撃をする。』
その生死の賢者の言葉に驚いた。
リアー・デタイルは恐怖を感じると、その方向に向けて突進してしまう風を纏った牛だ。
極獣夜行の後だったので多くのリアー・デタイルが集まってしまった。
シャッツの水牛とは到底比に比べることができない程、巨大で強い極獣だ。
『約50を越える多さのリアー・デタイルがこの国、その女を中心として突撃してきます。
空に逃げる以外、この量の極獣を避けることはできません。
もうすぐでこの国は廃国へ変わるでしょう。
ルナ・プリュネルカの翼で空へ逃れることを推奨します。』
リテルには翼で空へ逃げる選択でしか生きる希望がない。
しかし、カイ達や他の生徒、先生、国民が地上にまだ残っている。
この場にいる人の特性だけでは全員を救うことはできない。
誰かを切り捨てるしかないのだ。
リテルが迷っている間もリアー・デタイルは国に押し寄せてくる。
いつの間にか壁を破壊する音が響いてきた。
残り時間は少ない。
「おどれこの弾ける音と強風はなんじゃ?!」
「知らないわ。
でも、この国が滅ぶことはわかる・・・
私が招いた災いが来る。
まさか見下していた極獣に殺されてしまうのね・・・」
カイはここで自分達は窮地の場所にいることを理解した。
悪意のない敵意はカイの天敵。
カイは眺めるしかできなかった。
国の壁には穴が開き、民間が吹き上がる竜巻とともに破壊される。
魔法も突風でかき消され、抵抗も虚しい国民が見えた。
ダラやサイダン、ゼヴァなど己の無力さで立ち尽くすだけだった。
そこに恐怖から守る様な大きな翼と、さっき見た長い舌が現れた。
その舌はその場にいたできる限りの人を拾った。
ギポーもその頭数の一人だったが拒否をした。
ギポーは頑なに断り、地上に残ることを宣言した。
ギポーを置き去り、翼を広げて空に舞った。
リアー・デタイルの群れはすぐそこまで迫っていて、ギポーはすぐに飲み込まれてしまっただろう。
空にも突風が吹き、空中にいたリテル達を襲う。
翼でコントロールし嵐を耐え切った。
嵐が止んだ頃には既に国は崩壊していた。




