第14話 魔法学校10
説教を終え、帰ってきたシャッツ。
それはもう放課後だった。
シャッツがどんな説教を受けたのかわからないけど、2時間以上も説教されたなら相当なものだ。
さぞ静かになるだろう。
「ぶっころすぞギポーー!」
そんなことはなかった。
今度は流石にギポーも殴られるままではいけないので、サヨム=ヴァーデンエの特性、念動力で捕まえていた。
サヨムはギポーを一番慕っている人だ。
そろそろシャッツを止めないと思ったカイは動いた。
できるだけ魔人には手を出したくなかった。
しかし、完璧正義者の疼きには耐えられない。
シャッツ。
一線をおどれは越えたんじゃ。
許せよ。
「頭突柄。」
わしは刀の柄でシャッツを殴った。
瞬き一回に収まる速さだった。
シャッツには理解できなかっただろう。
シャッツが目を覚ました頃はもう夜直前だった。
「は?
ここは・・・?」
いつのまにここへ?
俺は保健室みてーな場所で目を覚ました。
外は夜。
ギポーを殴ろうとしたところで捕まえられて・・・どうなった?
記憶がない。
ベットから立ち上がり、保健室を出ようとした時カイがいた。
カイは机と顔を合わせて、俺には背中だけ見えていた。
「なんでここにいる?」
「起きたんじゃな、シャッツ。
すまなかった。
疼きが止まらなかったんじゃ。」
背を俺に向けたまま喋り出した。
「おどれはリテルにどういう目的か聞かされたじゃろう。
ギポーからの魔人差別を無くすということを。
行動は正しかった。
おどれの解釈は一切間違っていなかった。
じゃが、リテルは力でねじ伏せようとは思っていないんじゃ。
話し合いでできるだけ調和させるのがリテルの考えじゃ。
今後は暴れる時、考える時を意識してくれないか。」
暴れる時と考える時・・・
俺は考えて殴る。
俺の思考回路はいつもそう繋がっている。
「わからん、わからん!
俺はいつも考えていた!」
返ってきたのはただ一言だった。
「じゃあ、おどれの思考はいつも暴力なのか?」
いつも暴力・・・
「わしは帰るぞ。
最後に言っておく。
おどれの考え方で今後が決まってくる。」
カイは俺を置いて帰ってしまった。
俺の考えで今後が決まってくる、か・・・
カイが先に帰ったのは俺1人で考えろってことか?
いいだろう!
朝まで考えてやるぜ!
そうだ、教室に行った方が考えやすいな。
シャッツは1人、夜を暴れることなく教室で考えまくった。
翌日、教室には彼の姿があった。
最初に会ったのはダラだ。
昨日と全く雰囲気の違うシャッツに驚いた。
一体どうなっているんだ・・・
石像ぐらい微動だにしていない。
顔を覗くとしっかり目を見開いていた。
ただ、顔を覗くも僕の方には焦点が合わない。
もしかして死んでるのかとも思ったが、流石にそんなことはない。
触れてみればシャッツは正気に戻った。
「わかったぞー!」
「急に喋るなよ・・・」
それより何がわかったんだ?
数学の問題でも解いていたのか?
いや、ろくに授業も聞いていない奴が急に数学をしないよな。
シャッツはどこかに走り去ってしまった。
ダラは教室に1人になった。
中央フラット王国西南部デクノーアレ死警察署前。
「じゃあ、学校に行ってくる。」
カイはちょうど父と挨拶をしたところだった。
シャッツはどうなった?
昨日の夜は言い過ぎてしまったか?
カイは朝から心配だらけだった。
ただ、その悩みもすぐに解消した。
街から俺の前にシャッツは飛び出してきた。
「カイ!
俺は考えたぞ!
今朝まで考えた俺の答えだ。」
急に姿を現したと思えば大声を出すとは・・・
入学当初の姿とは全く違うな。
シャッツの考えた答えは人を殴らないということだった。
人を殴らないことは一般的に基本中の基本だ。
しかしシャッツにとっては大きな一歩だ。
「そうか。
じゃったら、今日の態度で示してみい。」
それから授業中でもシャッツは暴れなくなったが、ソワソワと落ち着きがない様子だった。
その様子にみんなは不思議だった。
先生まで疑った。
事情を知らないリテルもそうだった。
「カイ。
今日はやけに教室が静かだな。」
「あいつがわしに言ったんじゃ。
リテルに嫌われたくないからこその行動だと。」
なるほど。
通りでこんな状態なのか。
1時間目は何事もなく突破。
2時間目まで彼の理性は保てるのだろうか?
次の授業は理科だ。
今日は特別に理科室に向かった。
おそらく実験があるんだろう。
授業内容は「魔法陽子」と「魔法電子」。
魔法陽子、電子とは魔法を引き起す原子の素だ。
それぞれに多くの種類が存在して、それらを組み合わせると魔法の誕生というわけだ。
魔法原子とは自然の法則に逆らった新しい原子。
それがなぜ人の力で発生させられるのかは未だに謎だ。
そして、使える人と使えない人の差の差は謎だ。
ムロフのように特性が魔法を消すこともあるが、俺みたいに魔法を使えない人もいる。
ちなみにズウェル・クリングを取り込んだ際に泡魔法を得たが現在は使えず、ただの飾りである。
「魔法原子を初めて発見したのはスープハイール・F。
本人には魔法が使えなかったものの助手の助けにより草属性の魔法の元素を発見した。」
基礎原子は火、水、草。
構造が単純な部類の原子だ。
火はFl2、水はHs2、草がG2だ。
この原子が魔法の基礎になる。
これらから、氷や電気の魔法が使えるという感じだ。
だから、基礎原子を使えなければもちろん派生する魔法は使えない。
使えても無属性ほどだ。
俺は魔法自体が使えないけど。
説明を踏まえてグラフ先生は実験を始めた。
先生は栓をした瓶を用意した。
「ここに魔法の擬似体験ができる魔法の原子がある。」
用意したのは火の元素Flと電気の元素の元となるEe。
指ですりつぶすと、微量の電気が弾けた。
「これが魔法反応だ。
原理はわかっただろ?
この元素の量が多いほど威力は強くなる。
これが発生魔法量保存の法則だ。
テストに出るからな。」
覚えないといけないのか。
この感覚は久しぶりだ。
苦い経験があった。
あれ?
でも何が苦い経験だった?
今までテストの経験もしたことがないのに・・・
気のせいか?
「おい!
おどれ何しちょる!」
カイの大声が響いた。
カイが何やらシャッツを抑えている。
「水元素と火元素を混ぜるとどうなるかわかっちょるか?
爆発じゃぞ!」
シャッツはその組み合わせが爆発を引き起こすことを知らず、悪気はなかった。
先生は声をかけた。
「ここにあるのは少量の水元素だけだから、そう危険なほどの爆発にはなりにくい。
だが行動は良かった、カイ。」
その後は問題は起きなかった。
授業が終わる。
「まあ今回は危なかったけど、約束は守ったんだから大丈夫だよな?
カイ?」
微妙な判定だったが承諾はされた。
その後は改心したのかずっと椅子に座ったままで、今日の事件は起きなかった。




