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第1話

「というわけで、バニーボールをしてもらう……」

「い、いや、というわけでって!」

 兎野の言葉に天空はなおも戸惑う。

「……どうしても嫌なようだね」

「そ、それは嫌ですよ!」

「……何故だい?」

「さ、さっきも言ったように、男の着るような衣装じゃないからですよ!」

「そうかな?」

「そうですよ、だってバニーガールですよ!?」

「はあ……」

 兎野が両手を広げて、ため息をつく。

「な、なんですか……?」

「……説明を頼む」

 兎野がアシスタントの女性を促す。女性は頷き、タブレット端末を取り出し、手際よく操作して、ある画面を見せる。天空は首を傾げる。

「こ、これは……?」

「バニーボールの潜在的競技人口です。全世界で約1億人がプレーをしています。日本では約10万人……」

「ほ、本家のバレーボールでも約5億人なのに……!?」

「ええ」

「ちょ、ちょっと待ってください、今潜在的って言いませんでした?」

「ちっ……」

「し、舌打ちされた!?」

「……実数はそれほど多くはありません」

「じ、実数を示してもらわないと意味がないじゃないですか!?」

「……なにを申したいのかというと……将来性です」

「しょ、将来性?」

 女性が頷く。

「そうです。このバニーボールというスポーツには水面下ではありますが、大いに注目が集まり始めています」

「で、でも水面下なんでしょう?」

「こういうのは一気に火が点くものです」

「そ、そうでしょうか?」

「そうです。先行投資をしておいて損はないです」

「先行投資?」

「初期の段階でこの競技を始めていれば、人気プレーヤーとなれる確率は非常に高いです……」

「そ、そうですかね……?」

「そうです。各種SNSで人気を集めているインフルエンサーを思い起こしてみてください」

「イ、インフルエンサーですか?」

「ええ、大体の方が、みな早い段階でそのSNSを始めています」

「そ、それはそうかもしれない……」

「つまり……今の時点でバニーボールを始めておくと、人気者になれる可能性が高いです」

「い、いや……」

「女性にもモテますよ」

「それは別に……」

「モテたくないんですか?」

「モテたい気持ちはありますが、それで決めるのはどうかと……」

「ならば……」

 女性がタブレット端末に違う画面を表示させる。天空は目を丸くする。

「! こ、これは……?」

「あなたが人気バニーボーラーになった時の想定される全収入です……もちろん、結果をある程度出すことが求められますが……」

「ほ、本当にこんなに稼げるんですか?」

「マッチョでイケメンな男性がバニーガールの恰好をしてバレーをしているところを見たいというニーズは世界的に高まっているのです……」

「ニ、ニッチ過ぎませんか?」

「まあまあ、騙されたと思って、一度着てみたまえ!」

 兎野が声を上げる。

「え、ええ……」

「さあさあ!」

「わ、分かりました……」

 兎野の迫力に圧され、天空は頷いてしまう。

「更衣室はあちらです」

 女性が指し示した建物に天空は向かう。

「き、着替えてきました……」

 青のバニーガールの恰好になった天空が恥ずかしそうに戻ってくる。

「うむ、なかなか似合っているじゃないか!」

「あ、あまりジロジロ見ないでください……」

 天空は両手で体を隠そうとする。

「黒木くん、どう思う?」

 兎野が一人で黙々と練習していた黒木大地に声をかける。練習を中断した大地が天空を見て呟く。

「悔しいですが……似合っていますね」

「く、悔しいってなんだよ!?」

 天空が声を上げる。

「だが……この恰好には俺の方が慣れている」

「はあっ!?」

「既に二週間前からこの恰好で練習をしているからな」

「な、なんでそんなにバニーガールに前のめりなんだよ!」

「岡山県予選もベスト8で敗退した……大学や実業団、もちろんVリーグからの誘いもなかった……」

「あ、ああ、オレと似たようなもんだな……」

「……俺にはもう、バニーボールしかないんだ……!」

「そ、そうはならないだろう!?」

「まあ、とりあえずアップをしたまえ!」

「は、はあ……」

 兎野の言葉に従い、天空は大地とともにアップをする。しばらくすると、兎野が声をかけてくる。

「よし、早速試合だ!」

「ええっ!? 早すぎませんか!?」

「練習だけでは退屈だろう?」

「そ、それはそうですけど……」

「既に準備はしてある……」

 兎野が指し示した先に、バレーコートが準備してある。

「い、いつの間に……」

「相手も呼んである……!」

「あ、相手……?」

「ふう……」

「どうも……」

 屈強な体格でバニーガールの恰好をした男性が二人現れる。

「え、ええ……?」

「彼らは社会人バニーボーラーだ」

「社会人とは!?」

「今の君らにとっては格上の相手だな、胸を借りるつもりで臨みたまえ」

「ええ……」

「腕が鳴るな、白田……」

「だから、なんでそんなノリ気なんだよ、黒木!?」

 練習試合が始まる。

「ふん……!」

「!」

 相手の強烈なジャンプサーブが決まる。天空は一歩も動けない。

「さっさと決めさせてもらうぜ……!」

「くっ!」

「おらあっ!」

「ぐっ!」

 相手のサーブになんとか食らい付こうとする天空だったが、ボールに触るのが精一杯で、レシーブもままならない。相手が笑う。

「ふっ、大人と子どもだな……」

「ちっ……砂浜の上でのプレーがこんなにきついとは……これがビーチバレーなのか……」

「……白田」

「なんだよ」

 天空は大地の方を見る。

「これはビーチバレーじゃない、バニーボールだ」

「はあ?」

「バニーに成りきることが重要だ」

 大地は自らと天空が頭に付けたうさ耳を交互に指し示す。

「わけのわからんことを……」

「野性味を出せということだ」

「はあ?」

「見ていろ……」

「そらあっ!」

「むん!」

「なっ!?」

 相手の強烈なサーブに大地が飛びついてレシーブを上げる。天空の反応が遅れ、ボールは落ちてしまう。

「……」

「す、すまん……」

 天空は立ち上がった大地に謝る。

「謝らなくていい……それよりも分かったな?」

「え?」

「今の感じだ」

「今の感じって……」

「このバニーガールの恰好は俺たちの秘めている運動能力を格段に引き上げてくれるんだ……」

「き、気のせいだろう……」

「気付いているだろう?」

「ええ?」

「この驚くべきフィット感に……」

「それはバニーガールだからな、ピチピチなんだよ……」

「まさに今の俺たちは人間ではなく、変わったなにか……!」

「変態っていうんだよ」

「とにかく集中力を研ぎ澄ませ、どんなボールにも反応出来るぞ」

「それって自己暗示じゃないか……?」

「……負けたらバレーが出来なくなるぞ?」

「……!」

「それで良いのか?」

「……良くはねえよ」

「そうだろう」

「ちっ……分かったよ。もうちょっとガチってみるわ」

「……来るぞ」

「どおりゃあ!」

「白田、バニーになれ!」

「ピョン!」

「!!」

 天空が横っ飛びして、相手の鋭いサーブをレシーブしてみせる。

「よし、良いぞ! 任せた!」

 ボールの落下点に入った大地がトスを上げる。

「……!! 高いだろう!? 届くかよ!」

 体勢を素早く立て直した天空が戸惑う。大地が声を上げる。

「相手のブロックを抜くにはこれくらいがベストだ!」

「マジかよ……!」

「白田、バニーの心だ!」

「ピョ~ン!」

「!?」

 天空は高く飛び上がり、強力なアタックを放つ。相手の高いブロックの上をいき、天空たちの得点になる。大地がガッツポーズを取る。

「ナイス!」

「よっしゃあ! ……思った以上に高く飛べたな……」

「それはお前が身も心もバニーになってきている証拠だ!」

「ちょ、ちょっと複雑だな……」

「集中だ! この試合、勝つぞ!」

「分かってるよ!」

 天空のアタックから試合の流れがガラッと変わり、天空と大地のチームが逆転。2セットを先取して、試合を制した。

「やったぞ! 白田!」

「うおっ……」

 大地が天空に思いきり抱き付く。

「お前とペアを組めて良かった……! お前とならば、俺たちはこのバニーボールの世界……どこへだってイケる……!」

「ちょ、ちょっと離れてくれ、くっつき過ぎだ……」

 天空は大地の喜びように戸惑う。

「ふっ、将来が楽しみなバニーボーラーが生まれたようだな……」

 兎野がバニーガール姿で密着する天空と大地を見てふっと微笑む。

お読み頂いてありがとうございます。

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