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88話 オカルトマニアの噂

 栗間博士に航海日誌の回収を頼まれてから数日が経過。詳しい話を詰める中で、これは正式な依頼として扱うことになった。

 昨日は事務所の大掃除を済ませて、今日から梨恵さんは休暇に入っている。俺と知紗兎さんだけが残り、急な依頼に対応するつもりだ。


「賢悟、正月は暇だよな。おせち料理を食べるぞ!」

「来客予定は皆無ですけど、それは俺に用意しろと?」

「安心しろ、私が作る!」


 ああ、そういうことか。……いや、大丈夫かな? けっこう知紗兎さんも料理はできるけど、おせち料理となると勝手が違うのでは。しかし本人が言うのだから、ご馳走になろう。

 それはともかく正月が暇だと断言されるのは、ことのほか心外である。


「なら遠慮なく、いただきます」

「よしよし。それと初詣に行くから、用意しておくように」


 それも決定なのか。


「いつ行きましょう?」

「ふむ……大晦日の夜に出るぞ!」


 なるほど、二年参りだな。どちらかというと知紗兎さんは人混みを嫌っている。自分から混雑する場所に行くと言い出すのは珍しい。

 とにかく俺も賛成だ。三が日の昼間よりは人も少ないだろう。


「分かりました――あ、そろそろ出発します」


 俺は時計を見て、会話を打ち切った。これから用事がある。半分は仕事、半分は私用だ。


「情報屋の男に会うと言っていたな」

「谷町ですね」


 かつて探偵社に勤めていたが、わけあって情報屋に転向。今はカフェのバイトをしつつ、顧客を広げている。

 ちょっと軽い性格だが、悪い奴ではない。たまに変わった噂を拾ってくるから、耳を傾ける価値がある。


「たしか情報交換がてら、飲みに行くのだろう。二人分、経費で落としていいぞ」

「ありがとうございます!」


 まだ日が高いうちからタダ酒とは、素晴らしい上司を持って幸せだな!


「このところ細かな事務仕事が続いたし、気分転換も良いだろう。ああ、そうだ。土産を頼む」

「了解しました!」


 テイクアウトができたら、それにしよう。もしくは菓子でも買って帰るか。店を決めてから考えることにした。さっそく支度をして出掛ける。




 天目探し屋事務所からバスと電車で移動した。そして合流地点に到着。杉並区の広場である。わりと人も多い。

 おおまかにしか待ち合わせ場所を決めていなかったので、少し探すことになる。もっともメールで連絡を取ったし、大変というほどでもない。すぐに発見した。


「よう、久しぶり」

「あ、どもっす!」

「元気そうだな」


 あまり変わった様子もない。最後に会ったのは一ヶ月近く前か。とりあえず店を探そう。俺の記憶だと、近くに昼間から空いている居酒屋があったはず。


「とにかく店に入ろう。ちなみに天目探し屋事務所の奢りだ」

「あざっす! ゴチになりやす!」

「所長に感謝して味わってくれ」


 雑談をしながら目当ての居酒屋へ向かった。とりあえず生ビールを注文しつつ、適当に料理を選んだ。

 まずはサラダ、それに焼き鳥の盛り合わせ。あとは食べながら考えるとしよう。どれも美味そうだな。新メニューもあるようなので、楽しみにしておく。


「そんなに人は多くないっすね」

「まだ日も高いからな。それはともかく話を聞かせてもらおうか」

「超古代文明の件っしょ、オカルトマニアの間で噂になってる」


 ここ最近のこと、少し不思議な話が広がっていた。かつて秘宝遺物を創造したとされる精神文明が復活するというのだ。

 おっと、生ビールがきた。お通しは大根・白菜・カブの漬物である。さっそく、いただこう。


「まだ話の出所は分からないのだよな」

「残念ながら、不明っすね」

「よくある与太話とも言えるが、ちょっと気になる」


 というのも世間一般では知られていない、いくつかの秘宝遺物が示唆されていたからだ。


「そういえば例の文明が滅びた理由、けっこう広まっているっすよ」


 それは是非、聞きたい。その精神文明は唐突に現れて、痕跡を残さず消失した。だからこそ伝説として残っているとも言える。同時に歴史上の記録としては、認められていない。

 もし滅亡の原因が分かれば、歴史が覆ることだってありえる。


「興味深い。ぜひとも聞きたい」

「ちょっと待ってほしいっす。ちゃんとメモっておいたので」


 そして谷町がスマホを取りだし、なにやら操作を始めた。手帳は使わない派か。操作が終わると、記載した文章を見せてくる。

 俺も記録を取らせてもらおう。正確に知紗兎さんへ伝えたい。といっても谷町が調べたものだ、許可は必要だな。


「すまん、手帳に写させてくれ。もちろん、礼はするよ」

「ういっす! 奢ってもらうんで、バンバン書いちゃってください!」


 情報量も払うと伝えたが、飲み代だけで構わないと言われる。俺は助かるけど、利益は出ているのだろうか。

 まあ、本人も馬鹿ではない。ある程度の計算はしているはず、たぶん。とにかく文章に残しておくか。


『精神文明の終焉。文明末期、進化の袋小路に迷いこんだ。遺伝子改造が広がり、やがて人を使った実験が日常的に行われるようになる。また自然環境に手を出して当初は成功したものの、最後には大きな失敗を招いた』


 通常の生活すら困難になったみたいだな。おっと、まだ続きがある。


『なんとか安全な場所を確保したが、身分の差が支配する社会となる。多くの者が貧困に苦しむなか、一部の者が富を専有。両者には亀裂が入り、重苦しい雰囲気が民を圧迫。そんなとき麻薬が出回り、国の運営にも支障をきたす。それから衰退の一途をたどり、完全に文明は消失した』


 こんな話がマニアたちに広がっているらしい。ちょっと俺も気になるぞ。それと少し疑問も感じた。


「現代版七つの大罪を網羅しているよな」

「オレも同じこと思ったっす! それで安海さんに伝えようかなって」

「ありがとう、助かる。ところで文明は消失したと言うが、ここまで一切の痕跡が無くなるとは不思議だ」


 秘宝遺物は天を驚かし地を動かすほどの機能を発揮する。防衛用の道具だって、ありそうなもの。故意に残痕を消し去ったようにも思える。


「そのあたり考察している知り合いがいるので、あとで聞いてみるっすよ! あ、そうだ。天目探し屋事務所のスケジュール、教えてください」

「ああ、分かった」


 だいたい覚えているけど、念のために手帳を確認。予定を伝えているところで、店員さんが姿を現す。注文した料理がきたのだ。サラダと焼き鳥が一緒に運ばれてくる。だいたいサラダの方が早いのに珍しいな。


「焼き鳥、串から外します?」

「いや、そのまま食べよう」


 盛り合わせは五本か。ねぎま・つくね・砂肝・レバー・かわ。すべて塩である。よし、食を優先。話の途中だけど問題ない。

 焼きたての肉に舌鼓を打ちながら、生ビールを飲んだ。焼き鳥を二人で分けると一本あまるが、まあいいか。他の料理も頼むからな。


「それで来月の予定はどうっすか?」

「1月中旬からは遠出するつもりだ。俺と知紗兎さんは事務所にいない」

「それじゃあ、梨恵ちゃんは?」

「一人で待機だな。込み入った仕事は2月以降に頼む」


 谷町からは稀に仕事を紹介してもらっている。代わりに俺たちも紹介することがあるので、持ちつ持たれつだな。こいつは深い情報の精度は低いけど、人の噂話に強い。これが意外と役立つことがあるのだ。

 俺がスケジュールを教えているのは、そこから依頼者が来る可能性もあるから。ちょっとした探し物だと、探偵に依頼しないことも多い。そこを谷町がカバーしている形だ。


「了解っす」

「そういえばカフェの仕事はどうだ? 迷惑を掛けていないか?」

「信用してくださいよ! めっちゃ貢献しています!」


 谷町が憤慨して抗議してきた。不本意だと言いたげである。まあ、この様子だと大丈夫そうかな。こうして時折、雑談を交えつつ情報交換を進めていく。

 次は日本酒――熱燗を頼もうかな。しかしウイスキーも捨てがたい。とりあえず飲み過ぎには注意しよう。


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