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87話 人類史上最高のベストパートナー?

 とりあえず手が後ろに回るようなマネは止めさせたい。このままだと俺たちまで巻き込まれそうだからな。

 幸子さんが栗間博士に近付いた。


「お爺ちゃん。これ、禁止ね」

「なぜじゃ!?」


 法に触れているからです。とはいえ本人は気にしていないし、そのまま言っても聞かないだろう。

 とりあえず俺は孫娘と祖父の会話に耳を傾ける。もちろん、チャンスがあったら介入するつもりだ。


「当たり前でしょう! 電波法に違反したら捕まるわよ!」

「そんなものは無視しろ! こいつは警察や航空の無線でも乗っ取り可能な、優れものだぞ!」


 想定よりも酷い。それは重要無線通信の妨害です。このまま正面から説得しても埒が明かないか。


「落ち着いて考えて!」

「儂は冷静じゃ! ボンクラ共が動かす国では、電波が正しく使われん! どこもかしこも問題だらけ! 儂が支配したら、世界は良くなるぞ!」


 この博士、確信犯である。俺は真横に立つ知紗兎さんを見た。彼女は無言で肩をすくめる。きっと俺に任せるという意思表示だな。


「ところで博士、提案があります。この手の発明は、とっておきにするべきです。秘密兵器にした方がカッコイイでしょう」

「ふむ、一理あるか」


 あ、ちょっと考えているぞ。やがて大きく頷いた。この様子だと納得してくれたらしい。できれば秘密のまま、仕事を終わらせたい。

 あとは試験をさせないよう、なにか手を考えないと。もし検証だけでも、実際に使われたら厄介だ。


「せっかくなので準備の話をさせてください」

「とりあえず通信はどうするのじゃ? この無線機なしだと、厳しいはず。儂らも苦労したからのう」


 それに関しては諦める部分もでてくる。ただし緊急の連絡手段はある。現七罪の代表から預かった通信機。梨恵さんが借りた物は回収されたが、俺の分は使っても構わないと言われた。

 とはいえ連絡が取れたとして、大きな借りになりそうで怖い。できるだけ使わず済ませたいところだな。


「一応、緊急時の対応だけは考えてあります。通常連絡は臨機応変ということで」

「そうか。ならば貴様に任せる」


 少し焦ったけど、上手く話がついたか。


「それでは、この機械は大切に保管しておくからね、お爺ちゃん!」

「よかろう。幸子、頼んだぞ」


 おそらく栗間博士の気が変わらないうちに、無線機を片付けたかったのだろう。幸子さんが速やかに運ぼうとする。

 しかし大型だから少し重そうだ。一人では大変だと思う。


「手伝いますよ。一緒に行きましょう」

「ありがとうございます」


 ということで大型無線機を持ち、えっちらほっちら歩き出す。……見た目よりも遥かに重い。




 運ぶ場所は隣の倉庫。扉が閉まっているけど、知紗兎さんが開けてくれた。俺は室内に視線を向ける。


「ここ、倉庫ですか?」

「なんというか、がらくた置き場だな」

「……返す言葉もありません」


 幸子さんは恐縮したように、ぽつりと言葉を溢した。雑多な物が散乱している。しかし今は無線機を置きたい。なんとか指定の場所まで行き、机上に下ろした。


「あとのことは、お願いします」

「はい、かしこまりました。そうだ、賢悟さん。祖父を上手く誘導していただき、ありがとうございます」


 お礼を言われるほど、凄くはない。なんとなく秘密兵器とか、伝家の宝刀という言葉に弱そうだと思っただけだ。


「私の助手は人たらし上級者だからな! 交渉や説得は任せていいぞ!」

「それは誉め言葉ですよね?」

「当たり前じゃないか」


 知紗兎さんの即答。ちょっと安心した。だが俺たちの言動に幸子さんは苦笑いを浮かべている。


「お二人は仲がよろしいのですね」

「まあな。人類史上最高のベストパートナーと呼んでくれ」

「それは言い過ぎのような……」


 冗談なのか本気なのか、ちょっと判断できない。それと最高とベストで、意味が被っているような。とにかく無線機を運び終わったので、さっきの部屋に戻ろう。あの博士は目を離すと危険な気がする。

 せっかく来たので少し打ち合わせをしていく。ほぼ雑談だったけど、それなりに有益な話もあった。




 ふと時計を見ると、ここに来てから短針が二回りしていた。わりと長く事務所を離れている。梨恵さんに任せっきりも悪いし、そろそろ帰ろう。

 自宅兼研究所を出たら、外の寒気に晒される。ささっと事務所に入った。そして仕事場に到着。真剣な表情でパソコンと向き合う女性の姿が見える。俺たちに気が付かないくらい、集中しているようだ。


「どうしました、梨恵さん?」

「あ、お帰りなさい。夢船があるという島を探していたのですが、やはり衛星写真では見当たりませんね」


 博士も言っていたからな。原理は不明だけど、カメラに映らないとか。それから三人で捜索に必要な備品を確認する。多少は考えているけど、そのとき梨恵さんはいなかった。彼女は細かい点にも気が付くし、アドバイスをもらおう。

 そして休憩時間が訪れる。今日は新規の客も来なかったし、時間に余裕がある。冷蔵庫の食材を使って、料理を(こしら)えるか。


「昼食、作りますよ。二人の分はどうしましょう?」

「頼んだ! 大盛りで!」

「え~と、それなら私も。すみません、お手伝いできなくて」


 ちなみに梨恵さんはメール文の作成をしている。さっき同業者から連絡が来て、その返信文である。短時間で返した方が印象も良くなるので、優先して対応中だ。


「なにか食べたいもの、ありますか?」

「そうだな。梨恵、どうだ?」

「じゃあスープパスタ、できますか? 先月、いただいた料理です」


 たしか三人で夕食を取ったときのことだな。スープにはコンソメと牛乳を使った覚えがある。一通りの材料は揃っていたはずなので、今からでも大丈夫。


「問題ありません。お任せください」

「やった! お願いします!」


 さっそく始めるため、台所に移動した。具材はベーコン・たまねぎ・ニンジン・ピーマン・白菜だ。そして冷蔵庫に入っていたカマボコ。これは別の料理に使った残りである。肉や野菜を炒めて、そこに水を加えた。

 さて、コンソメを……あれ、見当たらない。かなり減っていたし、知紗兎さんが使い切ったのかな。鶏がらスープの素で代用するか。


「よし、沸いた」


 すかさず麺を入れる。今回は別茹でにしないでフライパンだけで作る。もともと外で食べるパスタを調べていて、このレシピを見付けたからだ。

 ちなみに発端は知紗兎さん。捜索で山へ行ったときに、スパゲティを食べたいと言い出した。リクエストに応えるため、練習がてら作った料理がこれだ。おそらく実践する際はフライパンを使わず、野外用の調理具になるはず。そっちでも何度か試したいところだな。


「言い忘れていた、賢悟。コンソメが切れている」

「さっき気が付きましたよ。別の調味料を使ったので、ご心配なく」


 知紗兎さんが台所に顔を出して、俺に声を掛けた。視線はフライパンに向かっている。気になるのか。

 今更だけど鶏がらスープの素は、コンソメの代用になるのかな。まあ、あれだ。美味ければいいか。


「お、そうか。よし、完成したら呼んでくれ」


 そして彼女は仕事場に戻るようだ。会話している間にも、麺は茹で続けている。時間を見つつ茹で具合を確かめ、牛乳を投入。それから最後にコーンポタージュも混ぜよう。スープパスタと相性が良さそうだ。少しだけ塩と胡椒を追加。

 いよいよ大詰め。スライスチーズを載せて、ちょっと溶けたら火を止めた。良い香りが周囲に漂う。味を確認すると、前回より美味い気がした。


「なかなか、いいじゃないか」

「食器、出しておきました!」

「ありがとうございます」

「美味しそうですね!」


 できあがったころに梨恵さんが来てくれた。メール作成は終わったのか。今ごろ知紗兎さんが最終確認かな。二人で食器や余り物を出し、机に並べる。俺は料理を均等に分けていく。あ、待った。知紗兎さんは大盛りだ。麺は多めに茹でたから、問題ない。少し残しておいて、あとでグラタンにするのもいい。

 冷める前に食べたいので、調理に使った物は食後に洗うつもり。今は水に浸けておこう。――そして三人が揃ってテーブルに着席。


『いただきます』


 偶然、三人の声が揃う。さっそく食べるか、まずは野菜から。……そういえば、下味を付けた方が良かったかもしれない。今度、やってみよう。

 こうして昼食の時間は穏やかに過ぎていった。さて、午後も気を抜かないように仕事をしないと。


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