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83話 頭にマが付くサイエンティスト

「お爺ちゃん、入るよ。お客様を連れてきたわ」


 身内だからか、くだけた調子で声を掛けていた。そのまま栗間幸子さんは返事を待たずに扉を開ける。

 後ろから室内を見ると、なんというか乱雑な部屋だな。機械の部品らしき物体が各所に散らばっている。これを片付けるのは、一日がかりになるだろうな。彼女の健闘を祈ろう。


「ふむ、それで何用じゃ?」

「フロッピーディスクの中身を確認したいと思います」


 俺は質問に答えながら栗間博士にディスクを渡した。博士は全体を眺めてから、軽く頷いた。

 それから俺と知紗兎さんを交互に見る。


「よかろう、ついてこい」


 博士は部屋の奥に進んでいく。慌てて俺たちは後を追った。立派なパソコンの前まで来たら立ち止まる。そして見覚えのない機械にケーブルを接続した。おそらく読み取るための道具だろう。

 やはり博士はフロッピーディスクを挿入して、パソコンの操作を始める。だけど数秒で手が止まってしまった。


「なにか問題がありましたか?」

「一切のデータが入っていない。これは空のフロッピーディスクじゃ」

「え?」


 まさかの手掛かりなし。情報屋が間違えたのか? いや、ちょっと考えにくい。俺は彼女との会話を思い出す。データの内容に関しては触れていなかった。きっとフロッピーディスクの中身ではなく、他に何か意図があるはず。

 最初に思い付くのは、読み取る機械を調べること。たとえば材質や製造場所などだな。あとは持ち主の方か。最初に幸子さんと挨拶したときを思い出す。彼女の話では優秀な科学者らしい。ただ少しばかり常識に欠けるみたいだ。ご迷惑を掛けるでしょうがと、頭を下げて引越しの品を差し出してきた。栗間博士はマッドな方の科学者かもしれない。


「そもそも、どこでフロッピーを入手したのだ?」

「すみません、口止めされています」


 とはいえ一切の説明もなく協力を頼むのも、筋が通らないと思う。できる限りのことは話した。情報屋の存在は明かせないため、無理があることは認める。

 とりあえず『臥志山』と『夢船』を捜索していることは伝えておく。その過程でフロッピーディスクを手に入れたと。少し強引な話で申し訳なく思う。




 一通りの話を終えると、博士が難しい顔で考え込んでいた。説明に不審な点でもあったのかな。

 ここは黙って見守ることにした。――それから十数秒が経過。


「ここで夢船の件を聞くとはのう」

「知っているのですか!?」


 唐突に手掛かりが得られた。栗間博士は深く息を吐く。


「儂が若い時分に探していたものじゃよ。それは地図にない島で眠っている」

「つまり最初に島を探す必要があると」


 信憑性に関しては、ひとまず置いておく。今は話を聞くことに専念して、考える材料を増やしたい。

 文献や伝説でのみ語られている場所もあるだろう。創作だと思われていた場所が発見された例だってある。


「心配には及ばん。場所は判明しておる」

「どういうことでしょう?」

「あれは数十年以上も前のことじゃ――」


 そして博士は語り出す。古文書に残された夢船の記述を基に、友と一緒に航海へ行った。そこで地図に記載されていない島を発見。

 だが島に近付くと、激しい嵐に襲われる。そのまま一度目は撤退。準備を整えて二度目の挑戦。無論、天候には注意を払った。だけど強風が吹いて、また失敗。


「不思議な話ですね」


 その後も何度か試したものの、いずれも上陸には至らなかった。あるとき二人の乗っていた船が大破。二人は海に投げ出されたものの、なんとか生還した。それで挑戦はストップ。しかし博士は今でも調査を続けているとのこと。とはいえ仕事に影響が出ない範囲での活動みたいだ。


「研究を続けて、分かったことがある。夢船とは秘宝遺物の一種。そのとき、島に近付けない理由が判明した。島に保管された船の防衛機能が動いているからじゃ」


 秘宝遺物――それは古代文明の遺産。魂や精神の研究が盛んだと言われている。そのため精神文明とも評されていた。

 あまりに胡散臭く世間では眉唾な話だけど、秘宝遺物の存在は確かだ。俺たちも一つ手に入れている。天目グループの調査班に託したので、今は手元に無いが。


「ちょっと待て。その島は今も地図に描かれていないのか?」

「儂らは報告していないからな。衛星写真で捉えることも不可能、近付けば危険な目に合う。場合によっては死者も出るだろう。お前たちも発表は止めておけ」


 知紗兎さんの質問に、博士は肩をすくめながら答えた。


「島の場所、教えていただけると助かるのですが」

「一つ、条件を出させてもらおうかのう。もし儂らが使っていた船を見付けたら、航海日誌を回収してほしい」


 島の近くで難破したなら、流れ着いている可能性はあるか。博士の様子を見るに大切な物なのだろう。

 そっと知紗兎さんの様子を窺ったら、はっきりと頷いていた。思い出の品を探すことに否定する彼女ではない。


「承知しました」

「ならばデータ一式を持っていくのじゃ、海を甘く見てはいかんぞ。ところで島に行くとして、船舶免許は持っているのか?」


 これは問題ない。埋蔵金の捜索が終わったあと、仕事の依頼が立て込んだのだ。一部で天目探し屋事務所が噂になっていたらしい。その状況は落ち着いたものの、法定労働時間が超えそうになる。しばらく休暇を取ることになり、たまたま友人が一級小型船舶操縦士を取得すると聞き、俺も一緒に受けたのである。グループ割は少し得だからな。

 ちなみに船は天目家所有の物を借りることができる。知紗兎さんが乗るならば、ほぼ無条件で使っていいと言われた。


「最近、1級の小型船舶免許を取りました。問題は島までの距離ですね」


 100海里――つまり185.2㎞を超える場合は、6級機関士の乗船が必要とのこと。俺も知紗兎さんも資格を持っていない。


「正確な位置は不明だが、間違いなく100海里は超えているはず」

「それなら私も一緒に行きましょう。いずれ祖父と海に出るために、海技士免許を取得しました。最近まで、船で働いていたのですよ」


 ありがたい申し出だな。ただ俺だけで決めることはできない。知紗兎さんに声を掛けようとしたところで、彼女は頷いた。俺の言葉を予測したのだろう。


「よろしくお願いします、幸子さん」

「はい、こちらこそ」

「決まりだな。まずは、どうする?」


 さすがに無計画は駄目だ。綿密に準備をして、捜索の予定を立てよう。


「出発の日を確定させます。幸子さんの都合を教えてください」

「私の方は気になさらず大丈夫ですよ」


 詳しく話を聞きつつ、出発日を相談した。幸子さんは博士の助手らしく、時間の都合は付けやすいらしい。結局、来月の中旬に決定。

 もう一人のメンバーである、沢村梨恵さんのスケジュールも空いていた。しかし彼女が同行するか、事務所で待機になるかは状況次第だ。


「日取りは決まったようじゃのう。詳しい場所の記録を渡す、活用するがいい」

「そういえば博士は一緒に行かないのでしょうか?」


 俺の質問に対して、遠い目をしながら首を横に振った。


「友が引退したとき、儂も夢船から手を引いた。若い者だけで行ってきなさい」

「分かりました。ご協力、ありがとうございます」


 あとは詳細な航路を考えよう。出発は東京港からだな。乗るのは天目グループで保管してある小型船だ。港まで運んでもらえるよう頼んでおく。

 思い切り迷惑を掛けている気もするけど、知紗兎さん関連は優先して対応すると言われたので大丈夫だろう。




 それから正午になるまで打ち合わせをして、事務所へと帰還。少し休憩しようと思ったところで、仕事の電話がきた。年末年始を実家で過ごすため、早めに自宅の掃除を始めたらしい。次の日に気が付いたら、大切な物が無くなっていた。朝から探しても見付からず、天目探し屋事務所に相談したとのこと。

 ……知紗兎さんが想定した通りの依頼だな。もし誤って捨ててしまっていたら、発見は困難になる。俺たちは急いで現場へ向かうことにした。


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