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71話 土砂崩れ対策会議

「待て、幸助。他の者は気付かなかったのか? 人が倒れたら噂になるだろ」

『もともと側近ばかりだったからな。口止めを徹底したらしい』


 詳しく話を聞く。さすがに放置はマズイと考え、病院で精密検査を受けさせた。結果は異常なし。しかし別の問題が起きる。倒れたなかに取り巻きの筆頭がいて、前当主と揉めたとか。倒れるのを分かっていて、捨て駒にするつもりではと疑念が湧いたらしい。

 この情報が流れたのも両者の争いがあったから。前当主に見切りを付けた者から聞いたみたいだ。


「とにかくヒトガタを探す。周辺の魔除け人形を中心に見るぞ」


 知紗兎さんが天眼通を使う準備に入ったようだ。両眼を閉じて、意識を集中している。それから目を開けて十数秒が経過。

 ――様子がおかしい。彼女の表情は強張り、険しい表情である。


「どうしました?」

「これは未来だ、土砂崩れ! それも大規模な。多くの被害者がいる……」

「いつの話ですか!?」

「近いうちに。ただ今日、明日ではなさそうだ」


 つまり早くて三日後か。そのとき幸助が各地の災害情報や、予測データを確認。しかし異常はなかった。


『それは本当なのか?』

「俺は信じているよ。知紗兎さんが天眼通で見たことだ。もしも違ったとしたら、何事もなくて良かったと考えよう」

『……そうだな。今から対策を立てる』


 問題は対処方法だ。この周辺では、強い雨が続いていたとか。きっと土砂崩れの原因だろう。

 知紗兎さんによると、近隣の村を巻き込むほどの規模。とりわけ以前に泊まった旅館の周囲が酷かったらしい。ここは盆地で辺りを山に囲まれている。避難場所は限られるか。


「神社に被害は? 無事であれば、二日後の夜から移動してもらいましょう」

「――大丈夫だ」


 この地域で最も地盤が安定していると言っていた。あそこなら、ひとまず安心と思う。他にも逃げられそうな場所を探し、退避を促そう。

 しかし問題がある。どうやって移動してもらうのか。理由も無く逃げてくださいでは、説得力が皆無だ。一人一人に天眼通のことを話す時間もない。


「やはり大林家の力が必要だな。幸助、力を貸してくれるか?」

「もちろんだ、しかし現状で避難させるのは難しいぞ」


 確かに今は何も起きていない。それどころか兆候すらない状況である。俺が逆の立場なら間違いなく疑う。知紗兎さんの言葉だからこそ、迷いなく信じられた。

 天眼通の力だけでなく、彼女自身を知っているからだ。もし仮に本物の予言者がいたとしても、そう簡単に納得することは不可能だろう。


「大林グループには地質調査チームがあったな。観測データに不審な点があると、公式に発表してくれ。数日以内に災害が起きるかもしれないと」

「それしかないか、承知した」


 全員が情報を見て、避難してくれたら助かる。


「しかし賢悟、絶対に動かない者もいるのでは?」

「俺も同意見ですよ」


 どんなときも自分は大丈夫と思い込む人は存在する。今回に限って言えば根拠が天眼通という、よく分からない能力なのも痛い。間違いなく、その場に留まる人がいるだろう。


『この地域では長年、大きな災害がない。感覚がマヒしていることも考えられる。予想以上に逃げない人が多いと思う』

「それも踏まえた上で、俺に考えがある。大林家には当主が就任したとき、近隣の人を集めて寝食を共にする風習が存在したことにしよう」


 しばし沈黙が訪れる。


『そうか! 架空の儀式を作り、人を誘導するのだな!』

「ちなみに時間が掛かり過ぎるため、最近は行われなくなったことにする。それを幸助が復活させたと」


 強引な話だと思うが、他に良い方法も考え付かない。避難情報と合わせ、上手く話を持っていく。


「体調が悪く、動けない人もいますよね。その方たちは、どうするのでしょう?」


 梨恵さんが心配そうに問い掛けた。


「安全な病院や施設に移ってもらうしかないですね」

『叔父に協力を頼もう。医者の繋がりもあるし、老人ホームなどにも往診へ行っていた。都合のいい場所を知っているかもしれない』


 これに関しては祈るしかない。そのとき俺は知紗兎さんに聞いた話を思い出す。富裕層向けの宿泊施設で、近いうちにオープン予定のものがあるらしい。

 まだ客は入っていないけど、スタッフは配置している。何度か試験をしてから、予約開始となるみたいだ。それを皆に伝えた。


「よし、連絡は私に任せてくれ。移動の人員も用意する。とりあえず仮オープンの準備と言っておく。費用は賢悟につけておくぞ」

「……それで構いません」


 確かに金は掛かるだろう。また払えない人がいるのも予想できる。その分を俺に回すのか。まあ、いい。自分で提案したことだ。とりあえず天目家の仕事を手伝うことが、返済の代わりになった。その件は後日、相談しよう。

 ちょっと話が逸れたけど、その間にも幸助は動いていたようだ。電話の向こうで準備の声が聞こえる。


『よし、叔父さんと連絡が取れたぞ! 協力してくれるそうだ!』

「そちらの対応は任せるよ」

『それと滝から持ち出された人形を受け取ってほしい。お前たちの方が活用できるだろうからな』


 遠慮なく貸してもらおう。手掛かりになるはずだ。場所を聞くと、今は大叔父の別荘にあるらしい。理由は聞かなかったけど、少女との関連を調べるためかもしれない。




 住所を教えてもらったら、すぐ出発した。玄関前で用件を告げたら、中から人が出てくる。俺たちも知っている人、押野さんだ。娘さんの様子を確認するために、ここへ来ると聞いていた。


「貴方も娘さんと二人で、ここから離れた方がいいですよ」

「いえ、三人で逃げます。先生の奥方も一緒に」


 先生とは幸助の大叔父を指している。娘さんの主治医みたいな感じだからだな。


「俺たちは人形を受け取りに来ました。場所を知っていたら、教えてください」

「話は聞いています。娘の部屋ですから案内しましょう」


 押野さんに連れられて、屋敷の中へと入った。長い通路を進み、階段を上がる。到着したのは最上階の一室。

 一人の少女がベッドに横たわる姿。眠り姫と言われたら、信じてしまいそうだ。部屋の棚には、例の人形が置かれている。


「ところで、なぜここに?」


 ちょっと疑問だ。依然として眠り続ける原因は不明。なんらかの関連があるかもしれない物を置くだろうか。


「不思議なことに、目を離すと移動しているのです」

「これもでしたか」


 お爺さんと探した魔除け人形と同じ状態だな。そういえば人形の造形も似ている気がする。姉妹みたいだな。

 そのとき梨恵さんが興味深そうに人形へと近付く。ここまで間近で確認するのは初めてだから、気になるのだろう。そっと彼女は手を触れた。


「あ! 一瞬、声が聞こえました!」


 天耳通の力か! 万物の声を聞く能力。それで人形の声が届いたのだな。これは大きな手掛かりになるはず。


「内容は?」

「母の元へ帰らなければ――そう言っていたと思います」

「他に聞いたことは、ありませんか?」


 梨恵さんは無言で首を横に振った。ならば今の言葉だけで、思考を巡らせよう。人形は母の所に帰りたがっている。……いや、少し違う。それなら「帰りたい」になるだろう。帰らなければ、なにかが起こる。そんな風にも考えられる。

 ふと知紗兎さんの言葉を思い出した。人形は本体ではなくて、端末の一部みたいだったと。俺は目を閉じて、頭の中で情報を整理する。やがて思案が終わり、目を開けた。そして皆の顔を見回す。


「なにか思い付いたようだな」

「この人形を送り届けましょう、母の元に」


 はっきりと知紗兎さんに告げた。


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