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48話 ウラルフクロウ館のメイドさん

 窓から差し込む光を浴びて、目を覚ました。そういえば昨日、カーテンを閉めた記憶がない。夜遅くまで報告書の作成をして、終わり次第すぐに寝てしまった。

 上体を起こし、眠気を振り払うように頭を振る。まだまだ眠いけど起きないと。俺は部屋を分けるように置かれた衝立を眺めた。


「二人とも起きていますか?」

「私は問題ない。出発の準備も終わった。しかし梨恵は夢の中だ」


 きっと疲れたのだろう。昨日は頭と体を使ったからな。とりあえず俺は着替えを済ませてしまうか。

 身支度を整えていると、梨恵さんも起きたようだ。寝惚けた感じで知紗兎さんに挨拶をしている。三人で朝御飯を食べたあと、少し部屋で休憩だ。


「探し屋さん、お客様ですよ」


 部屋の外から呼びかけられた。この声は女将さんだな。来客は中村さん夫妻だと思う。報告書を受け取りに来てくれたのだ。最初は届けに行くと言ったのだけど、見送りも兼ねて宿まで訪ねると申し出があった。これから長時間の移動が控えているので助かる。

 無事に報告書の提出が完了、依頼達成。女将さんや中村さん夫妻に挨拶をして、次の仕事場所に向け移動を開始しよう。




 安全運転を心掛けつつ道を進むこと二時間ほど。ようやく町が見えてきた。ただ目的地までは、まだ距離がある。ちょっと早めの昼飯を食べて、再出発。ここから山中に向かわなければならない。ひたすら難路を走らせた。


「見えたぞ!」

「レンガ造りの建物、屋根にフクロウの模型。聞いていた通りですね」


 知紗兎さんの声を聞き、車のスピードを落として建物を確認。重厚な西洋館だ。どことなく天目探し屋事務所に似ている気がした。

 町から続く道は一本だけで、この辺りは携帯電話も通じない。周囲は深い山々に囲まれている。万が一、この道が通れなくなったら大変である。


「嵐でも来たら陸の孤島になりそうだな」

「縁起でもないことを言わないでください」


 出発前に気候はチェックしている。予報では晴れの日が続いていた。大雨の中で捜索は危険だから、天気の確認は欠かせない。

 そのまま車を走らせ続け、ようやく洋館に到着。停車させて、運転席から視線を向ける。


「立派な建物ですね!」


 梨恵さんが感嘆の声を上げた。近くで見ると、想像以上の豪邸である。かなりの広さで、壮麗な雰囲気を感じた。


「賢悟、とりあえず門に向かってくれ」

「承知しました」


 洋館を眺めていても仕方ない。近くに見える門の近くまで進む。横付けしてから俺だけ降車。家の人に連絡を取りたい。しかし、そこで困ったことになった。

 完全に門扉が閉まっている。インターホンや呼び鈴といったものも存在しない。入るには鍵が必要みたいだ。


「もしかして出掛けているのか?」

「約束の時間には少し早いですから、そうかもしれません」


 しかし何十分も早いわけではない。もしかして急用が入ったのかな。というか他に住んでいる人はいないのだろうか。

 また、これだけの館なら使用人がいても不思議ではない。


「待ってください。後ろから車のエンジン音が聞こえます」

「依頼人が戻ったのでしょうか」


 梨恵さんが聞こえるというなら、きっと確かなことだろう。彼女は天耳通という特殊な能力を持つ。万物の声を聞く力。そして遠くの距離でも音を把握することが可能な力でもある。

 入口の邪魔にならない場所へワゴン車を移動させて、そのまま待機。十数分後、黒色の普通車が到着した。乗っているのは一人、若い男。俺よりも少し年上くらいだろうか。こちらに気が付いた様子で、車から降りて近付いてくる。俺も降車して挨拶に伺おう。


「あんたら、天目探し屋事務所の人か?」

「そうですよ。あ、こちらをどうぞ」


 男の質問に答えたあと、名刺を渡す。受け取った男はチラ見して無造作に上着のポケットへしまった。


「親父から話は聞いている。とりあえず入ってくれ」

「ところで貴方は?」

「オレは大林幸助、ここの当主代行だ。迷惑なことにな」


 大林さんは門の鍵を開けて、停車場所まで誘導した。専用の駐車場はなく、庭に停めるみたいだ。途中で家庭菜園らしき畑を見た。

 車を停めたら改めて挨拶しよう。円滑なコミュニケーション、大切です。四人が庭で対面する。


「隠し財宝の話、さっそく聞かせてもらおうか」

「知紗兎さん、いきなり過ぎです」


 まずは名乗ってください。依頼の話を止め、俺が大林さんに知紗兎さんのことを紹介した。

 それから視線を梨恵さんに向けると、彼女は大林さんに向けて軽く会釈。


「私は沢村梨恵と申します」

「もう挨拶はいいだろ。それで財宝は?」


 今日の知紗兎さんは、少し落ち着きに欠ける。もしかしたら昨日の魔除け人形でテンションが上がったのだろうか。もしくは財宝の件で何か引っ掛かる点があるのかな。

 知紗兎さんの言葉を聞いた大林さんは、右手で玄関を指し示す。


「立ち話もどうかと思う、親父の書斎に行くぞ。そこに資料を置いてある」


 そして俺たちの返事を待たず、歩き始めた。先導に従って館の中に入る。最初に目にしたのはメイドさんだ。大林さんと同じくらいの歳だろうか。優雅に一礼して笑顔を浮かべた。


「お帰りなさいませ、ご主人様。……あれ? そちらの方たちは?」

「前に言ったはずだ。捜索のプロ、探し屋が来ると」

「そういえば今朝もメイド長から聞きました」


 黒のワンピースに、白色の襟とカフス。フリル付きの白いエプロンを着こなし、頭にはカチューシャが見える。つまりメイド服だ。洋館に合う人材だろう。短髪で細身の身体だけど、不健康そうな感じはしない。どこか砕けた印象の女性である。

 大林さんが右手で彼女を示した。紹介してくれるのだろう。


「こいつは小方冴子、館の中で用事があれば申し付けるといい。それなりには役に立つ」

「酷い言われようですね。高校のとき、あれだけ勉強を教えてあげた恩人に」

「今、それを持ち出すな! いや、感謝はしているけど!」


 どうやら話を聞く限り、雇用主と従業員だけの関係ではなさそうだ。


「お二人は仲が良いのですね」

「冴子は高校時代の同級生だった、それ以来の腐れ縁だ」

「幸助――ご主人様とは三年間、一緒のクラスでした」


 梨恵さんの素朴な言葉に二人が反応。なんとなく、互いの立ち位置が分かったと思う。仲良きことは美しきかな。


「とにかく書斎に行くぞ。冴子、案内を」

「かしこまりました。皆さま、ようこそウラルフクロウ館に。部屋まで先導いたします」


 急に態度が変わった。しっかり仕事はこなすのだろう。大林さんも信頼しているようだし、意外と優秀なのかな。

 それより、ここはウラルフクロウ館と呼ぶらしい。屋根に付けられた鳥の模型が由来だと思う。




 小方さんを先頭に書斎へ向かった。靴を履いたままだと、ちょっと慣れないな。事務所は洋館風だけど、和風も取り入れていた。この館とは少し違う。

 長い通路を進み、扉の前で小方さんが立ち止まる。ドアノブに手を掛けて、そのまま開く。鍵は掛けていなかったようだ。


「よし着いたな。我が家、自慢の書斎だ」


 大林さんが胸を張って言うのも理解できる。三方の壁に大量の書籍が納められ、中央の空間には机やソファがあった。仕事でもプライベートでも活用できそう。

 空調も整っているようで快適な空間となっていた。隣の部屋に続く扉もあるが、どこに通じているのだろうか。


「あちらは休憩室。好きに使って構わない」


 俺の視線に気が付いたのか、大林さんが説明してくれた。ほぼ同時に小方さんが休憩室へ向かう。

 大きめのテーブルに座るよう言われたので、三人が並んで着席。また向かい側に大林さんが腰掛けた。部屋の中は後で確認するとして、そろそろ本題に入る頃合いだろう。


「それでは依頼の詳細を聞かせてください」

「ある程度は親父から連絡を受けているだろうが、改めて説明する。大林家に代々伝わる財宝を見付けてほしい」


 事前にメールで教えてもらった内容と一緒である。つまりは埋蔵金を探せということだな。トレジャーハンターになった気分だ。


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