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44話 動く魔除け人形

「さっきの道は絶対、右でしたよ!」

「何を言うか! 左だ、左で間違いない!」


 ここは長野県の山奥、俺たちは見事に迷っていた。途中までは順調だったはず。東京都を出発して数時間、複数の自動車道を使い無事に長野県内に到着。ちょっと疲れたので、休憩所に寄った。観光客らしき人たち。鬼の面を被り黒い忍び装束を着た者。どこにでもある光景だった。

 しかし休憩所を出発してから異変が起きる。カーナビゲーションの不調。地図を頼りに進むも、一向に進んでいる気がしない。泊まる予定だった民宿に連絡をして道を聞こうとするも、携帯電話が通じなかった。


「明らかに変な場所へ向かっているでしょう!」

「気のせいだ! 右に行ったら、もっと酷い場所に出るぞ!」


 俺は長時間の運転、知紗兎さんは天眼通の使用。共に疲れがあるせいか、さっきから似たような言い合いを続けている。

 道幅は狭く、枝や葉に当たりそうだ。白のワゴン車に汚れや傷が付かないといいけど。


「二人とも、落ち着いてください。でも道に迷うなんて珍しいですよね」

「どうも天眼通が不調なのだ」

「そしてカーナビも故障です」


 依頼者と会うのは二日後だから、時間に余裕はある。周辺の聞き込みを兼ねて、前日に着くようスケジュールを調整した。

 車を走らせること三十分ほど。何度か分かれ道で揉めながら、やっと少し開けた場所に出る。ここは集落のようで、何軒か建物が見えた。


「誰かいたら、道を尋ねてみましょう」

「そうだな、任せた」


 しばらく進むと、今度は十字路を発見する。周囲には車も住民も見当たらない。俺と知紗兎さんは顔を見合わせる。


「左」

「右」


 ほぼ同時に言葉を発した。ちなみに俺は左を主張。なんとなく道がしっかりしてそうだから。知紗兎さんは右と言ったけど、きっと勘だろう。普段ならば信憑性があるけど、今日は調子が悪そうだ。天眼通の不調と関係があるのかもしれない。


「じゃあ、間を取って真っ直ぐです。構いませんね!」


 梨恵さんの言葉で直進に決定。まあ、言い争っていても仕方ないか。この判断が功を奏した。

 さほど大きくないけど、飲食店が見えたのだ。ここで道を聞こう。それから遅い昼食を取ることにした。道に迷ったせいで、ちゃんとした昼飯を食べてない。店の中に入ると壮年の夫婦が出迎えてくれた。お品書きを受け取り、三人で眺める。


「ローメンがオススメみたいだな」

「ちょっと待ってください。それは長野県南部の郷土料理だったような。俺たちは北部を目指していましたよね」


 話が聞こえたのか、店主の男が説明をしてくれた。どうやら出身が伊那地方で、北部でも広めたくて店を出したらしい。つまり方角は間違っていなかったわけだ。

 メニューを見たら、スープタイプと焼きそばタイプがある。両方のセットもあるので、三人分を頼んだ。ローメンはマトンを使うと聞いた。羊肉か、ラーメンにも合うかな。話をしていたら注文した料理が届く。よし、いただこう。どんどん箸が進んでいく。太めの麵も素晴らしい。


「――美味かったな! これはデザートも期待できるぞ!」


 食べることは確定なのか。あんずジュースを飲みながら知紗兎さんがメニューを見始めた。俺も気になるので一緒に頼む。

 注文したのはソフトクリームだ。知紗兎さんと梨恵さんがネクタリン味で、俺はクルミ味。溶けると困るので、すぐ食べよう。気が付くと視線を感じた。隣に座る知紗兎さんからだ。


「どうしました?」

「そっちも良さそうだな。一口くれ」

「まあ、いいですけど」


 俺が答えると、すぐに知紗兎さんは顔を寄せた。そして結構な量を口に含む。


「こっちも美味い」

「……遠慮なく食べましたね」


 クルミソフトクリームが見るも無残に減っている。彼女は唇を舐めながら、首を傾げた。

 それから自分の持つネクタリンソフトを俺の方に向ける。


「じゃあ代わりに私の方もやろう」

「いただきます」


 せっかくなので味見する程度に貰った。甘酸っぱい味わいが口の中に広がるな。クリームとよく合っていると思う。

 正面を見ると、梨恵さんが微妙な表情をしていた。生暖かい視線も感じる。


「皆さん、食後の伊那茶をどうぞ。店長の地元から取り寄せたものですよ」


 ちょうどデザートを食べ終えたころ、若い女性の店員さんが茶を淹れてくれた。すっきりした後味がいい。

 食事を堪能したら出発しよう。道を尋ねると、店主から手描きの地図を貰った。どうも分かりにくい場所にあるらしい。礼を言って店を後にした。




 車を走らせること約一時間、ようやく目的の場所に到着。本当に道が分かりにくかった。案内板も無く、分帰路を間違えたら大変だっただろう。ただ知紗兎さんの天眼通も調子を取り戻したので、わりと順調に辿り着いた。

 民宿は村の外れにある。静かで良い場所だと思う。車を停めて、入口に向かう。あ、池があった。魚が泳いでいるけど、あれは鯉だろうか。


「やっと着いたな。かなり時間が掛かった」

「事務所を出発してから半日以上、経っていますからね」

「お疲れ様です、賢悟さん」


 夜が更ける前に到着できてよかった。とにかく宿泊の手続きを済ませる。ここは前払いみたいだ。料金を支払って、天目探し屋事務所宛ての領収書を貰う。今日は四人部屋を三人で泊まる。知紗兎さんの指示で、梨恵さんが予約した。

 疲れたので早く休みたい。宿の人に案内されて部屋へ向かう。部屋は広い和室で居心地が良さそうだ。ちょっと横になろう。


「お寛ぎのところ、失礼します」


 休もうと思ったけど、外から声が掛かった。俺たちは顔を見合わせたあと、ほぼ同時に頷く。とりあえず入ってもらおう。


「どうぞ!」


 姿を見せたのは働き盛りの女性。着物姿が似合っている。彼女は民宿の責任者と名乗った。つまり女将さんだな。


「天目探し屋の皆さま、ようこそお越しくださいました。不躾ではございますが、折り入って相談が……」

「もしかして、ご依頼でしょうか?」


 俺は首を傾げながら、女将さんに問い掛けた。たまたま泊まりにきた客へ依頼をするとは、わりと珍しい気がする。急な探し物だろうか。


「ええ、ある人形を探していただきたいのです」


 それから詳しく話を聞く。ここは民宿の他に食堂も営んでいる。というよりも、そちらが本業らしい。食堂の常連に老夫婦がいた。村に住む人たちで、毎週末には必ず訪れるほど。

 その老夫婦の家に代々伝わる魔除けの人形がある。曰く付きの物で、気が付くと人形の位置が変わっているとか。動いた人形を見付けて、正しい場所に戻さないと祟られる。そんな言い伝えもあるみたいだ。


「あの~、それだと呪われているのでは?」

「しかし人形を奉ってから家が繫栄し、相当な資産家になったようです」


 梨恵さんが遠慮がちに質問するけど、はっきりと女将さんは首を横に振った。


「興味深い話だな。賢悟、依頼を請けよう」

「まあ、所長の判断には従いますよ。ただスケジュールの調整は必要でしょう」

「明後日から、次の仕事が開始ですよね」


 手帳を開き確認するが、日程に余裕はない。かなり前から話が通っているため、先約を変えることは難しい。


「まずは話だけでも、聞いてあげていただけませんか? それから日程を相談するということで、どうかお願いします」

「わかった。さっそく依頼人の居場所を教えてくれ」


 知紗兎さんの言葉を聞き、女将さんは安堵したようだ。動く魔除け人形か、実は俺も少し興味がある。話を聞いた限りだと、すぐ発見しないと依頼人が不安になるだろう。

 女将さんの後に続きながら、俺たち三人は部屋を出た。老夫婦の元まで案内してくれるらしい。


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