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33話 楽園を作りし秘宝遺物

 相談は終わり、実行に移す準備だ。


「さて、俺たちは外へ向かいます。ただ本日は保管場所の特定だけで、秘宝遺物を見付けても回収はしません。明日の早朝、道具を揃えて取りに行くつもりです」

「了解しました」

「結果は夕方に報告しましょう」


 これで内通者は大きな行動を避けるはず。夕方まで待ってから動く方が効率的と言える。おそらく秘宝遺物の保管場所を知っているのは総務部長だけ。内通者には知らせていないと考えた。重要な情報を軽々しく他人に伝えないだろう。

 それから俺たちは所長室を出る。少し準備をしてから、研究所の外へ行った。


「さすがに屋外で盗聴器は使いませんよね」

「確認できる範囲には存在しない。それより秘宝遺物だ。今日中に見つける必要がある」


 明日の朝、総務部長が戻ってくるからな。


「俺に一つ、心当たりがあります」

「どこか疑わしい場所が? いや、とにかく案内してくれ」


 説明を聞くよりも、行動を優先したようだ。それから盗み聞きも警戒したのかもしれない。

 やってきたのはバイク練習場跡。今の状況だと草木が生い茂る地となっている。持ってきたのは草刈り機とスコップ。


「全体を見て回り、最も不審に感じた場所です」

「若干、私情が入っていそうだけどな」


 実は多少ある。俺にとっては思い入れの強い所なのだ。子供のとき探しても見つからなかったのは、おそらく秘宝遺物『楽園生成』の効果だと思う。過去の記憶は正しかった、そう証明されたのは嬉しい限り。

 ただ最初に俺が発見できたのはなぜか、新しい疑問が湧いた。まあ、それは後で考えよう。


「物を隠せるとしたら、地下が第一候補です。かつて設置されていた小屋の跡地を調べましょう」

「それなら分かる。一度、見たからな」


 あのとき知紗兎さんは地下を確認していないらしい。話を聞いたら、思い付きもしなかったそうだ。これも秘宝遺物の効果だと考えている。楽園を維持するために余計な物を寄せ付けない。

 さらに彼女は天眼通でも見えにくいと話していた。情報不足とも判断できるが、能力を阻害されていた恐れもある。


「貴女は少し休んでください」

「わかった。そうそう、小屋の場所は向こうだ」


 知紗兎さんは地面の一ヶ所を指差した。俺は三十分ほど掛け、付近の草を刈っていく。大きな石や木は無かった。もともと小屋が建っていた場所だからだろうか。




 ある程度の範囲を刈り終わったので、改めて天眼通を使ってもらう。


「――ダメだ、はっきりとは見えない!」


 当たりだ、俺は自信を深めた。場所を特定し、地面を直視している。この状況で見通せないのは、邪魔をする存在があるということ。目的の秘宝遺物とは限らないけど、それに近い何かがあるはず。

 とにかく該当の箇所を調べよう。俺は草刈り機の代わりにスコップを手にした。


「ちょっと掘ってみます」

「いや、待て! 変な力の流れがあるぞ。おそらく電流だと思うが、少し違う気もする。いずれにせよ危険な雰囲気を感じる」


 もしかして掘り進んで接触したら、電気が流れる仕組みだろうか。つまり罠だ。強引に入ろうとしたら、撃退されるのか。


「どうしましょうか?」

「下手に触ると命に関わるな。……賢悟、君の記憶を見せてほしい」

「え~と、詳しく話してください」


 知紗兎さんの説明を聞いて、ちょっと戸惑った。俺の思い出を通じて小屋の形や大きさを把握するらしい。だけど困ったことに、狙った部分だけ見ることは難しいみたいだ。

 つまり余計な記憶まで知られてしまう。少し抵抗がある。


「確実に発見するため、協力を頼む」

「俺の記憶を見るとしたら、自分のことだけでは済まないですよね。家族や友人の秘密なども知ってしまうはず」


 そこまで大それた秘密は抱えていない。ただ軽々しく伝えていいことでもない。なにより天眼通のことを説明しなければ、俺が隠し事をばらしたことになる。

 信用に関わるし、人間関係にも影響が出そうだ。やはり即答は難しい。とはいえ考える時間も少ないか、タイムリミットは明日の朝だからな。


「不都合があったら、私も一緒に頭を下げよう」

「……わかりました」


 結局、俺は承諾した。


「よし! さっそく始めるぞ!」

「お手柔らかに、お願いしますよ!」

「保証はできん!」


 知紗兎さんは俺と目を合わせた。鼻が触れ合うほどの至近距離。彼女の瞳は透き通るような黒。思わず引き込まれそうな魅力を感じる。

 まばたきもせずに、彼女がじっと見つめていた。数十秒くらい経っただろうか。知紗兎さんが両目を閉じる。少し顔が赤くなっていた。


「あの、どうしました?」

「……いや、少し疲れただけさ。それより行こう。正規の入り口を通ったら、罠が発動しないようだ」


 彼女に先導されるまま進んでいく。草木は刈ってあるため歩きやすい。




 知紗兎さんは立ち止まり、地面の一ヶ所を指差した。見た目には何の変哲もない地面である。


「止まってくれ。君が子供のころに見た、バイクが置かれた小屋。中には地下への入り口があった。その場所がここ」

「土に埋もれているようですね。掘ってみます」

「慎重に頼む。別の場所に触れると危険だ」


 話を聞きながら、掘るべき場所に目印を付ける。スコップで地面に線を引いて、囲いの中を掘っていくのだ。

 やがてスコップが固い物質に触れた。反射的に柄から手を離しそうになるけど、再び強く握りしめる。急で驚いたけど、身体には異常なし。電気が流れてこなくてよかった。


「賢悟、なにか見つけたのか?」

「感触からすると金属製の物でしょう」


 とにかく土を払いのける。用意しておいた刷毛(はけ)を使いつつ、丁寧に作業を続けていく。

 しばらくして、ようやく形が分かってきた。地下への扉だ。念のために天眼通で見てもらう。どうやら危険は無いそうだ。


「鍵は掛かっていませんね。知紗兎さん、先に入りますよ」

「分かった。気を付けるように」


 扉を開くと、壁に取手が付いている。これで下に降りられるみたいだな。四肢に力を入れ、慎重に進む。そして足が地に着き、広い空間に出た。地下のはずだが、ずいぶん明るくて眩しいくらいである。だけど光源は見当たらない。


「この照明、弱くならないかな」


 思わず呟くと、しだいに光量が落ちていく。もしかして今の声に反応したのか。ふと胸元が熱くなっていることに気付く。

 どうやら服のポケット内から熱が発生しているようだな。ここには西の休憩所で手に入れた鍵を入れてある。


「お~い! どうだ、下の様子は?」

「今のところ、問題ありません! ただ鍵の様子が変です!」

「よし、私も降りるぞ!」

「もう少しだけ待ってください!」


 知紗兎さんには上で待機してもらっていた。地下の安全を確認するまでは、上に誰か残った方がいい。今のところ問題ないけど、念のために地下室内を見て回る。何もない広い空間、ただ横に通じる扉が見えた。いつの間にか、鍵の発熱は消えている。なんだったのか。

 見た感じ喫緊の危険はないので、降りても大丈夫だろう。扉の先は知紗兎さんと一緒に確認したい。彼女を読んだら、すぐに来た。


「さて捜索を開始しよう」

「まず扉を開けてみます」


 二人で扉の前に立つ。おれはドアノブを掴み、ゆっくりと開いていった。施錠はされておらず、静かに扉が開かれる。

 中は小さな部屋だった。そんなに広くない空間の端に、たくさんの箱が積まれている。そして正面にはミニチュア模型が見えた。形は研究所と一緒のようだ。


「見てくれ、鍵穴があるぞ」


 知紗兎さんの言葉を聞き、俺は目を凝らす。確かに穴がある。大きさからして、手持ちの鍵に合いそう。ポケットから取り出して、鍵穴と見比べた。

 ――唐突に模型と鍵の双方が光を放ち、部屋全体に満ちる。その輝きに包まれていたら、目前の模型が秘宝遺物『楽園生成』だと不思議な確信を持った。


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