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31話 内通者は誰か

 まずは目の前にいる所長から詳しい状況を聞こう。このまま調査を続けるのか、先に密告した人を探すのか。俺たちだけでは判断が難しい。


「調査を妨害されると思いますか?」

「おそらく邪魔が入るでしょう。総務部長と繋がっている者を特定できれば、私の方で上手く対応するつもりです」


 そして所長から密告者の特定を相談された。できるだけ秘密裏に探ってほしいと頼まれる。こちらが相手の動きに気付いたことは、まだ知られていない。どうやら慎重に行動する必要がありそうだ。


「確実に違うと断言できる人は?」

「サーバー担当の者は除外して問題ありません」


 どうやら総務部長を危険視していた筆頭みたいだな。それだけでは断言できないけど、所長の信認も厚い。他を優先して調べよう。ちょっと気になることを言っていた人もいるし。


「鍵の発見を知っている人は誰でしょう?」

「関家君だけです。昨日の夜に庶務室へ行き、施設の構造について相談しました」


 そうか、鍵の掛かった場所に詳しいからだな。該当する場所は見付からなかったけど、大きさから通常の扉とは考えにくいとか。かなり小さい鍵だから納得だ。

 所長は他の人に話していない。一度、関家さんに話を聞こう。それから庶務室に行ってみたが不在だった。扉には巡回清掃中の札が貼られている。


「掃除中とは間の悪い」

「仕事ですから仕方ありませんよ」

「そうだな。次はどこに向かう?」


 俺は手帳を開き、あらかじめ聞いておいた訓練スケジュールを確認。ちょうど、これから長めの休憩があるようだ。


「梨恵さんに話を聞きましょう。彼女が内通者とは考えにくいですので」

「まあ、私たちと一緒に来たからな」


 ちなみに聞太さんも除外していいだろう。どうやら総務部長は協力者との接触を避けていたようだからな。秘宝遺物の場所は切り札となる情報である。万が一にも所長へ知られるわけにはいかないと考えるはず。




 能力鍛錬室に近付くと、また内側から扉が開かれる。


「どうぞ、中へ。今、お茶を淹れますよ」


 梨恵さんに招き入れられて、一緒に休憩しましょうと勧められる。残念ながら、ゆっくりする時間は無い。タイムリミットは明日の朝。それまでに秘宝遺物を発見しないと面倒なことになる。


「田中さんの姿が見えませんね」

「彼女なら自分の部屋に戻りました。しばらく休んでいるそうです」


 少し話をしたかったけど、私室にいるなら後にしよう。


「ところで聞太さんは派閥の争いについて、ご存知でしょうか?」

「所長と総務部長のことだな。後者は初めて会ったとき副所長と言っていた。あとから自称だと知って驚いたよ」


 ちなみに実際の役職を教えたのは岩本室長らしい。資料室を訪れたときに話題が出たそうだ。


「どれくらい話をしました?」

「皆無だ。互いに自己紹介をしただけ。それっきり一度も会っていない」


 おそらく関家さんの状況と同じである。能力により、自分の過去や違法な行為を知られたくなかったのだろう。実際に可能かはともかく、警戒する心理は分かる。自分の失態に結び付きそうなことを避けたのだと思う。

 それから聞太さんと梨恵さんの二人に、少し気になっていた訓練の様子を聞く。担当の田中さんは別室で待機することが多いものの、説明は丁寧で分かりやすい。彼女の対応は好評みたいだ。


「昨日は聴力検査が多かったですよ。父も最初は頻繁にやっていたとか」

「通常の方法とは別に、多種多様な音を出せる設備もあった」

「興味深いな。天眼通の訓練も相談してみたい」


 正直、時間に余裕がない。知紗兎さんが落ち着いているのは、最後の手段があるからだろう。すなわち天眼通の全力使用だ。しかし彼女の身体に途轍もない負担が掛かる。できれば止めたい。訓練については、また話し合おう。


「知紗兎さん、それは後にしてください。秘宝遺物の捜索を優先しないと」

「わかったよ。まあ、いざとなったら任せてくれ。私の力は知っているだろう? 本気で使えば未来すら見通せるからな」


 彼女から聞いたことがある。かつて天目財閥は酷い経営難に陥ったとか。それを一人の少女が救った。幼い頃の知紗兎さんだ。きっかけは遥か昔。居間に置かれたパソコンに表示中のニュースサイト。そこに映る会社を指差し「ここ潰れるよ」と言った。数日後、不祥事により倒産。父親は天目家に残された伝承を思い出した。全てを見通す目を持った者の話。


「お願いします。だけど無理はしないでください」


 天目財閥は当時、かなり追い込まれていたらしい。資金繰りに苦しみ、所有する株は下降の一途。そこで父親は知紗兎さんに株価チャートを見せた。幼い少女には理解できなかったと思う。ただ右肩上がりになる部分を聞き、それを基に投資先を決める。結果、信じられないくらいの利益を生む。稼いだ金を本業の改善に回し、見事に財閥は復活を遂げた。


「もちろん、私も身体は大切だ。善処するよ」

「本当に危険そうなら、なにがなんでも止めますからね」


 しかし、ここで話は終わらない。知紗兎さんは原因不明の高熱を出して、生死の境をさまよった。彼女の家族は悔いる。特別な力を私利私欲に使ったことの報いを受けたのだと考えたらしい。それ以来、父親は天眼通に頼ることを止めた。しかし娘に無理をさせたことで、今でも彼女に頭が上がらないみたいだ。

 探し屋の助手を続けるなか、天眼通の使用により心身に負荷が掛かる様子を見てきたのだ。依頼者の所長には申し訳ないと思うけど、仕事の破棄も考慮しておく。


「そのときは頼む。とにかく調査を進めるぞ」


 次は自室に向かった田中さんに話を聞きたい。休憩中に申し訳ないけど、訓練の邪魔をするのは駄目だと思う。


「とりあえず田中さんの部屋に行きましょう」

「初めて訪れる場所だな」

「そうですね。私室は後回しで問題ないとのことでした」


 所長からは本人の立ち合いのもと、調べる許可は貰っている。ただ各自で部屋を調べたので、調査の優先度は低いとも聞いた。


「とはいえ内通者がいるとなれば、話は別だな」

「確かに。調べたふりをした恐れもあります」

「再調査が必要か?」

「現時点では分かりません。やはり本命は外でしょう」


 さて、話し込んでいても解決しない。俺たちは能力鍛錬室から出て、田中さんの部屋に向かう。移動の途中で、前方に見覚えのある姿を確認。白衣を着た女性だ。目指す部屋の主、田中さんである。なにやら急いでいる様子。


「おはようございます! 今、大丈夫ですか?」


 俺は少し遠くから、声を掛けた。


「沢村さんたち親子に重要な説明をしていませんでした。休憩が終わる前に伝える必要があります。お話は午後でいいでしょうか」

「わかりました。訓練の監督、お疲れ様です」


 焦っているのか、口調が早い。田中さんは一礼して、急ぎ足で去っていく。これから能力鍛錬室に向かうのだろう。

 それにしても午前中に話を聞くのは無理そうだな。今の段階だと、強引に止めることは難しい。所員の不評を買えば、あとで困るかもしれないからだ。




 時間は有限、次は岩本室長に話を聞く。俺たちは資料管理室に向かった。部屋の前に到着したので、声を掛けてから部屋に入ろう。


「失礼します」

「ああ、ちょうどいい! こっちに来てくれ!」

「どうしました?」


 今日もジャージ姿の室長に呼ばれた。早足で声がした方に向かったら、何者かと通信中のようだ。


「サーバールームと繋がっている。担当の話を聞いてほしい」


 内通者の候補から除外した人だな。所長の言葉だけを鵜吞みにはできないけど、少し安心して話せる。隣にいる室長はどうだろう。雰囲気からすると総務部長とは反りが合わないようだけど、それだけで断言は無理か。


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