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26話 秘宝遺物

「話を続けます。沢村聞太さんは対処法を探す途中で、組織の研究員と接触した。そこでスカウトされたのでしょう。天耳通の力を持つ人間の情報。喉から手が出るほど欲したはず」

「しかし何の説明もなく失踪した理由が分かりません。いなくなるにしても、もう少し良い方法があったと思います」


 梨恵さんの疑問は当然だろう。しかし理由を明かせない事情があった。


「下手に情報を得れば、能力が強まるかもしれない。そう考えたのでしょう」

「ああ、それもある」


 沢村聞太さんが肯定したことで、確証を深めた。ここからは推測の要素が高まるので、ありがたい援護だな。

 もちろん俺も当てずっぽうで言ってはいない。状況を可能な限り精査してから、判断しているつもりだ。それでも本人から否定の言葉がでないことは助かる。


「そして貴方は組織と取引しましたね。自らを研究材料として提供する代わりに、金と情報を得る。ただし厳しい守秘義務が課せられた。家族にも詳しい説明ができないくらいに」


 人目を避けるように施設を建てている。研究内容も表沙汰にしたくないはずだ。ならば情報は厳しく管理すると考えた。


「ご明察と言っておく」

「ところで失踪の足取りが掴めなかったのは、協力者がいたからでしょう」

「そうだ、神足通の力がある人間と行動をしていた」


 高宮先生の資料で読んだぞ。自分の行きたい場所に、変幻自在の姿で移動できる能力だな。また外界のものを変えることも可能だという。

 そこに聞太さんの天耳通が加われば、行き先を把握することは困難だ。俺たちも知紗兎さんの力がなかったら、たどり着けなかったはず。


「話を変えます。金は妻の良枝さん、情報は娘の梨恵さんに渡すつもりでした」

「……半分は合っている。自身の分も確保するが」


 どうやら自らの取り分も用意するらしい。まあ、当然だと思う。なにやら知紗兎さんが驚いている様子だ。


「これから別れる妻に金を残すのか、奇特なことをする。慰謝料を請求されたわけではないのだろう?」

「おそらくカフェの開店資金を工面するつもりでしょう」

「仕事を言い訳にして、家庭を顧みなかった私だ。最後くらいは何かしたかった」


 きっと退職金の受け取り日時を確認した理由でもある。振り込みまでに半年ほど掛かるのは想定外。しかし、そのときには金の当てがあった。そのため経理の話を簡単に受け入れたのだろう。


「もしかして不仲になった原因は、天耳通の力だったのでは?」

「否定はしない。ときどき自分の意志とは無関係に、心の声が聞こえてきたのだ。それ以来、できるだけ妻との接触を避けるようにしたよ」


 人の心は綺麗なことだけじゃない。恨みや妬み、負の側面は必ずある。それらを聞いてしまったのだろう。

 聞太さんは目を閉じて、首を横に振った。


「だけど、それは最後のきっかけでしかない。妻から離れて暮らす提案を聞いて、自らの行動を省みたさ。言われるのも当然だと感じたよ。離婚を望むなら手続きを進めると告げ、その場は立ち去った」


 それから以前にもまして、妻との会話を避けるようになったらしい。彼女からの非難を受け入れたくなかったのだ。


「貴方は沢村良枝さんに対して、どれだけ心の声を聞きましたか?」

「ほとんど聞いていない。ただ別居を望んでいることは、耳に入ってきた」


 俺は今までの話をまとめ、頭の中で整理する。


「一度、二人で話し合ってはどうでしょうか。貴方の力は正確に心を読み取るものではありませんよね」

「しかし私は心の声を聞いているのだ」

「それが本心とは限りませんよ」


 知紗兎さんの天眼通も、条件によっては人の心を知ることが可能らしい。ただし決して確実とは言えない。それができるのは、きっと心を読み取ることに特化した力を持つ者だけだろう。

 その場に静寂が訪れる。


「……そうだな。しかし、すぐには無理だ。今の生活は能力を制御できるように、訓練を兼ねている。一区切り付いてから会いに行く」

「ねえ、父さんは酷い目にあってないよね? あそこは人体実験の施設だって」


 聞太さんの言葉を聞き、梨恵さんが不安そうに問い掛けた。


「心配するな、私は貴重なサンプルらしい。丁重に扱われているよ、今はまだ」

「つまり将来は分からないと」

「かつて能力の強化を目的として、違法な薬物実験が行われていた。主導は前任の所長で、現在の所長は反対している。ただ総務部長は前任の忠実な部下、こちらに動かれると危険だ」


 厄介な話になってきたと思う。派閥争いに巻き込まれそうだな。それはともかく一つ確認しておきたい。


「外に出ても大丈夫ですか?」

「所長の許可は得ているよ。むしろ君たちに会ってほしいと頼まれた」


 なんだろう、話の流れが変わった気がする。




 俺は深く息を吐き、用心するように心を引き締めた。


「なんでまた、研究所の偉い人が?」

「天目探し屋に依頼があるそうだ。とりあえず概要だけでも聞いてくれるか」

「ほう、私たちに目を付けるとは。なかなか見所があるじゃないか」


 知紗兎さんが満足そうに頷いている。依頼を請けるかは別として、内容は聞いておきたい。

 ちょっと怖いけど、彼女は乗り気だし止められないと思う。


「少し前に麻薬工場の内部告発があっただろう。総務部長も関わっていたのだが、全力で証拠隠滅を行っている。このままだと有罪になるかは微妙なところ」


 どうやら総務部長は告発される側の人間みたいだ。そして今の発言を聞いたら、依頼の内容も予測がついた。

 とはいえ想像の通りなら、どこかで恨みを買いそうである。とにかく話の続きを促した。


「過去に行われた人体実験のデータと未使用の薬、この二つが研究所内のどこかにある」

「それを探し出すことが依頼でしょうか」


 しかし聞太さんは首を横に振る。あれ、違うのか? 俺は首を傾げる。


「捜索の途中で見つかれば助かるが、依頼は別なのだ。あの研究所に隠されている秘宝遺物を探すこと」

「あるのか!?」


 唐突に知紗兎さんが声を上げた。秘宝遺物とは、常識で考えられない効果を持つ道具の総称だ。時間跳躍や永久機関といった絵空事を可能とするらしい。もっとも大半は眉唾物の伝説である。

 とはいえ真剣に探し求める者は後を絶たない。


「俺の友人が持っていた結界を作る道具だって、その一種だと思います。どうして反応が違うのでしょう?」

「いや、信憑性が……。本物を個人で入手できるとは考えにくいだろ」


 やっぱり、まだ疑っていたな。まあ、その話は後でいい。


「効果は判明しているのですか?」

「所長の話では楽園の生成ということ」


 それから具体的な内容を聞いた。限られた範囲で、人間が健康で安全に暮らせる環境を構築する。電力は無尽蔵に使え、上下水道の整備も不要。そのうえ部外者は近付くことすら不可能。そもそも認識することが困難となる。

 研究所に行く途中で道が分からなかったのも、おそらく秘宝遺物の効果だろう。もし知紗兎さんの天眼通がなければ、今でも迷っていたかもしれない。


「――だいたい分かりました。知紗兎さん?」

「聞くまでもない、請けよう。この目で見たいからな」

「だと思いましたけど、せめて詳細は確認してください」


 詳しい内容を尋ねたけど、これ以上のことは所長に確認してほしいと言われた。ならば仕方ない。明日の午前中に、研究所を訪れると約束した。

 捜索は総務部長が不在のときに行うらしい。鬼の留守に豆拾いか。立場としては所長が上だけど、研究所内の経歴は総務部長の方が長い。妨害が入る前に、何とか探し出す必要があるとか。


「あの、私が行っても構わないですか?」

「すまない、梨恵。できれば遠慮してくれ。肉親の声は聞き取りやすいのだ」


 きっと力を発揮しない、この特殊な公園でなければ彼女と会うことはなかったと思う。実際、研究所に行ったとき断られている。

 手紙に公園のことを記してもらい、待ち合わせ場所に提案したのが功を成した。そう簡単に会えないことは考慮していたからな。


「研究所では、力を制御する訓練をしているのだろう。ならば二人で協力して行うといい。その間に私たちは捜索をする」

「……そうだな、能力を遠ざけても始まらないか。所長に相談してみよう」


 ということで今後の予定が決まった。梨恵さんと聞太さんは訓練に専念をする。俺と知紗兎さんは秘宝遺物を探そう。もちろん無事に契約が成立すればだけど。


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