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18話 故郷へ

 二つの地図を見比べて、絞り込んだ三つの候補地。福島、静岡、鹿児島である。あれ、ちょっと待て。

 俺は地図の一ヶ所を指差した。


「ここ伊豆でしょう、俺の地元に近いですね」

「静岡県の伊豆半島西部か」


 その気になれば、実家から歩いていける距離だ。こんな場所に研究施設があったとは。地元で事件が起きていないか気になる。家族や知人たちに連絡してみよう。もしかしたら何か知っている人がいるかもしれない。

 それから沢村聞太さんの目撃情報も聞いてみたい。


「知り合いに電話してきます」


 一言、断りを入れて電話をかける。まずは身内から。次に親しかった友達だな。複数人に話を聞くが、有力な手掛かりは得られなかった。

 様子を見ていた知紗兎さんに向けて、俺は首を横に振る。


「ダメだったか」

「年齢や体格だけだと、該当者が多すぎます。特定は難しいですね」

「施設の方は?」

「なんとなく場所の見当は付きましたが、確認は取れませんでした」


 地元と言っても、普段の行動範囲から外れていた。また友人たちも同じである。距離は近いのに、知らないことも多い。


「地図を貸してくれ、それとスケッチブックだ。今の段階で見る」

「すぐ出します」


 スケッチブックはカバンの中にしまった。知紗兎さんの手元にあると乱用しそうだからな。だけど今回は仕方ない。候補地の三箇所がバラバラ過ぎるため、調べる優先順位を決める必要がある。

 知紗兎さんは鉛筆を片手に持ち、虚空を見つめている。彼女の眼は時間や空間を超越するのだ。


「凄い、写真みたいな絵です!」

「すみません、梨恵さん。お静かに願います」


 周囲で話し声がすると、集中力が乱れるらしい。慌てて梨恵さんが口を噤んだ。わずかな時間で絵が完成した。

 木々に囲まれた空間。中央に机と椅子が置かれていた。おそらく誰かが休憩するために用意したのだろう。


「……この場所、見覚えがある」

「あ! 前に知紗兎さんが描いていた風景ですよ!」

「そうか! 人体実験について調べたときだな!」


 俺の言葉を聞いて、知紗兎さんがスケッチブックをめくった。あのときは中央が見えなかったから、すぐに同じ場所だとは気が付かなかった。しかし、よく見ると周囲の様子が一緒である。

 これは有力な手掛かりだ、現地に行くべきだな。


「急いで調べに行きますか?」

「あと半日、沢村家を探そう。それから出発する」


 そうだな、見落としがあると大変だ。最後の確認をしてから、次へ向かうつもりだろう。

 あと佐藤さんにも挨拶をしておきたい。今日は出掛けており、たしか帰宅は夜と言っていたな。それまで捜索の続きか。


「わかりました。俺も端から再チェックするつもりです」

「ちょっと待て、君は休め。夜間運転を頼みたいから、仮眠を取るといい。事故を起こされても困るぞ」


 言われてみれば、疲れた状態での運転は危険である。ここは遠慮なく休息を取らせてもらう。


「それでは客間で寝かせてもらいます」

「ごゆっくり休んでくださいね」


 梨恵さんの声を聞きながら、客間に移動。横になったら、すぐ眠くなってきた。思ったより疲れが溜まっているのかもしれない。まだ日が高いのに、よく眠れそうである。




 ――目が覚めると、部屋の中が暗い。さすがに寝すぎたかな。二人がいるはずの居間に向かうと、良い香りが漂ってくる。


「起きたな、腹が減っているだろ?」

「そういえば空腹です」


 考えてみたら昼食を取っていない。そして今は夕食の準備中みたいだ。机の上に料理が並んでいる。きっと梨恵さんが用意してくれたのだろう。知紗兎さん自分で料理することは、ほとんどない。片付けが面倒だと言っていた。

 しかし下手ではない。以前に食べさせてもらったが、かなり美味かった。料理に天眼通を使おうとしたときは、さすがに止めた。濫用が過ぎる。


「よし、なら腹ごしらえだ。沢村梨恵の作る飯は美味いよな」

「完全に同意します。いくつかレシピを教えてもらえるよう頼んでみましょうか」

「それはいい!」


 話をしていたら当の梨恵さんが姿を見せる。お盆に料理を乗せて、運んでいた。俺も手伝おう。依頼人だけに働かせるわけにはいかない。


「これ、並べるのですね」

「ありがとうございます。……ところで、いつ昼食を取ったのでしょう? 食器が置いてありましたけど」


 なんのことだろう。俺は起きたばかりだ。


「賢悟の昼飯なら私が食べたぞ。本人は熟睡していたからな」

「食べないでください!」


 今、声を上げたのは梨恵さんだ。寝食を共にしたせいか、わりと心安い雰囲気を感じさせられる。よそよそしさが薄れていると思う。堅苦しい言動は落ち着かないから助かる。


「気にするな、もうすぐ夕食だろう」

「まあ、いいですよ。ちょっと話は変わりますが、夕食に佐藤さんはいらっしゃいますか?」


 俺の質問に対して、二人は首を横に振った。


「さっき家に来たとき誘ったのですが、佐藤さんは予定があるそうです」

「私たちが挨拶をしておいた。起こそうとも思ったが、ご老体から休ませてやってくれと言われたよ」


 そうだったのか。お世話になったので、改めて礼を言いたかったのだけど。もう夕食後には出発する。また会う機会があることを祈ろう。

 それから三人で食事を取った。できるだけ使った場所を綺麗にしたいが、時間が足りない。一通り準備を済ませたら、伊豆へと向かった。




 高速道路を通り、俺の故郷を目指す。


「あ~。今、どのあたりだ?」

「もうすぐ御殿場ですね。寝ていても構いません」


 半分、眠っていた知紗兎さんに返答した。しばらく西に進んだあと、南下をして伊豆西部に行く予定である。

 彼女は助手席で大きく伸びをする。


「いや、要所要所で天眼通を使わないと」

「無理はしないでくださいよ」


 朝から何度も使用しているらしい。休憩を取りながらとはいえ、おそらく負担は少なくないはず。

 そして後部座席の梨恵さんは真剣に資料を読んでいた。


「しばらく進むと峠道に入ります。カーブが多いですので、気を付けて」

「わかりました。ところで休憩は取らなくても大丈夫でしょうか?」


 梨恵さんの言葉に少し考える。乗っている方も疲れるだろうし休息は必要かな。二人と相談して、近くのサービスエリアに立ち寄った。24時間営業は助かる。もう夜も遅い。

 ――しばらく休憩してから、再び出発。道路に混雑もなくて、順調にワゴン車を走らせる。夜間の運転に疲れたものの、ようやく今日の宿が見えてきた。


「あそこで間違いありません。駐車場は道路を挟んだ反対側みたいです」


 今日の宿泊場所はホテルを予約済だ。梨恵さんが遅くまで受付をしている場所を探してくれた。知紗兎さんの話だと、手際よく手配を進めたとか。

 あらかじめ到着する時間を伝えており、中に入ると出迎えらしき人が立っていることに気付いた。予約した名前を告げると、それぞれ部屋に案内される。二部屋を取り、男女で別々だ。知紗兎さんと梨恵さんは、部屋へと荷物を置きにいく。俺も自分の部屋に行こう。


「入るぞ」

「あの、お邪魔します」


 そして十数分後、二人が俺の部屋を訪れた。明日の行動について、打ち合わせをする。起床時間や捜索の手順などを話し合っていく。かなり早朝から行動開始だ。寝坊しないように注意しないと。普段なら問題ないが、今日は疲れているからな。

眠気に抗いつつ、なんとか予定を詰めた。もう二人とも休むみたいだ。部屋を出るとき、知紗兎さんが足を止めた。


「あ、そうだ。聞いたか、賢悟! 部屋風呂も温泉を利用しているらしいぞ!」

「それは初耳でした」


 ふと思ったけど、この周辺で宿泊施設を使ったことがない。貴重な体験である。今日は温泉に浸かってから、寝るとしよう。


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