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16話 二種類の地図

「父は今、どこにいるのですか?」

「残念だけど、正確な場所は分からないのよ」


 梨恵さんの問い掛けに、高宮先生は首を横に振った。


「沢村聞太が訪ねてきた理由は?」

「理解者を探していたのよ。貴女なら理解できるでしょう、天目知紗兎さん」

「力を持った者の孤独か、分からなくもない」


 高宮先生は民俗学を専攻していたらしい。その一環として、土地の風習や民話に触れることが多かった。そして昔話で登場する不思議な力に魅了される。いつしか彼女は、特殊な力を持った者の存在を信じるようになった。

 その研究に興味を示したのが梨恵さんの祖父みたいだ。高宮先生の妹を通じて、研究のことを知ったとのこと。


「ところで先生は『正確な場所は分からない』と仰いました。確実ではなくても、心当たりはありませんか?」


 ちょっと言い方が引っ掛かったので聞いてみた。


「私と同じような研究者たちの集まりがあるの。そこに向かうと言っていた」

「そのグループに会えば、父の居場所も判明するのですね!」

「だけど集団は一つじゃない。私は日本各地に行ったため、独自の繋がりを作っているわ。――ちょっと待ってね」


 そこまで言って、高宮先生は席を立つ。奥の部屋に行ったと思ったら、紙の束を持って戻ってきた。俺たちに見えるよう、机の上に広げる。

 最初に見たのは日本地図。各地に印があり、番号が振られていた。数十を超えるほどのマークがある。


「これは?」

「付き合いのあったグループの所在地。拡大した地図もあるわ」


 そう言われて、別の紙を渡される。こちらにも印があった。赤青黄色で囲まれている。何か意味があるのだろうか。

 代表者や電話番号が書かれた紙もあった。全てではないけど、連絡が取れそうで助かる。


「印の色が違うのは、なぜでしょう?」

「青は親しい付き合いがあり、黄色は連絡先を知っているくらい、赤は話に聞いているだけで訪れたことはない場所ね」


 そういうことか。よく見ると赤色の関係者は、空欄になっている部分が多いな。当然、電話番号の記載もなし。


「この一覧表、使わせてください」

「どうぞ。もし日中に連絡が付かなかったら、夜に改めるといいわ」

「わかりました」


 つまり夜型の人が多いのだろう。さっそく電話を掛けようと思ったが、これから高宮先生は用事があるらしい。無理に口添えを頼むことはできない。

 沢村家に戻ろうと、この場を辞する。帰り際に研究データの一部を頂いた。役に立ててほしいとのこと。


「また、いつでもいらっしゃいな」

「ありがとうございます」

「父や祖父の件で、大変お世話になりました」

「遠慮なく伺おう。今度は研究の話も聞きたい」


 知紗兎さんは上機嫌だ。どうやら先生の研究内容に興味を持ったらしい。俺たちは挨拶を済ませて外に出た。車に乗り込んだら、すぐに知紗兎さんが貰った資料を読み始める。


「参考になりそうですか?」

「今の段階では何とも言えない。だけど読んでいるだけで面白い。こうして見ると日本各地に伝承があるのだな」


 間違いなく純粋に楽しんでいるようだ。資料に集中できるのなら、悪いことではない。


「高宮先生、良い人でしたね。祖父の手紙には変わった人とあったから、ちょっと驚きました」

「実家との関わりを断ち、一人で研究者の道を進んでいる。その行動を変わったと称したのかも」


 俺は運転しながら二人の会話を聞いていた。ふと思ったことがある。


「手紙は三十年ほど前です。時が経って落ち着いた可能性もあるでしょう」

「ああ、確かにな」


 知紗兎さんと梨恵さんは、移動中も情報の確認をしている。ときおり皆で議論も交わした。

 午前中のうちに沢村家へ到着する。これからは分担して作業を進めるつもりだ。梨恵さんには、資料に記載された電話番号へ連絡をしてもらう。本人の強い希望があったのだ。俺は彼女のサポート役と記録係を兼ねている。また知紗兎さんには、沢村家の捜索を頼んだ。




 作業に没頭していると、時が経つのが早い。もう夕刻である。残念ながら、今の時点で成果は出ていない。一休みしてから再挑戦をする。高宮先生の話では、夜が本命だな。


「ダメだ、今日は終わりにする」

「お疲れ様です、知紗兎さん。少し休んでください」


 彼女は調査中に何度も天眼通を使っていた。その負担が掛かっている。電話なら俺と梨恵さんだけでも対応可能だ。

 奮闘むなしく沢村聞太さんの行方は掴めない。そして休憩していた知紗兎さんが戻ってくる。


「そちらの状況は?」

「主に青と黄色の印が付いた箇所に電話しましたけど、ヒットなしです。これから昼に連絡が付かなったところに聞いてみます」

「そうか。無理は禁物だぞ」


 知紗兎さんは、梨恵さんを見ながら言った。


「まだ大丈夫です。今を逃したら、また明日の夜まで待つことになりますので」

「わかったよ。賢悟、気を付けて見てやってくれ」

「承知しました」


 俺が答えた瞬間、スマホから着信音が鳴り響く。手に取って確認するとメールが届いていた。送り主は情報屋だ。調査の完了にしては早いと思ったら、途中経過を伝えるとのこと。

 情報が増えるのは助かる。ただ恒例の取引場所とは少し遠い。そう返信したら、この近くまで出張してくれるらしい。


「情報屋から連絡がありました。このあと会ってきますよ」

「任せる」


 それまでに今の作業を終わらせたい。梨恵さんと協力しつつ、連絡先を総当たりしていった。

 ――夜も更けたが収穫なし。そろそろ切り上げる時間だ。すでに知紗兎さんは、就寝している。連日の疲労も溜まっているのだろう。


「梨恵さん、終わりにしましょう」

「わかりました。ところで今から情報屋さんと会うのですよね。私も一緒に行って構いませんか」

「すみませんが、一人で来るように指示を受けています」


 情報を買う条件には、必ず相手の指定を守ることがある。梨恵さんは残念そうにしながらも納得してくれた。

 準備をしたら、すぐ出発する。時間厳守だから、余裕を持って行動したい。




 沢村家から、さほど遠くない公園。ここが待ち合わせ場所だ。中央まで進むと、辺りを見回す。しかし誰もいない。


「こんばんは。良い夜ね」

「お待ちしていました。それと驚かせないでください」


 いきなり背後から声を掛けられた。振り向いて、情報屋の姿を確認。服装は前と変わらない。

 マスクもコートもサングラスも一緒だ。いつか変質者に間違われそう。


「あら、ごめんなさい。とにかく、データよ。それと地図もあるわ。これも必要になるでしょう」

「仕事が早くて助かります」


 本当に早い。まだ依頼してから数日も経っていない。今回は途中経過とはいえ、迅速な対応である。


「ほとんどは、あらかじめ調べておいたものだからね。世間を騒がす事件を放っておかないわ」

「なるほど、納得しました」


 考えてみれば、情報屋の稼ぎ時と言えるな。さてデータは後で確認するとして、地図が気になる。


「重ねて言うけど、その地図は貴方に必要となる」

「マークが付いていますね」


 高宮先生に頂いた地図を思い出す。なんとなく印の付け方も似ている気がした。調査依頼は人体実験について。関連施設にしては、数が多い気もする。日本全国で何百もあったら、大騒ぎになりそうだ。


「最初に人体実験が可能な施設を示したわ。実際に行っているわけではなく、これだけの設備があれば可能ということね。また明確に白と判断できたものは、含めていないから」

「つまり各地の医療機関のうち、確認が取れない施設を表した地図ですか」


 どうやって裏付けを取ったか、ちょっと気になる。だが聞いても答えてくれないだろう。前に質問したら、商売上の秘密と言われた。


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