13話 秘密の隠し場所
経過を家主に報告したあと、帰路に就く。また佐藤さんへの連絡は、梨恵さんに任せた。
ひたすら夜道を進み、沢村家へ到着。中へ入ると、夕食の準備が完了していた。
「戻ったか。料理は温めておいた。すぐ食べられる」
「ありがたい、腹が減っていたからな。賢悟、飲むぞ!」
ここへ来るまでに、今日の仕事は終わることを梨恵さんに伝えている。飲むのは問題ないそうだ。ただし明日は早朝から捜索の続きである。酒が残らないように、気を付けたい。
食事を取りながら、佐藤さんから沢村聞太さんの話を聞いた。子供時代の父親について、梨恵さんは興味深げに耳を傾けている。そして天耳通のことにも触れた。
「にわかには信じられません。父が普通じゃない力を持っていたなんて」
「言うほど特別ではないさ。誰もが秘めているものだ」
それはどうだろう。
「もしかして天目さんも?」
「よく分かったな」
知紗兎さんは感心したように頷いた。おそらく梨恵さんは今回の追跡で、不審な点に気付いたのだと思う。地図を見ているだけで、確実に車を追っていたからな。分析と推測の結果と言い張ることも可能とはいえ、そこまでして隠すこともないと判断したのだろう。きっと梨恵さんを信用したのだ。
それから天眼通の説明をしていく。普通ならば疑われる話だけど、彼女は真剣に聞いていた。
「その力で父を探し出すことは可能ですか?」
「すでに何度か試しているが、明確な場所は分からない」
「だけど進展はあったと思いますよ。梨恵さん、もう少しだけ時間をください」
手掛かりが増えれば、それだけ天眼通の精度が上がる。当初の目的から変わっていない。
「まあ飲め、お主ら。今は英気を養うとき。それに、あの小僧も自分で帰ってくるかもしれん」
その可能性もゼロではない。希望を持つことは大切だな。そのあと梨恵さんから探し屋の仕事について聞かれた。興味津々という感じである。ただ守秘義務があるので、説明できないことも多い。話せる範囲で語っていく。
そのなかで彼女はある依頼に関心を持つ。タイムカプセルの捜索だ。梨恵さんのところでは、やらなかったらしい。自分も埋めてみたかったと言っている。
「探す方は大変でしたけどね」
「まったく、あれは二度と御免だ」
俺と知紗兎さんの意見が一致した。
「ちょっと待て。そういえば儂が子供のとき、宝物を埋めた覚えがあるな。ずっと行かなかった場所だったが、三十年ほど前に土地の管理者から連絡を受けた」
「何があったのでしょう?」
タイムカプセルと違い、単純に隠す目的で埋めたのだろう。秘密の基地に大切な物を置く気分。ちょっと分かる。
「人の出入りする気配があったとか。そこは儂らの遊び場だった場所だ。仲間内で立ち寄った者がいたか、聞かれた。結局、誰も知らなかったらしい」
そこで佐藤さんは言葉を切る。過去を思い出しているようだ。三十年も前だと、覚えているか心配だな。じっと床を見つめていた。
しばしの沈黙が訪れたあと、やがて顔を上げる。
「その話をしたとき、梨恵ちゃんの祖父は動揺していた」
沢村聞太さんが十歳ころの話だよな。なにか関係があるのかもしれない。探してみる価値はありそうだ。
「宝物とやらを掘り出そう。任せたぞ、賢悟」
「……承知しました」
自分で掘るつもりは皆無か。力仕事は俺の役割だから、納得しておく。だけど、もう少しだけ労わってほしい。これは贅沢な願いなのだろうか。
疲れた顔で知紗兎さんを見ていると、視線を逸らされた。しかも口笛を吹こうとして失敗している。でも途中で誤魔化せないと悟ったようだ。
「わかったよ。上手く発見したら、ご褒美をやろう。ジグソーパズルを手伝わせてやるぞ!」
「はあ、ありがとうございます」
知紗兎さんは本気で言っている。彼女にとってパズルを触らせることは、本当に信頼していることの証らしい。大半の人は褒美と認識しないと思うけど。
とにかく明日の行動は決まった。早朝から宝探しだ。詳しい場所は佐藤さんから説明してもらう。酒と食に舌鼓を打ちつつ、話を聞いた。
そして朝。食事の準備を始めていると、梨恵さんが起きてきて手伝ってくれた。それから佐藤さんも起きたが、朝から畑仕事があるとのこと。すぐ出ると言うので簡単な弁当を渡す。残念ながら今日の捜索には同行できないみたいだ。仕事ならば仕方ない。
風呂と食事の準備は終わった。そのとき知紗兎さんが姿を見せる。一人で起きるとは珍しい。三人で朝食を取ると、彼女は朝風呂。俺と梨恵さんは出発の準備だ。
「――待たせたな」
「いつもの服装ですね」
知紗兎さんは普段のカジュアルな格好だ。一方の俺は上下ジャージ。色は汚れが目立たない黒。草木の深い場所を歩いたり、穴を掘ったりするのだ。それに適した姿である。
「動きやすいから構わないだろ」
「汚さないよう、気を付けてください」
さすがに着替えの数は多くない。
「わかっている。おっと、沢村梨恵も来たか」
「お待たせしました」
梨恵さんは、知紗兎さんと似たような感じの服装だ。これで三人の準備は完了。荷物を車に積んだら、さっそく出発しようか。できる限り進める場所まで行って、そこから徒歩で移動だな。すでに佐藤さんを通じ、管理人から許可を貰っている。
てきぱきと動き、全員が車に乗り込んだ。知紗兎さんの合図で車を発進させる。
しばらくして木々が生い茂り、通行が不可能な場所まできた。佐藤さんに簡単な地図を描いてもらっている。それによると目的の場所は、まだまだ先である。今は放置されている土地らしく、整備も行き届いていない。
この周辺は同じような土地が多いとか。後継者が不足しているのだろう。
「ここからは歩きか。まったく大変そうだ」
「仕方ありませんよ」
知紗兎さんの言葉を否定しながらも、内心では同意だ。とにかく荷物を降ろす。俺と梨恵さんはリュックを背負った。さらに全長1メートルほどの剣先スコップを括り付ける。一人で掘るつもりだけど、用意したのは二本。一本は予備である。
手には鎌を持ち、草木を刈る準備をした。かなり長い間、手入れがされていない道だからな。植物も伸び放題と考えられる。本当に酷い場所だったら、鎌の出番。使わずに進めれば助かるのだけど。
「まあ、いい。先頭は任せた」
「アイアイサー」
冗談めかして答えつつ、先に行く。知紗兎さんは地図を持ち、梨恵さんは彼女のサポートをしてくれる。ありがたいことだ。
一時間ほど歩いたところで、知紗兎さんが立ち止まる。
「疲れた。本当に子供の足で行ける距離なのか?」
「昔は歩きやすかったのでしょう、きっと」
それでも確かに遠い。でも言ったら余計に疲れそうだ。地味に上り道が続くのも疲れる要因だろう。
ほぼ無言で歩く、もう一人の女性に視線を向けた。彼女も足取りが重そう。
「大丈夫ですか?」
「……は、はい」
何度か様子を見たけど、だんだん疲労が積み重なっているみたいだ。
「なぜ沢村梨恵ばかり気に掛ける! もっと私を労わりたまえ!」
「依頼者に気を遣うのは当たり前です」
また最初に会ったときと比べ、知紗兎さんも多少は体力がついたと思う。だから彼女に関しては、それほど心配していなかった。あと1時間くらいは歩けるはず。ただ水分補給には気を付けないと。
知紗兎さんに水筒を渡すと、一気にあおる。
「はぁ、生き返る!」
「水分補給は、小まめに少量ずつが鉄則でしょう!」
「細かいことは気にするな! 予備は用意しているだろ」
あるけど、そういう問題ではない。とにかく進むか。地図を確認してから、再び歩き出す。また1時間ほど移動した場所で、休憩に良さそうな岩を見付けた。
ここで小休憩を取る。言い出したのは知紗兎さんだけど、俺も賛成だ。




