縁の目には霧が降る
初投稿です。ヤンデレに愛されて幸せ系が読みたい欲に負けて、ことわざから妄想を肉付けしてみました。
よく晴れた、温かい日。鳥達は歌う様に囀り、花は優しい風に吹かれ、さわさわと揺れる。
国で1番大きく美しい協会。大勢の人に見つめられ神父の前に立つ男女。
普通なら和やかな空気に包まれるはずのそこはしかし、固く緊張した空気が流れていた。
参列者達は大きな新郎の横に立つ小柄な新婦を、憐れみを含んだ目で見つめていた。
白く柔らかな盛装に包まれた新婦は下を向き、表情は見えない。だが、その体は微かに震えていた。
それはそうだろうな。
女性の隣に立つ男は心の中で自嘲気味に笑った。なにせ彼女は16歳、少女と呼べる年齢だ。身体だって自分の胸程しかない。
彼女に似合うのはきっと、優しく穏やかな王子様のような男だ。間違っても己のような男ではない。
わかっている。16歳も年上で身体も大きな自分は彼女にとって恋愛対象ではないだろう。それどころか己の意思を無視して強引に結ばれた婚姻関係で、恐怖すら感じている。
わかっている。自分はけして、彼女から好かれることはないだろう。
わかっている、わかっているのだ。だがそれでもーー。
「それでは、誓いの口づけを」
向かい合った彼女の顔にかかる薄布をそっとめくる。現れた顔は強張り、目は溶けた飴の様に潤んでいた。
どこかで期待していた自分に言い聞かせる。わかっていただろうーーと。
ゆっくりと瞼が閉じられ、釣られるように唇を合わせた。
初めて触れた彼女の唇はひんやりとして、少し震えていた。
唇を離すと、彼女の瞼がゆっくりと開く。
長い睫毛から頬へポロリと流れた涙。
綺麗なそれを唇ですくいとる。
「ーーっ!」
息をのみ目を見開いた彼女の耳元で囁いた。
「君は死んでも私のものだ」
絶対に逃さないーー。
ベッドに座り、わたくしはその時を待っていた。
なにせ今から夫となった人と初夜なのだ。緊張で身体は震え、目は潤み、指先は冷えている。紛らわす様に、今日の結婚式を思い返す。
自分の夫は己よりもずっと大きく、がっしりとしている。目つきも鋭く口は固く結ばれていた。背筋もぴんと伸びて、隙なく着込まれた騎士団の礼装と相まって、彼を更に大きく見せていた。
一目見た瞬間、身体が震えだすのを止められなかった。
直視しない様にしながら結婚式にのぞんだが、最後の口づけの時にうっかり彼の煌めく飴の様な目と合って、涙が溢れてしまった。
唇と頬に触れた感触を思い出して、さらに胸がどきどきと騒ぎ出す。
耳元で響いた甘くて低い声。
死んでも私のもの、なんてーー。
「なんて素敵なのかしら!」
ほぅ、と口から漏れた息には、隠しきれない熱がこもっていた。




