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第七話 俺は誰だ? ( 2/6 )

 テーブル席に座った義姉は、子供の様にキョロキョロと周りを見渡していた。


「おおお……」


 テーブル横のコンベアが丸いお皿を次々と運んでいた。

皿には何種類かの色があり、そこに乗っている食べ物も赤だったり白だったりと様々だが、殆どが米を小さく握ったものの上に乗っており、それが二つ一組になっていた。


「回転寿司っていう店なんだけど、気に入った?」


 義姉は小刻みに三回頷いていた。


「で、でもこれ生魚だろ?これを取ってテーブルの上で焼くのか?」


「あー……いや、生のままでも食べれるよ。生魚、苦手だったら肉巻きとかもあるけど、そっちにする?」


「ここは日本人が祝い事に使う、生魚を食べる場所なのだろう?だったらせっかくだから生魚にしよう。どれがオススメなんだ?」


「そうだね、百円のお皿なら六つ頼めるから、それをシェアしようか。王道で行くなら、マグロ、サーモン、ハマチ、イカ、あとは....エビ、エンガワ、かな?」


「うむ、言われても分からん。それにしよう。」


 俺がタッチパネルで注文するとそれらはすぐに運ばれてきた。

六つの皿をテーブルの上に並べて、お茶を二つ入れ、箸をとって義姉に一膳手渡した。


「で、この醤油をかけて、箸でつまんで口に運んで食べる」


「醤油って、このボトルか?何個かあるけど、どれがいいんだ?」


 醤油は四つあった。

それぞれ違った風味の醤油だったが、俺は店の名前の書かれた一番大きなボトルを取ると、義姉に差し出した。


「多分これが一番食べやすいかな?気になるなら、全部味見てみる?」


「いや、これがオススメならこれにしよう」


「ちょっとでいいからね、醤油のかけ過ぎは身体に良くないんだ」


「じゃあかけない方がいいのか?」


「ああいや、えーーとね、かけた方が美味しいというか……」


「一時の快楽を得る為に寿命を縮めるかどうかを、今ここで選べというのか」


「そんな重い話じゃないよ!ちょっとなら寿命なんて縮まないよ!」


 思わずツッコミを入れてしまったが、義姉は至って真面目に質問していただけだったのかもしれない。


「分かった。じゃあ、この国の民に適量を教えて貰おうか」


 義姉は俺に醤油のボトルを渡すと、寿司に醤油をかける仕草をじっと見つめていた。とりあえずマグロの皿に醤油をかけ終わると、ボトルを机の上に置いた。


「三滴が適量なのか?」


「ごめん、もう許して」


「ん?」


「ああ、いや、じゃあ食べようか」


「この二本の箸を使うんだな?」


「そうそう、これをこうやって……」


「ところで」


「うん」


「この箸という道具を使うのは日本だけなのか?」


「いや、そんな事はないよ。中国や韓国、ベトナムでも使うんだったかな?意外と結構多かったはずだけど…」


「ほーん。箸が二本、この国も日本。その心は、なんだろうな?ハハハ」


「黙って食え!」


 俺と義姉はマグロを一貫ずつ箸で掴んだ。

箸を使って口に入れようとしていた義姉だったが、手で摘んでもいいと教えると、奮闘した末に最後は諦めて手で摘んで口に入れた。


「おおお、魚の割にちょっと肉っぽい感じもする不思議な味だな」


「肉?あー、でもちょっとわかるかも、ツナ缶とか肉っぽさあるしね」


「生でこれだけ美味かったら、焼く必要はないな」


「そうだね。お茶を飲むと、口の中がリセットされて生臭さも消えるよ。辛いの苦手じゃないならそのワサビを付けても美味しいし」


「これは付けても寿命は縮まないか?」


「……おう」


 義姉はワサビの小袋を一つ取るとそれを引っ張っていた。

思ったよりも簡単に小袋が切れた事を不思議そうに見ていた。

袋の横にとても細かい切り込みが無数に入っている事を興味津々に見ていた。


「ほうほうほうほう、ほう」


「えーと、ところで何か話があるんだよね?」


「そうだった。今日決めておきたい事がある。私たちの名前だ。出逢って半日経つのに、まだ私たちはお互いの名前を知らない」


「いや、教えてないってわけじゃなくて、本当に知らないんだよね、俺は誰なんだ?」


「それも今、説明する。でもその前に、まずは名前だ。毎回、ガキだの人間だの下僕だのと、呼び方が変わっては面倒だろう?」


「最後の呼ばれたことある!?」


「もっと色々呼び方を増やしたかったが……」


「よし、名前を決めよう」


「私には本来の名前があるし、下僕には名前がない。つまり、私のセンスに合わせて、二人の名前を決めた方が自然な名前が付けられると思うのだが、どうだ?」


「いや、もう少ししたら思い出すかもしれないんだけど、それ今ここで決めなきゃダメ?」


「私なら、例え今ここで一時の快楽を得る為に寿命を縮めるかどうかの選択を迫られたとしても、選んでみせよう」


「…よし、いま決めよう」


「この国に来て、最初に見た木に咲いていた、あの白い花の名前が良い。あれは何という花だ?」


(さくら)


「じゃあ、私の名前は(さくら)だ。で、お主の名前だが」


 ペルセポネは、テーブルの寿司を指差した。


「これだ、寿司(すし)だ。私はこれが気に入った。発音的にちょっと言いにくいから、ズシ、スジ、スシ、ズシ、スジ、スシ……よし、ズシと名付けよう」


「俺、絶対そんな名前じゃないと思うけど?」


「ズシだ」


 義姉は問答無用とばかりに威圧の篭った眼差しを向けてくる。


「はい」


(さくら)とズシ……揃えた方がいいな」


「え?」


「私は……サクだ」


「ラはどこに行ったの?」


(さくら)とズシラでもいいぞ?」


「サクとズシでお願いします」


 サクは山盛りのワサビをサーモンに塗りつけていた。一体何袋分の量なのだろうか。オレンジの色が見えなくなった寿司に醤油を三滴垂らすと、手で掴んで口の中に放り込んだ。

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