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第一話 あの世から生き返った青年の物語( 1/3 )

 子供の頃に古い映画で見たことがあった。

風が吹き荒れプラズマの発生と共に時空を超えて、未来の英雄の誕生を阻止する為にやってきた殺人ロボットのように俺はそこに現れた。

とでも思わなければ、とても正気でいられない心境だった。

要するに、ただ全裸でうずくまっていただけだった。


 真昼間の公園の、敷き詰められた芝生の上に、更にレジャーシートがところ狭しと敷き詰められていた。

そして、そこに座る人々の形容のしづらさときたら、スーツ姿、制服の学生、私服の老若男女、野球部のユニフォームを着た高校生に、アニメのコスプレを纏うグループに至るまで多種多様。

人種のサラダボウルならぬ、服装のサラダボウルとでもいったところか。

因みに当方、全裸なわけなのだが、こちらはそのボウルの中には入れてもらえるのだろうか。


 気付けばその場のほぼ全員がこちらを向いていた。

なぜこちらを見る。

君たちは花見をしにきているのだろう。

公園に等間隔に並んでいる美しく立派な桜の木々を。

俺は立ち上がり、目の前にいる者たちの本来の目的を思い出させるように桜を見ることにした。

短い期間しかお目に掛かる事のできない桜の木を。

まだこちらを見ている。

俺はおもむろに桜を見上げて呟く。


嗚呼ああ、桜って思ったほどピンクじゃないんだな」


 舞う花びらの色は殆ど白といってもいい。

白にピンクが仄かに混じる、気品に満ちた色だった。


 奴らの視線は変わっていない━━そんなに裸が珍しいか貴様ら。

もはやここで花見をしているのは俺だけではないのだろうか。


 日本人特有の、道を踏み外した者へ向けるカミソリの刃のような視線。

ネットで見かけたような、昔の景気の良い時代の話であれば酔って全裸になっていた輩が他にも何人かいたかもしれないが、それも現代では叶わぬようだ。

上半身を晒しているものすら見当たらない。



「ちょっときみーお話聞かせてもらってもいいかしらー」



 声のする方向から、右腕を掴まれた。

振り返ると中年と若年の警察が立っていた。

話しかけてきたのは中年の方で、掴んでいるのは若年の方だった。

俺の右手を強く掴み、訝しげな目でこちらを見ていた。

怯えているのだろうか、どうやら新米警官のようだ。そして女性だ。

こんな春の公園で全裸で突っ立っている男は、まごう事なき不審者なのだから、全くもってこの新米警官の反応は間違っていない。

そして中年の警官は、呆れ顔で何かの端末を触っていた。

あー、今年もアホが出たかとでも言わんばかりの面倒臭そうな表情で、何かを入力していた。

考えてみれば危険物の一切を身につけておらず、またこのような場所なので酔ってハメを外した頭の悪い学生か何かだと思われているのだろう。


 というか、普通に犯罪である。

公然わいせつ罪。

受ける罰は6ヶ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金。

して、その条件は、

不特定または多数の人が認識することのできる状態で、わいせつな行為をした者。

つまりこの状況━━まさに俺である。

厄介なことになってしまった。

穏便にすまさなければと考えていたら、中年の方が問いかけてきた。


「おにーさんおなまえはー?」


「…俺のなまえ、なんでしたっけ?」


「どこ住んでんの? この近く?」


「…ここは何処ですか?」


「身分証、どこかその辺に置いてある? 脱いだ服とかその辺にある?」


「…いえ、気付いた時にはこの格好で」


「誰かと一緒に来た?」


「…多分、1人です」


 警官の問いかけに何一つ答えられなかった━━俺はいったい何者なのだろうか。

そして、次の質問に答えたことで警官の目が細まる。


「お酒は?」


「…飲んでません。」


 つまり俺は、シラフでありながら公衆の面前で全裸で立っていたのだ。

警官の俺の腕を引っ張る力が増していて、思わず身体が傾きそうになったその瞬間━━俺は左の腕も掴まれていた。

振り向くと、若い女が立っていた。

黒く長い髪、そして黒を基調としたコスチューム。


警官と女性に左右から腕を引っ張られ、俺の体勢は綺麗なTの字となっていた。

両手に花とはこういう状況を言うのだろうか━━おそらく違う。


ところでこの状況、もし仮に俺が公然わいせつ罪に問われるとするならば、この2人も共犯にあたるのではなかろうか。

俺この後どうなるんだろう…それにしても桜が綺麗だな…

元の話


 子供の頃に古い映画で見たことがあった。

風が吹き荒れプラズマの発生と共に時空を超えて、未来の英雄の誕生を阻止する為にやってきた殺人ロボットのように俺はそこに現れた。

とでも思わなければ、とても正気でいられない心境だった。

要するに、ただ全裸でうずくまっていただけだった。


 真昼間の公園の、敷き詰められた芝生の上に、更にレジャーシートがところ狭しと敷き詰められていた。

そして、そこに座る人々の形容のしづらさときたら、スーツ姿、制服の学生、私服の老若男女、野球部のユニフォームを着た高校生に、アニメのコスプレを纏うグループに至るまで多種多様。

人種のサラダボウルならぬ、服装のサラダボウルとでもいったところか。

因みに当方、全裸なわけなのだが、こちらはそのボウルの中には入れてもらえるのだろうか。


 気付けばその場のほぼ全員がこちらを向いていた。

なぜこちらを見る。

君たちは花見をしにきているのだろう。

公園に等間隔に並んでいる美しく立派な桜の木々を。

俺は立ち上がり、目の前にいる者たちの本来の目的を思い出させるように桜を見ることにした。

短い期間しかお目に掛かる事のできない桜の木を。

まだこちらを見ている。

俺はおもむろに桜を見上げて呟く。


嗚呼ああ、桜って思ったほどピンクじゃないんだな」


 舞う花びらの色は殆ど白といってもいい。

白にピンクが仄かに混じる、気品に満ちた色だった。


 奴らの視線は変わっていない━━そんなに裸が珍しいか貴様ら。

もはやここで花見をしているのは俺だけではないのだろうか。


 日本人特有の、道を踏み外した者へ向けるカミソリの刃のような視線。

ネットで見かけたような、昔の景気の良い時代の話であれば酔って全裸になっていた輩が他にも何人かいたかもしれないが、それも現代では叶わぬようだ。

上半身を晒しているものすら見当たらない。



「ちょっときみーお話聞かせてもらってもいいかしらー」



 声のする方向から、右腕を掴まれた。

振り返ると中年と若年の警察が立っていた。

話しかけてきたのは中年の方で、掴んでいるのは若年の方だった。

俺の右手を強く掴み、訝しげな目でこちらを見ていた。

怯えているのだろうか、どうやら新米警官のようだ。そして女性だ。

こんな春の公園で全裸で突っ立っている男は、まごう事なき不審者なのだから、全くもってこの新米警官の反応は間違っていない。

そして中年の警官は、呆れ顔で何かの端末を触っていた。

あー、今年もアホが出たかとでも言わんばかりの面倒臭そうな表情で、何かを入力していた。

考えてみれば危険物の一切を身につけておらず、またこのような場所なので酔ってハメを外した頭の悪い学生か何かだと思われているのだろう。


 というか、普通に犯罪である。

公然わいせつ罪。

受ける罰は6ヶ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金。

して、その条件は、

不特定または多数の人が認識することのできる状態で、わいせつな行為をした者。

つまりこの状況━━まさに俺である。

厄介なことになってしまった。

穏便にすまさなければと考えていたら、中年の方が問いかけてきた。


「おにーさんおなまえはー?」


「…俺のなまえ、なんでしたっけ?」


「どこ住んでんの? この近く?」


「…ここは何処ですか?」


「身分証、どこかその辺に置いてある? 脱いだ服とかその辺にある?」


「…いえ、気付いた時にはこの格好で」


「誰かと一緒に来た?」


「…多分、1人です」


 警官の問いかけに何一つ答えられなかった━━俺はいったい何者なのだろうか。

そして、次の質問に答えたことで警官の目が細まる。


「お酒は?」


「…飲んでません。」


 つまり俺は、シラフでありながら公衆の面前で全裸で立っていたのだ。

警官の俺の腕を引っ張る力が増していて、思わず身体が傾きそうになったその瞬間━━俺は左の腕も掴まれていた。

振り向くと、若い女が立っていた。

黒く長い髪、そして黒を基調としたコスチューム。


警官と女性に左右から腕を引っ張られ、俺の体勢は綺麗なTの字となっていた。

両手に花とはこういう状況を言うのだろうか━━おそらく違う。


ところでこの状況、もし仮に俺が公然わいせつ罪に問われるとするならば、この2人も共犯にあたるのではなかろうか。

俺この後どうなるんだろう…それにしても桜が綺麗だな…

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