第四話 破壊された星
「どこかに出口はないかしら?」ナイルがイヴに言った。
「探してみましょう。」
イヴが辺りを照らす。正面にドアらしきものが見えたが、瓦礫で塞がれている。左手側は壁がくずれ、移動することができそうだ。二人は瓦礫を乗り越えて隣の部屋に入った。そこにはコンピュータらしきものが複数台置かれていたが、乱雑にちらばっており、動作はしていないようだった。
「これ、動かないかしら。」
「私の電力を与えれば動く可能性はありますが、やってみますか?」
「ええ、お願い。ケーブルを探してみるわ。」
ナイルは比較的無事そうなコンピュータのケーブルを探し、イヴの右腕にある端子に合うように即席でケーブルを加工した。
「工具を持ってきておいて良かったわ。」
イヴの右腕にケーブルの端子を差し込んで、テープで固定した。
「いいわよ。」
イヴが電圧をかけた。すると、コンピュータが起動した。
「生きてる!」
さっそくイヴがモニタを見ながらコンピュータを操作する。
「ネットワークには入れないようです。ローカルデータを探ってみます。」
ローカルデータはそのコンピュータだけに入力されている情報だ。
「一番新しいデータは 宇宙暦13,556年ですね。」
キュロスが侵略してきたのが13,505年だから、その約50年後だ。イヴはもう機能を停止している時期になる。
「何か情報はない?」
「いえ、ローカルデータしか持っていないので・・・あ。」
「どうしたの?」
「先ほど、転送ゲートを通る前、場所コードを確認しておいたんです。それで、元の惑星が何という惑星かが分かったのですが・・・。」
「私たちの住んでいる星の名前はサイスだけど。」
「いいえ。あの星の本当の名前はPNT-16という惑星です。」
「そう・・・それで?」
「このコンピュータのデータによると、PNT-16という惑星は13,515年にキュロスによって破壊されたそうです。」
「あ、君の機能が停止した年だよね?」
「はい・・・。そうなんですが・・・。」
「他にも何かあるの?」
「いえ、マスター。」
ナイルとイヴは他のコンピュータも調べてみたが、やはりどれも13,556年で停止していた。恐らく、この年にこの惑星もキュロスによって破壊されたのだろう。だがキュロスは街を破壊した後、この地に住んでいないのだろうか?
それ以上の手掛かりは何も得られないと考え、ナイルとイヴは戻ることにした。再び転送ゲートをくぐった。
「一旦転送ゲートを切りますね。」
「お願い。」
イヴが転送ゲートの接続を切った。
「ねえ、イヴ、イヴが知る限りでいいから、キュロスと人類の戦いについて教えてもらえないかしら?」
「はい。この世界に侵入してきたキュロス達は宣戦布告することもなく、人類を攻撃してきました。時には惑星に降り立って。時には惑星上空から爆撃して。人類も反撃しましたが、私の知る限り、キュロス軍の方が優勢でした。」
「その戦いの中で、この惑星も攻撃されて、恐らく君を作った工場も爆撃されて、君は機能を停止したのね。」
「私の記憶と、先ほどのコンピュータのデータを合わせると、そのような結論になりますね。」
「分かった。ひとまず、この転送ゲートは持ち帰りましょうか。イヴ、運べる?」
「はい、問題ありません。」
イヴは転送ゲートを持ち上げ、飛行した。
「先に帰って、家の横にでも置いておいてもらえるかしら?」
「はい、マスター。」
そう言って、イヴは飛んで行った。
「そう言えば、破壊された星なのに、私たちは何でまだ生き残っているのかしら?」
ナイルはふと疑問に思った。侵略が目的なら、人類に代わってこの地を支配し、この地に住むのが普通だ。でも、この惑星にキュロスはいない。破壊するだけ破壊して、手放したのだろうか?