第二話 守護者
ナイルは再びイヴを人型に変形させた。
「御用ですか?マスター。」
「色々と君の体、調べさせてもらっていいかしら?」
ナイルは研究者としての好奇心が抑えらえなかった。毎日機械部品をいじっていたが、これほど好奇心を掻き立てる機械はこれまでになかった。
「はい、ご自由に、マスター。」
体は人間と同じように関節がある。どれも小さな部品で精巧な作りだ。背中にはリュックサックのようなものを背負っており、右手には銃のような武器を持っている。
「これって銃なの?」
ナイルが銃を指さしながら言った。
「はい、銃です。撃ってみましょうか?」
「ううん、ここでは撃たないで。後で外に出て撃ってみましょう。弾はどうしてるの?」
「弾はありません。エネルギー弾です。」
「そうそう、不思議だったんだけど、あなたの動力は何?」
「核融合による半永久機関です。」
「かくゆうごう?ってよく分からないけど、ずっと動けるのね。」
「ずっとという訳ではありませんが、ほぼずっと動けます。この地にもエネルギーの材料となる物質はあるので、不足したら足しています。現時点では不足はありません。通常は熱エネルギーをイオン間相互エネルギーに変換して、それをバッテリーにして動いています。」
「凄いのね!この背中に背負ったリュックサックみたいなものは何?」
「これは空を飛ぶ装置です。」
「空を飛べるの?」
「空でも宇宙でも水中でも動けます。」
「ちょっと飛んでくれない?外に行ってみようか。」
ナイルとイヴはナイルの研究室を出て、外に出た。出る途中に姉がイヴを見て驚いていた。
「じゃあ、イヴお願い。」
「少し飛ぶだけですか?」
「そう。少しでいいわ。」
イヴは背中のブースターからエネルギーを放出し、空を自由自在に飛んだ。そしてまた地上に降り立った。丁度その時、姉も母と一緒に家から出てきたところだった。
「ねえ、これ、何?」姉のルディアが聞いた。
「イヴよ。」
「イヴ?どういうこと?」
「ボタンを押したら人型に変身したの。」
「イヴって変身するの?」
ルディアはこれまで3年ほどイヴを見てきたが変身するところなど見たことがない。母親の方を見ても首を振った。
「じゃあ、もう一つ、その武器で攻撃してみて。」
「どこを攻撃しますか?」
「じゃあ、あの丘とかどうかしら?」
家の横にはずっと荒れ地が広がっており、100mほど先には丘があった。あの方向に向けて撃ったらどうか、という提案だった。
「分かりました。」
イヴはそう言うと、数m空中に浮かんだところで停止し、銃口を丘に向けた。そして銃を発射した。銃からは音もなく、青い光が発せられ、丘に当たった。当たった瞬間、凄まじい爆音とともに、丘が爆発し、粉々に砕け散った。数秒遅れて、ナイルたちに爆発の際に起こる爆風と熱が届いた。
「え・・・」3人は口をぽかんと開けたまま固まった。
目の前で、物凄い爆発とともに近くの丘が消滅してしまった。凄い威力だ。イヴが地上に降りてきたところで、ナイルは言った。
「イヴ、この銃は、今後、使わないで。」
「はい、マスター。」
「大丈夫?こんな危険なロボット。」姉のルディアが不安そうにナイルに言った。
「大丈夫だと思うよ。だって私がマスターだから。さっ、家に入りましょう。」
3人は家に入った。
「人型のとき、この姿のままじゃなんだか可愛そうだから、何か服を着せてあげたら?」
母親が人形からはぎ取った服を持ってきて、イヴに着せてあげた。
「あー、似合う。小さい妹ができたみたい。」ルディアが言った。
「そう言えば、イヴ、イヴは女なの?」
「私に性別はありません。」
簡単な答えが返ってきた。確かにロボットに性別はない。
「じゃあ、女の子ってことにしておいてね。」
しばらく着せ替えを楽しんでいたところ、ドアを叩く音が聞こえた。
ドアの前にはオアシスの村人が集まっていた。
「この辺りで大きな爆発音が聞こえたんだけれども。」村人の一人が言った。
「ああ、何でもないんです。」
「あの丘、なくなっているんだけど?」
「あはは、あれ、私の研究で、丘を爆破しちゃって・・・なんて。」
「そんな危険なことをされちゃあ困るんだよねえ。」
「そうですよね。ごめんなさい。もうしませんから。」
「頼むよ、ナイルさん。研究好きなのは知ってるけど、あまり派手にやられると、警察が出動してくるんでな。」
「ええ、もちろんです。今後気を付けます。」