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見捨てられた惑星  作者: 桂木 おいも
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第一話 ナイルとイヴ

荒涼とした大地が広がる砂の海の中にポツンと木々が生い茂るオアシスがあった。そこでは人々により農作物が作られ、自給自足の生活が営まれていた。


「ナイル、そこにあるクワを取ってくれない?」


「はい。お姉ちゃん。」


父が北の街ロードタウンに出稼ぎに出かけてから、農作業はずっと姉妹2人で行っている。家の前には小さな畑があった。そこで採れる農作物はわずかだったが、それでも多少なりとも食料の足しにはなった。


「今日も雨は降らないね。」


「うん。水汲みが必要ね。ナイル、申し訳ないけど、行ってきてくれない?」


「分かったわ。でもいつかはオアシスからここまで用水路を引きたいと思っているのよ。」


「そうね。分かったから、行ってきてくれない?」


ナイルは猫のようなロボットを連れて、オアシスまで水汲みに出かけた。小さな畑とはいえ、農作物にくまなく水をまくには少なくとも3往復はする必要がある。比較的オアシスまでは近い距離だったのが救いだったが、それでも重労働だった。


「イヴ、お前も水汲みができればいいのだけれど。」ナイルは小さな猫のようなロボットに話掛けた。


イヴと呼ばれたロボットは「ピポパポ」と言うだけで、会話はできない。それでもナイルにとっては話掛ける相手がいるだけでもありがたい存在だった。


「お姉ちゃんはああ言うけど、本当に用水路ができたらいいと思わない?毎日こんなバケツを2つも持って3往復もするのは大変よ。」


イヴは足の周りをウロウロするだけで何も答えない。


「あれ、イヴ、もしかして、右足の調子が悪いの?後で帰ったら診てあげるね。」


そうは言ったが、このロボットはかなり精巧に作られており、ナイルには直すような技術も材料もない。ただ油を差すだけだ。不思議なことに、イヴは3年前に砂漠の真ん中で見つけてから、ずっと動き続けている。物が動くためには何らかのエネルギーが必要だ。それは人間もロボットも同じことだ。だが、イヴと名付けられた猫のようなロボットは、何もしなくても動き続けていた。


「君は何をエネルギーにしているんだろうね?」


イヴの動きはとても滑らかだ。関節も猫と同じくらいあるのだろう。これを作り出せるような技術はここにはない。ただ、物凄く精巧に作られたロボットの割には、何の役にも立たない。呼べば付いてくるので、自分の名前は理解しているのだろうと思うが、他の言葉を理解しているとは到底思えない。たまに「ピポパポ」と言うことがあるが、何か法則性があるわけでもない。


「君を作り出せる世界って、どんな世界だろうね?きっと裕福で、心にゆとりがある世界なんだと思うわ。だって、何の役にも立たない、こんなロボットを作るなんて、余程の暇人にしかできないわ。」


ナイルは3回の水汲みが終わった。だが、水汲みはまだ終わっていない。洗濯、食事、風呂用に、少なくともあと2往復はしなければ水は足らない。


「もう水汲みだけでヘトヘトよ?私には帰ってすることがあるんだから。」


ナイルは砂漠で拾ってきた様々な機械部品をいじることを日課としていた。最初は何をするものかさっぱり分からなかった部品も、色々と調ているうちに、少しづつ理解できるようになってきた。


ナイルは水汲みの仕事を終え、ようやく自分が没頭できる趣味にとりかかることにした。


「あんた、また機械をいじってるの?」


姉のあきれたような声が聞こえる。だが、無視だ。この研究が役に立つ日はきっと来る。ナイルはそう信じていた。


「あなたの部屋から飛び出しているこの大きなガラクタ、どうにかならない?」


「うん、後で片づけるよ。」


姉がガラクタと呼んだものは、腰ほどの高さの四角い金属の塊だ。表面に「zero」と書かれている。調べてもうんともすんとも言わないので、部屋の外に放置していたのだ。


「さあ、イヴおいで。右足を治さないとね。」


イヴを持ち上げ、右前足の付け根に油を差そうとしたとき、首の下のあたりに小さな三角形の突起物があるのに気付いた。


「あれ?君、こんなところに突起物あったっけ?」


思わずナイルはその突起物に触ってみた。すると、イヴの体の隙間がパアッと明るくなり、周囲を照らした。


「何っ!?」


イヴの体は原形がなくなるまで分解され、組み立てなおされていく。そして、イヴはナイルの半分ほどの背丈の人間の姿に変身した。体は金属で覆われ、手には銃のようなものを持っている。頭も顔も金属で、目だけが猫のときのままだ。体つきは何となく女の子に見えた。


「敵ですか?マスター。」イヴは滑らかな口調で話した。


ナイルは目の前で起こったことが理解できず、固まったままだ。


「あ、あ・・・あなたは?」ナイルは恐る恐る聞いた。


「私はマスターにイヴと名付けられたAG-205守護者(ガーディアン)です。」


「ガーディアン!?」


「はい。私はキュロスからマスターの身を守るために作られました。」


「キュロス?」


「キュロスは異世界から来た侵略者です。」


「そんなもの聞いたことはないけれど・・・」


「宇宙暦13,505年、恒星メビウスと惑星ハイドラとの間に突如ゲートが開き、この世界にキュロスが侵略してきました。」


「ちょっと待って。宇宙暦って何?」


「人類が初めての宇宙戦争を経験し、終結したその翌年を宇宙暦0年とした、全世界で定められた共通の暦になります。」


「私、宇宙暦なんて知らないわ。今は入植暦3,058年よ。」


「私はしばらく機能が停止しており、正確な年数は分かりませんが、今が宇宙暦13,515年以降であることは間違いありません。」


「まあ、よく分からないけどいいわ。あなたのことはイヴでいいの?」


「はい、私はイヴです。」


「じゃあ、イヴ、これからもよろしくね。」


「はい、マスター。」


ナイルが手を差し伸ばすと、イヴも手を伸ばした。イヴの手は小さい。だが、しっかりした頑丈な手だ。イヴを持ち上げてみると、軽い。見た目が金属なので、重いかと思ったが、とても軽かった。重さは猫のイヴと同じなのだ。


「驚いたわ、イヴ。突然人間に変身するんだもの。」


「はい。首の下あたりにあるボタンを押すことで人型に変身します。猫型に変わるときも同じです。このボタンを押すと・・・」と言いながら、イヴは首の下のボタンを押した。イヴはまた細分化され、元の猫の姿に戻った。


「ボタンを押すと猫に戻るのね・・・」ナイルはイヴが言えなかった言葉を補った。


目の前には猫型のロボットがいた。いつもと変わらない、イヴの姿だ。


「驚いたわ、イヴ。あなたが変身できるなんて。」


猫型のロボットはナイルの話など聞いていないように、「ピポパポ」と言いながら、ナイルの足元に来て、座った。



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